コカ・コーラに学ぶ指標転換とブランド戦略の再現可能性

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コカ・コーラはこの20年間、新規消費者の純増がほぼゼロという停滞に陥っていた。しかし指標の見直しとマーケティング体制の再構築により、グローバルCMOマノロ・アロヨ氏の就任以降、1億6000万人の新規消費者獲得という成果を上げた。本記事では、その「なぜ機能したか」の構造を、スタートアップやアグリテック企業が応用できる粒度まで分解して解説する。

売上拡大や顧客基盤の停滞に悩む企業にとって、巨大企業の事例は一見遠い話に思えるかもしれない。しかしKPI設計や組織の絞り込みという打ち手は、企業規模を問わず応用可能な普遍的な構造を持っている。

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ブランド愛からの脱却という発想転換

2020年就任当時、コカ・コーラは3つの課題を抱えていた。約20年間総消費者数が増えていないこと、デジタルマーケティングへの対応が遅れていたこと、そして約2000の施策・年間3000の新商品・6000社超の代理店という過度な分散である。

アロヨ氏が最初に着手したのは、長年の主要指標だった「ブランド愛(brand love)」からの転換だった。ブランド愛のスコアが上がっても、必ずしも事業成果に結びつかないという課題意識があったためだ。そこで同社は「総消費者基盤(total consumer base)」という行動ベースの指標を、損益への因果関係・相関関係を示す主要指標として採用した。

これは「好意度を測る」から「行動変化を測る」への転換であり、マーケティング投資の評価軸をブランディングから事業成果に直結させる試みといえる。

4つの重点領域

指標転換と同時に、コカ・コーラは以下4つの領域に焦点を当てた。

  • ポートフォリオの整理・縮小
  • より大胆で規模の大きいイノベーションへの集中
  • 効率と効果を高めるデジタルマーケティングへの移行
  • 社内外のマーケティング運用体制の再設計

ブランド数は400以上から約170まで絞り込まれ、運用とサプライチェーンの簡素化につながった。うち32ブランドが10億ドル規模のブランドに成長しており、スプライトやファンタ、パワーエイド、スマートウォーターなど多様なカテゴリーで構成されている。

体験設計がもたらす「記憶構造」という考え方

アロヨ氏は「ブランドとは約束であり、長く記憶に残る体験を通じて届けられるもの」と説明する。同社のデータによれば、飲料カテゴリーにおける記憶形成の半分は、消費者がブランドと最初に接触する瞬間(オフライン・オンライン問わず)で生まれるとされ、小売体験の重要性が高いことが分かる。さらにAIが浸透する時代だからこそ、スポーツ・音楽・食・文化・エンターテインメントといったライブ体験がブランドの差別化要因になるという。

この「製品・小売・ライブ体験」をつなぐ結合組織として位置づけられているのがデジタルである。2019年時点でメディア予算のデジタル比率は30%未満だったが、2026年末までに約70%に達する見通しだという。この変化を牽引したのが、2021年に設立された「Studio X」という、クリエイティブとメディアを共通のデータ・技術基盤で統合するグローバルネットワークである。

エージェンシー体制の再編

2026年10月22日、コカ・コーラはグローバルなマーケティング運用体制の見直しを完了したと発表した。

領域

パートナー

北米メディア

Omnicom(メディア・データ・CRM・ロイヤルティ・クリエイターを統合)

北米以外のグローバルメディア

WPP Open X

日本・韓国メディア

Dentsu(継続)

グローバルクリエイティブ

WPP Open X(継続)

なお、Publicis Groupeは昨年北米メディアアカウントを獲得していたが、PepsiCoのグローバルメディア業務を受託したため審査を辞退した経緯がある。新体制は12月1日から段階的に導入される予定だ。

成果と示唆

これらの取り組みの結果、コカ・コーラは20年間の停滞を脱し、1億6000万人の新規消費者を獲得した。トップライン成長、利益率の拡大、投下資本利益率の向上も実現しているとアロヨ氏は述べている。「行動変化だけでなく、ブランドエクイティも動かした。ブランド愛は後からついてくるもので、それが販売数量・取引件数の成長、そして損益に直結した」と同氏は語る。

まとめ

コカ・コーラの事例が示す本質は、「好意度」という曖昧な指標から「行動」という事業成果に直結する指標へと軸足を移した点にある。これは巨大企業特有の打ち手ではなく、日本のスタートアップやアグリテック企業にも応用可能な考え方とみられる。

例えば、農業ベンチャーが顧客満足度アンケートのスコアだけを追うのではなく、「リピート購入率」や「継続利用日数」といった行動指標を主要KPIに据え直すことは、予算規模に関わらず実行できる打ち手だ。また、コカ・コーラが400以上のブランドを170まで絞り込んだように、スタートアップが多角化しすぎた商品ラインやサービスメニューを整理し、経営資源を集中させることも同様の発想の応用といえる。

ただし導入にはハードルもある。行動データを継続的に取得・分析するには、最低限のデータ基盤(CRMや購買履歴の一元管理など)が必要であり、ITリテラシーが低い組織ではまず簡易なスプレッドシート管理から始め、段階的にツールを導入する現実的なアプローチが求められるだろう。コカ・コーラのStudio Xのような大規模な統合基盤を一足飛びに構築するのは、資金力に乏しいベンチャーには非現実的であり、まずは指標設計の転換という「考え方」の部分から着手するのが現実的と考えられる。経営判断としては、既存指標を捨てる勇気と、短期的な見栄えより中長期の行動変化を評価する忍耐が前提条件になるとみられる。

現場で使える!専門用語ミニ辞書

CMO(シーエムオー・Chief Marketing Officer)
企業のマーケティング全体を統括する最高責任者の役職。ブランド戦略から広告予算配分まで意思決定を担う立場を指す。
ブランド愛(ブランドあい・brand love)
消費者がブランドに対して抱く好意や愛着の度合いを測る指標。売上に直結するとは限らない点が本事例の論点となった。
総消費者基盤(そうしょうひしゃきばん・total consumer base)
行動データに基づき、実際にブランドを利用・購入している消費者の総数を示す指標。事業成果との相関を重視する際に使われる。
ブランドエクイティ(brand equity)
ブランドが持つ無形の資産価値のこと。認知度や信頼感などが含まれ、長期的な事業価値に影響するとされる。
ROIC(アールオーアイシー・投下資本利益率)
投下した資本に対してどれだけ利益を生み出したかを示す経営指標。経営の効率性を測る際に用いられる。
CRM(シーアールエム・Customer Relationship Management)
顧客との関係を管理する仕組みやシステムの総称。購買履歴や接点データを一元管理し、マーケティング施策に活用する際の基盤となる。

参考

アグリコメ 0

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