TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

みどりの食料システム戦略の考え方

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    みどりの食料システム戦略と有機JAS認証制度の関係について、最も適切な説明はどれか。

  2. Q2/2

    みどり戦略が策定された背景として、本文で説明されている内容はどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • みどりの食料システム戦略が目指す姿(2050年までの目標)を自分の言葉で説明できる
  • 戦略が生産現場に求める変化を、自分の法人の作業・資材選びに当てはめて説明できる
  • 有機JASとみどり戦略の関係を整理し、両者を混同せずに判断の根拠として使い分けられる

所要時間の目安: 45分

結論

  1. みどり戦略は「食料・農林水産業の生産力向上」と「持続性の向上」を両立させる国の政策方針であり、個別の資材や栽培法を強制するものではない。現場では「方向性」として理解し、日々の判断は有機JASなど個別の認証基準に従う。
  2. 判断の順序は次の通り。(1) 目の前の作業が収量・品質を確保できるか → (2) 化学肥料・化学合成農薬への依存を下げる余地があるか → (3) 有機JASなど既存の認証基準に適合するか、の順で検討する。戦略の数値目標は個々の圃場の合否基準ではない。
  3. 新しい資材・技術を導入する際は、戦略の方向性に沿うかどうかだけで判断せず、必ず有機JASの別表と認証機関の確認を経る。戦略は目標であり、認証基準は実務の合否ラインである。
  4. 土づくりは年単位の計画であり、みどり戦略が掲げる化学肥料・化学合成農薬の低減という方向性とも整合する取り組みとして、緑肥や堆肥の活用を継続的に位置づける。

原理: なぜみどり戦略が必要とされるのか

背景にある環境制約

国内外で、温暖化・生物多様性の損失・資材価格の変動といった制約が強まっている。大気中の二酸化炭素濃度はおよそ420 ppm(気象庁の観測による)まで上昇しており、農業分野でも温室効果ガス排出の削減と、気候変動に適応できる生産体制の両方が求められている。あわせて、化学肥料の原料は多くを輸入に依存しており、国際情勢によって価格や供給が変動しやすい。こうした背景から、生産力を維持しながら環境負荷を下げる方向への転換が政策課題となった。これがみどりの食料システム戦略の出発点である。

戦略が掲げる主な方向性

戦略は複数の目標を掲げているが、現場の生産技術に関わる主なものは次の通りである。

  • 化学農薬の使用量(リスク換算)の低減
  • 化学肥料の使用量の低減
  • 有機農業の取組面積の拡大
  • 耕地面積当たりの温室効果ガス排出削減、生産力向上との両立

具体的な数値目標は国の計画文書に定められているが、これは国全体の政策目標であり、個別経営体が達成すべきノルマではない。一経営体としては、方向性を踏まえて自らの土づくり・資材選択を見直す材料として使う。

有機JASとの関係の整理

有機JASは、個別の生産物が「有機」と表示できるかどうかを判定する認証制度であり、使用可能な資材や禁止事項が別表で具体的に定められている。一方、みどり戦略は生産現場全体が目指すべき方向性を示す政策であり、有機JASはその中で生産力向上と持続性を両立させる手段の一つに位置づけられている。両者は重なる部分が多いが、日々の作業で「これは使ってよいか」を判断する際の根拠は、常に有機JASの別表と認証機関・ラベルの確認である。戦略の理念だけで資材の可否を判断してはならない。

判断の実例

実例1: 新しい堆肥資材の導入を検討する場面

状況: 近隣の畜産農家から、未発酵に近い家畜ふん堆肥の提供を持ちかけられた。みどり戦略の方向性に沿うと考え、使用を即決しそうになった。

判断: 使用を保留し、堆肥化の過程と発酵状態を確認してから判断する。

理由: 有機JAS上、家畜ふん堆肥は飼養方法(飼料・薬剤)は規格で問われないが、堆肥化の過程で化学合成資材が混入していないこと、発酵が十分に進んでいることが確認点である。未発酵のものは使用できない。戦略の方向性に合致するかどうかではなく、認証基準への適合を優先して確認する必要がある。

実例2: 緑肥導入による化学肥料低減の検討

状況: 窒素肥料の投入量を下げたいが、収量低下が心配で導入をためらっている。

判断: 栽培予定作の前作としてマメ科緑肥を導入し、すき込みから定植まで3〜4週間の分解期間を確保した上で、化学肥料の投入量を段階的に見直す。

理由: マメ科緑肥は根粒菌による窒素固定で土壌窒素を補い、イネ科緑肥は前作の余剰養分を吸収・保持して流亡を抑える。農研機構の緑肥利用マニュアルに基づき、すき込み後3〜4週間を分解期間の目安とすることで、未分解有機物による生育障害を避けながら減肥の効果を確認できる。これはみどり戦略が掲げる化学肥料低減の方向性とも整合するが、判断の根拠は作物の生育と土壌診断であり、戦略の数値目標そのものではない。

実例3: 経営全体としての取組面積拡大の検討

状況: 法人として有機栽培の取組面積を広げる計画を立てている。

判断: 一気に全圃場を転換せず、土壌群・水利条件が有機栽培に適した圃場から段階的に拡大する。

理由: 黒ボク土や排水良好な低地土では堆肥・緑肥による土づくりの効果が出やすい一方、排水不良の圃場や雑草圧の高い圃場では管理が追いつかず、品質・収量が不安定になりやすい。みどり戦略は面積拡大を方向性として掲げるが、現場の判断は個々の圃場条件に基づいて行う必要がある。

手順と判断基準

  • ステップ1: 戦略の方向性(化学肥料・化学農薬の低減、有機農業面積の拡大、生産力との両立)を確認する
  • 判断基準: 自法人の現状の資材使用量・取組面積を把握しているか
  • ステップ2: 個別の資材・技術導入は、戦略ではなく有機JAS別表と認証機関・ラベルで可否を確認する
  • 判断基準: 別表に明記された資材か、認証機関への事前確認を行ったか
  • ステップ3: 土づくりの年次計画(堆肥・緑肥の投入計画)に、化学肥料低減の方向性を反映させる
  • 判断基準: 緑肥のすき込みから定植まで3〜4週間の分解期間を確保できる作付け計画になっているか
  • ステップ4: 拡大・転換は圃場条件に応じて段階的に行う
  • 判断基準: 土壌群・排水性・雑草圧を踏まえ、転換の優先順位をつけているか(都道府県の普及指導機関の基準で確認)
  • ステップ5: 定期的に戦略の数値目標と自法人の実績を比較し、乖離がある場合は原因を土づくり・資材選択に遡って点検する
  • 判断基準: 年1回以上、資材使用量と取組面積を記録・振り返っているか

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

戦略の理念だけで資材の可否を判断する

戦略は方向性であり、個別資材の合否基準ではないため、認証が通らないことがある

必ず有機JAS別表と認証機関・ラベルで確認する

戦略の数値目標を自法人のノルマと誤解する

国全体の政策目標と経営判断を混同し、無理な転換で品質低下を招く

自法人の圃場条件・経営体力に基づいて計画を立てる

未発酵堆肥を「有機だから」と使用する

未発酵の堆肥は生育障害やガス障害の原因になり、有機JASの確認点にも反する

発酵の進行度と化学合成資材の混入有無を確認してから使用する

全圃場を一斉に転換する

土壌群や排水条件の違いを無視すると管理が行き届かず、収量・品質が不安定になる

条件の良い圃場から段階的に拡大する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. みどり戦略は方向性(生産力向上と持続性の両立)を示す政策であり、個別の合否判断は有機JASなど既存の認証基準で行う
  2. 資材導入の可否は、戦略の理念ではなく有機JAS別表と認証機関・ラベルで確認する
  3. 土づくりは年単位の計画とし、緑肥(すき込みから定植まで3〜4週間)や堆肥を通じて化学肥料低減の方向性と整合させる
  4. 取組拡大は圃場の土壌群・排水条件を踏まえ、段階的に進める
  5. 戦略の数値目標と自法人の実績は定期的に比較し、乖離の原因を土づくり・資材選択に遡って点検する

現場実践課題

自法人の現状を、みどり戦略の方向性に照らして棚卸しする課題を行う。対象圃場で、現状の資材使用量と取組状況を記録し、次年度の土づくり計画に反映させる材料とする。

項目

記録内容(例)

圃場名・面積

第3圃場 / 0.5ha

土壌群

黒ボク土

現状の施肥(化学肥料の有無)

化学肥料を一部併用

緑肥・堆肥の利用状況

緑肥未導入、堆肥年1回投入

有機JAS認証の有無

未取得

次年度の見直し案

前作にマメ科緑肥を導入し、化学肥料の投入量を段階的に見直す

現場で使える!専門用語ミニ辞書

みどりの食料システム戦略(みどりのしょくりょうしすてむせんりゃく)
食料・農林水産業の生産力向上と持続性の向上を両立させることを目指す国の政策方針
有機JAS(ゆうきジャス)
有機農産物として表示するための認証制度。使用可能な資材や禁止事項が別表で定められている
化学肥料低減(かがくひりょうていげん)
化学的に合成された肥料の使用量を減らす取組の方向性
温室効果ガス(おんしつこうかガス)
大気中で熱を吸収し気候変動の要因となる気体。二酸化炭素などが含まれる
緑肥(りょくひ)
作物を栽培する前後に植え、すき込んで土壌に有機物や養分を供給する植物

参考(一次情報)

  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」関連資料
  • 日本農林規格(有機農産物の日本農林規格)
  • 農研機構 緑肥利用マニュアル
  • 気象庁 大気中の二酸化炭素濃度の観測資料

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    法人として、近隣の養豚農家から堆肥の提供を受けられることになった。担当者が現地で見たところ、堆肥の山はまだ湿り気が強く、投入から日数も浅いように見えた。担当者は「みどり戦略が化学肥料低減を掲げているので、早く導入して化学肥料を減らしたい」と考えている。

    この場面で最も適切な判断はどれか。

  2. Q2/2

    ある法人は、取組面積拡大の方針に基づき、来年から保有する全5圃場(黒ボク土で排水良好な圃場3枚、排水不良で雑草圧の高い粘土質圃場2枚)を一斉に有機栽培へ転換する計画を立てた。理由は「みどり戦略が有機農業の取組面積拡大を掲げているため、早期に全圃場を転換したい」というものである。

    この計画について最も適切な判断はどれか。

学習状況を確認しています…

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