TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

玉ねぎ べと病対策

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    多くの糸状菌病(カビ性の病気)が発生しやすくなる気象条件として、一般に当てはまるのはどれですか。

  2. Q2/2

    有機栽培における防除体系の組み立て方として、最も適切な考え方はどれですか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 気象条件(気温・湿度・葉の濡れ時間)から玉ねぎべと病の発生リスクを判断できる
  • 耕種的・物理的・生物的防除を組み合わせた有機栽培向けの防除体系を設計できる
  • 発病株を発見した際に、拡大を防ぐための具体的な対応を実行できる

所要時間の目安: 50〜60分(圃場での実地確認を含めるとさらに時間が必要です)

結論

玉ねぎべと病対策は、次の順序で判断します。

  1. 一次感染源の遮断: 種球・苗の由来を確認し、感染の疑いがある苗は使用しない
  2. 気象モニタリング: 気温15〜20℃、相対湿度90%以上が続く時期、または夜間の葉の濡れ時間が長い日を把握し、リスク上昇を察知する
  3. 圃場環境の改善: 排水対策、株間確保、風通しの確保により多湿環境を回避する
  4. 資材の選定: 有機JAS別表に掲載された資材か、認証機関・ラベルで使用可否を確認したうえで用いる
  5. 発病株への対応: 早期発見・除去・ほ場外への持ち出しにより二次感染を防ぐ

この順序を外れて資材散布だけに頼ると、一次感染源や環境要因が残ったまま再発を繰り返します。

原理: べと病はなぜ多湿・冷涼条件で広がるのか

病原体の生態

玉ねぎべと病の病原は Peronospora destructor という卵菌(らんきん)の一種で、真菌(カビ)とは分類上異なりますが、植物病理の現場では「糸状菌病」としてまとめて扱われることが多い病原体です。胞子のう(遊走子のうに近い構造)は自由水または高湿度条件下でなければ発芽・感染できません。また、卵胞子という耐久性の高い胞子を形成し、土壌中や被害残渣の中で数年単位で生存することが知られています。

感染経路には大きく二つあります。

  • 一次感染: 感染した種球・苗の内部に菌糸が潜み、生育とともに新しい葉へ広がる全身感染型。この場合、外観で判断しにくいことが多く、苗の出所確認が重要になります。
  • 二次感染: 発病葉に形成された胞子のうが風雨で飛散し、周囲の健全株の気孔などから侵入する局所感染型。圃場全体への拡大はこちらが主体です。

発病条件

胞子のうの形成・発芽には、気温15〜20℃前後、相対湿度90%以上、または夜間に葉の表面が結露・降雨で濡れた状態が数時間以上続くことが有利に働きます。日中に湿度が下がると胞子は飛散しやすくなり、周辺株への二次感染が進みます。このため、曇雨天が続く時期や、朝霧が出やすい立地では発生リスクが高まります。

玉ねぎの器官と症状のつながり

玉ねぎの可食部(鱗茎)は葉の基部が肥大した貯蔵器官であり、葉で同化された養分が転流して肥大します。べと病は主に葉に病斑(淡黄色〜黄色の楕円形病斑、湿った朝には灰紫色の胞子形成が見られる)を作り、葉の同化能力を低下させます。葉面積が減少すると鱗茎への養分転流が不足し、玉の肥大不良や貯蔵性の低下につながります。これは収穫物の規格・食味にも直結するため、防除の遅れは収量だけでなく商品価値の低下としても現れます。

判断の実例

実例1: 購入苗に黄化が見られた場合

状況: 購入した苗の一部に、下葉が淡く黄化している株が混在していた。

判断: 疑わしい株は定植せず廃棄する。

理由: べと病は種球・苗からの全身感染で持ち込まれることがあり、外観で明確な病斑が出ていなくても潜伏している可能性がある。一次感染源を圃場に持ち込むと、その後の防除努力の効果が大きく下がるため、入口での選別を優先する。

実例2: 春先に降雨が続いた年の対応

状況: 定植後、気温15〜18℃、降雨・曇天が1週間以上続き、圃場の湿度が高い状態が続いた。

判断: 株間を広げる予定がなければ下葉の整理と除草による風通し改善を行い、都道府県の防除基準・認証機関に確認済みの有機JAS適合資材(銅水和剤等)の予防散布を検討する。

理由: 気温・湿度条件がべと病の胞子形成・発芽に適合しており、発病前の予防的な環境改善と資材対応がリスク低減に有効と判断されるため。資材の使用可否は有機JAS別表と認証機関・ラベルで必ず確認する。

実例3: 圃場内で発病株を発見した場合

状況: 巡回時に、葉に淡黄色の病斑と灰紫色の胞子形成を伴う株を複数発見した。

判断: 発病株は直ちに抜き取り、ほ場外へ持ち出して処分する。周辺株の株間・風通しを確認し、必要であれば下葉整理を行う。

理由: 胞子のうは風雨で飛散し二次感染を広げるため、感染源を圃場内に放置すると被害が急速に拡大する。早期除去が最も確実な拡大防止策である。

手順と判断基準

ステップ1: 育苗・定植前

  • [ ] 種球・苗の由来と生産履歴を確認したか
  • [ ] 苗に黄化・萎縮などの疑わしい症状がないか目視確認したか
  • [ ] 疑わしい苗は使用しないと決定したか

ステップ2: ほ場準備

  • [ ] 排水対策(明渠・暗渠、畝立て)を行ったか
  • [ ] 同じネギ科作物の連作を避けているか(輪作年数は都道府県の基準で確認)
  • [ ] 株間・畝間を風通しが確保できる間隔に設定したか

ステップ3: 生育期モニタリング

  • [ ] 気温・湿度・葉の濡れ時間を記録しているか
  • [ ] 気温15〜20℃かつ湿度90%以上の条件が2日以上続いていないか確認したか
  • [ ] 巡回頻度をリスク期には週2回以上に増やしたか

判断分岐の目安:

条件

対応

気温15〜20℃・湿度90%以上が2日以上継続

巡回頻度を上げ、予防的な環境改善・資材準備を行う

発病株を1株でも発見

直ちに抜き取り・持ち出し処分、周辺の風通し確認

乾燥・高温(25℃以上)が続く

通常の巡回頻度に戻してよい

ステップ4: 防除実施

  • [ ] 使用予定資材が有機JAS別表に適合しているか確認したか
  • [ ] 認証機関またはラベルで使用方法・使用時期を確認したか
  • [ ] 散布は予防的タイミング(発病前〜初期)で行ったか

ステップ5: 収穫後

  • [ ] 被害残渣をほ場外へ持ち出し、適切に処分したか
  • [ ] 翌作以降の作付け計画で同科作物の連作を避ける計画を立てたか
  • [ ] 緑肥を用いた土づくり・ロテーションを次作に組み込んだか

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

感染苗の見落とし

一次感染源として圃場全体に病気が広がる起点になる

導入前に苗を一株ずつ目視確認し、疑わしい株は使用しない

過度な密植

株間が狭く風通しが悪化し、多湿環境が形成される

適正な株間・畝間を確保し、下葉整理で通気性を保つ

排水不良ほ場での作付け

土壌・地表面が多湿になり発病を助長する

明渠・暗渠等の排水対策を事前に実施する

発病株の放置

胞子のうが飛散し二次感染が圃場全体に拡大する

早期発見・除去・ほ場外への持ち出し処分を徹底する

窒素過多な施肥

軟弱徒長した葉組織は感染しやすくなる

土壌診断に基づき、都道府県の施肥基準で適正量を確認する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 種球・苗の由来確認を最優先し、疑わしい苗は使用しない
  2. 気温15〜20℃・湿度90%以上の継続をリスクシグナルとしてモニタリングする
  3. 排水・株間・風通しなど圃場環境を日常的に改善しておく
  4. 資材使用は有機JAS別表・認証機関・ラベルで可否を必ず確認する
  5. 発病株は早期に抜き取り、ほ場外で処分して二次感染を防ぐ

現場実践課題

自分の圃場で、べと病の発生予測と防除体系を組み立てる記録表を作成してください。生育期間を通じて気象条件と巡回結果を記録し、判断と対応を自分の言葉で書き残すことが目的です。

日付

気温(℃)

相対湿度(%)

葉の濡れ時間(時間)

巡回結果

判断

対応内容

例: 4/10

16

92

6

下葉に軽微な黄化1株

リスク上昇、要注意

巡回頻度を週2回に増加、資材準備を確認

4/17

15

95

8

灰紫色の胞子形成株3株発見

二次感染拡大の恐れ

発病株を抜き取り持ち出し処分、周辺の株間確認

記録を1作期分蓄積し、翌年以降の防除計画(苗の選別基準、資材散布のタイミング、輪作計画)に反映してください。

現場で使える!専門用語ミニ辞書

べと病(べとびょう)
卵菌 Peronospora destructor による玉ねぎの病害。冷涼多湿条件で発生しやすい。
卵胞子(らんほうし)
病原菌が形成する耐久性の高い胞子。土壌・残渣中で長期間生存する。
胞子のう(ほうしのう)
感染拡大を担う胞子を形成する構造。高湿度・自由水で発芽する。
一次感染源(いちじかんせんげん)
感染した種球・苗や被害残渣など、病気の最初の持ち込み元。
二次感染(にじかんせん)
圃場内で胞子が飛散し、健全株へ広がる感染。
葉の濡れ時間(はのぬれじかん)
降雨や結露で葉面が濡れている時間。病原菌の発芽条件の指標。
有機JAS別表
有機JAS規格で使用が認められる資材を定めたリスト。使用可否は認証機関・ラベルで確認する。
輪作(りんさく)
同じ科の作物を連続して作付けしないこと。土壌病害の抑制に寄与する。
緑肥(りょくひ)
土壌に有機物を供給し、物理性改善や被覆効果をもたらす作物。玉ねぎでは前作・後作のロテーションに組み込む。

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農産物の日本農林規格」
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 農研機構 病害虫防除関連の技術情報
  • 都道府県病害虫防除所 発生予察情報・施肥基準

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    購入した玉ねぎ苗を定植前に確認したところ、一部の苗の下葉がうっすらと黄色く変色していたが、明確な病斑や胞子形成は見られなかった。

    この苗への対応として最も適切な判断はどれですか。

  2. Q2/2

    玉ねぎ定植後、気温16〜19℃で曇雨天が続き、圃場の相対湿度が90%以上の状態が3日間続いている。巡回では今のところ発病株は確認されていない。

    この状況での対応として最も適切なものはどれですか。

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