TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

表示と認証の実務

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    有機JAS制度における「有機」「オーガニック」等の表示に関する基本ルールとして、最も適切なものはどれですか。

  2. Q2/2

    前提ユニット「記録と検査の実務」で学んだ、栽培記録(播種日・使用資材・収穫日など)の役割について、最も適切な説明はどれですか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 有機JASマークを表示してよい条件と、表示してはいけない事例を区別できる
  • 「有機」「オーガニック」「転換期間中有機」などの表示区分を、生産段階に応じて正しく使い分けられる
  • みどりの食料システム戦略に基づく環境負荷低減の見える化の仕組みを理解し、自法人の取り組みを記録・提示する準備ができる

所要時間の目安: 60〜90分(前提ユニット「記録と検査の実務」を終えていることを前提とします)

結論

表示の可否は、次の順番で判断します。

  1. 有機JAS認証を取得しているか確認する。認証を受けていない事業者・圃場の生産物には、「有機」「オーガニック」等の文字を表示できない(JAS法上の規制)。
  2. 認証を受けた圃場であっても、転換期間(多年生作物以外は原則3年、該当作物は定められた期間)を満たしているかを確認する。満たしていなければ「有機」ではなく「転換期間中有機」等の区分表示を用いる。
  3. 有機JASマークは、格付(検査員またはほ場担当者による生産行程の確認・記録照合)を経た生産物のみに付けられる。格付を受けていないロットには付けない。
  4. 表示項目(マーク、格付責任者名、認証機関名など)は、認証機関が交付する表示ガイドラインに従って配置する。独自の文言・デザインを加える場合は事前に認証機関へ確認する。
  5. 環境負荷低減の見える化(みどりの食料システム戦略に基づく表示)を行う場合は、有機JASとは別制度であることを理解したうえで、対象項目(化学肥料・化学合成農薬の低減率など)を記録に基づいて表示する。

原理: なぜ表示にルールが必要か

JAS法と景品表示法の二重の枠組み

有機食品の表示は、JAS法(日本農林規格等に関する法律)による「有機JAS制度」と、景品表示法による「優良誤認の禁止」という二つの枠組みの上に成り立っています。消費者は商品を手に取った瞬間に栽培方法を確認できないため、表示だけを根拠に購入を判断します。表示が実態と異なると、消費者の選択を誤らせるだけでなく、正しく認証を取得している生産者の信頼も損なわれます。これが、認証を受けていない生産物への「有機」表示を禁じる理由です。

格付という工程の意味

有機JASマークは、栽培そのものに対してではなく、「生産行程管理記録が規格に適合していることを確認する工程(格付)」を経た生産物に対して付けられます。前提ユニットで扱った記録(播種日、使用資材、収穫日など)は、この格付の根拠資料です。記録が欠けていると、実際の栽培が規格に適合していても格付ができず、マークを表示できません。つまり表示の可否は、栽培の質だけでなく記録の完全性によって決まります。

みどりの食料システム戦略と見える化の位置づけ

みどりの食料システム戦略は、化学肥料・化学合成農薬の使用低減や有機農業の拡大などを中長期の目標として掲げる政策です。この戦略の一環として、環境負荷低減の取り組みを消費者に伝える「見える化」の仕組みが整備されています。有機JASが「有機農業という生産方法そのもの」を認証する制度であるのに対し、見える化は「慣行からどれだけ負荷を下げたか」を星の数や指標で示す制度であり、両者は別の枠組みです。有機JAS認証を受けていない圃場でも、取り組み内容を記録していれば見える化の対象になり得ます。

判断の実例

実例1: 転換2年目の圃場の表示

状況: 有機JAS認証を申請し、化学合成農薬・化学肥料を使用しない栽培を2年間継続している露地野菜の圃場。多年生作物ではない。

判断: 「有機」「オーガニック」の表示はできない。「転換期間中有機」等の区分表示を用いる。

理由: 転換期間(原則3年)を満たしていないため。年数が条件を満たすまでは、栽培方法が規格に適合していても表示区分が異なる。

実例2: 記録の不備がある区画の格付

状況: 栽培自体は有機JASの基準どおりに行ったが、使用した堆肥のロット番号と仕入れ伝票の記録が一部欠落していた。

判断: 当該ロットには有機JASマークを付けない(格付を見送る)。

理由: 格付は記録照合によって成立する工程であり、記録が欠落していると生産行程の適合性を確認できない。実際の栽培内容が適切でも、証明できなければマークは付けられない。

実例3: 見える化ラベルの対象品目の選定

状況: 法人全体では有機JAS圃場と慣行圃場が混在しており、化学肥料・化学合成農薬の使用量を圃場ごとに記録している。

判断: 有機JAS圃場は有機JASマークで表示し、低減の度合いを数値で示したい慣行・減化学肥料圃場の品目については、見える化の指標に沿って別途表示を検討する。

理由: 二つの制度は対象と証明方法が異なるため、混同せず圃場ごとに適用する制度を分けて記録・表示する。

手順と判断基準

  • [ ] 認証機関との契約・認証範囲(圃場・品目)を確認したか
  • [ ] 対象ロットの転換期間が、作物区分ごとの必要年数を満たしているか(多年生作物とそれ以外で年数が異なる点に注意)
  • [ ] 生産行程管理記録(前提ユニット参照)が、播種から出荷まで欠落なく揃っているか
  • [ ] 格付担当者(格付責任者)による確認を受けたか
  • [ ] 有機JASマークの表示様式(マークの大きさ・配置・認証機関名の併記など)を認証機関のガイドラインで確認したか
  • [ ] 「有機」「オーガニック」等の文言を、認証を受けていない品目・ロットに誤って表示していないか
  • [ ] 見える化の表示を行う場合、対象指標(化学肥料・化学合成農薬の低減率など)の算出根拠となる記録が揃っているか
  • [ ] 資材(堆肥・防除資材など)の使用可否について、有機JAS別表と認証機関・ラベル表示で個別に確認したか

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

転換期間中の圃場の生産物に「有機」と表示する

JAS法の表示規制に違反し、認証取り消しや是正指導の対象になる

転換期間の年数を圃場ごとに記録し、区分表示を徹底する

記録が欠けたまま格付を依頼する

格付担当者が適合性を確認できず、格付不可またはやり直しになる

前提ユニットの記録様式を出荷前にチェックリストで確認する

有機JASと見える化の表示を混同する

制度の対象・証明方法が異なるため、誤った表示内容になる

圃場ごとにどちらの制度を適用するかを先に決め、記録を分けて管理する

家畜ふん堆肥を由来の飼養方法だけで判断し使用する

規格が問うのは堆肥化の過程(化学合成資材の混入の有無、発酵の完了)であり、飼養方法ではない

購入時に発酵の完了状況と製造工程を資材ラベル・証明書で確認する

認証機関のガイドラインを確認せずに独自デザインのマークを使う

表示様式の規定に反し、是正指導の対象になり得る

マークのデザイン変更や追加表示は必ず認証機関に事前確認する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 認証を受けていない生産物に「有機」「オーガニック」を表示しない
  2. 転換期間を満たしていない場合は区分表示(転換期間中有機等)を用いる
  3. 有機JASマークは格付を経たロットのみに付ける。記録の欠落は格付不可につながる
  4. 表示様式は認証機関のガイドラインに従う
  5. 見える化は有機JASとは別制度であり、対象と証明方法を区別して記録・表示する
  6. 資材の使用可否は有機JAS別表と認証機関・ラベルで個別に確認する

現場実践課題

自法人の圃場について、品目ごとに「適用する表示区分(有機/転換期間中有機/見える化対象/該当なし)」を一覧化し、根拠となる記録の所在を確認してください。欠けている記録があれば、前提ユニットの記録様式に沿って補う計画を立ててください。

圃場・品目

認証状況

転換期間の経過年数

適用する表示区分

根拠記録の所在

不足している記録

例: A圃場・にんじん

認証取得済み

4年目

有機

生産行程管理記録ファイル2024

なし

現場で使える!専門用語ミニ辞書

格付(かくづけ)
生産行程管理記録を確認し、規格への適合性を証明する工程。これを経た生産物にのみ有機JASマークを付けられる。
転換期間(てんかんきかん)
化学合成農薬・化学肥料を使用しない栽培を開始してから、有機JASの「有機」表示ができるようになるまでの期間。
格付責任者(かくづけせきにんしゃ)
格付の実務を担う、認証事業者内の担当者。
優良誤認(ゆうりょうごにん)
実際よりも品質・内容が優れていると消費者に誤解させる表示。景品表示法で禁止されている。
見える化ラベル(みえるかラベル)
みどりの食料システム戦略に基づき、環境負荷低減の取り組みを星の数などで示す表示の仕組み。有機JASとは別制度。

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機食品の検査認証制度」関連資料
  • 日本農林規格等に関する法律(JAS法)および有機農産物・有機加工食品の日本農林規格
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」関連資料
  • 消費者庁「景品表示法」関連資料

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    ある法人の圃場では、転換期間を満たした有機JAS認証圃場で栽培された大豆について、収穫から出荷までの生産行程管理記録を確認したところ、使用した堆肥のロット番号の記録が一部見つからなかった。栽培そのものは基準どおりに行われていたことが栽培日誌から分かっている。

    この大豆のロットに対する格付と表示の判断として、最も適切なものはどれですか。

  2. Q2/2

    ある露地野菜の圃場で、化学合成農薬・化学肥料を使用しない栽培を2年半継続している。対象作物は多年生作物ではなく、有機JAS認証の申請手続きは完了している。

    この圃場で収穫された生産物の表示として、最も適切な判断はどれですか。

学習状況を確認しています…

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