TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

水管理の判断

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    前章「生育診断の見方」で学んだ内容として、水管理の判断を行う前に確認すべき作物の状態の観察ポイントとして最も適切なものはどれか。

  2. Q2/2

    根の酸素供給と水管理の関係についての説明として正しいものはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 生育ステージと気象条件(降水・気温・日射・風)から、水稲の水管理(入水・落水・中干し・間断灌漑)の判断ができる
  • 畑作における土壌水分・作物の萎凋症状・天気予報から、灌漑の要否とタイミングを判断できる
  • 過湿・過乾のそれぞれが根・茎・葉に与える生理的な影響を説明できる

所要時間の目安: 90分(現場実践課題を含めると数週間にわたる記録が必要)

結論

水管理の判断は、次の順序で行う。

  1. 前章(生育診断)で得た作物の状態を確認する: 葉色、葉の展開速度、萎凋の有無、根の張り方(抜き取りや土壌硬度で推定)
  2. 土壌水分を確認する: 水稲は湛水深、畑作は作土層(深さ15〜20cm程度)の手触り・団粒のほぐれ方で判断する
  3. 直近3〜5日の気象予報を確認する: 降水予報、気温(高温・低温注意報)、強風・台風情報
  4. 生育ステージ特有の水要求期かどうかを確認する: 水稲の幼穂形成期・出穂期、畑作の開花期・肥大期は水ストレスに敏感
  5. 以上を踏まえ、入水・落水・中干し・灌漑・排水のいずれかを選択し、実施日と量を決める
  6. 実施後は必ず記録し、次回の判断材料とする

水管理は「足りないから足す」「多いから抜く」という単純な対応ではなく、ステージごとの生理的な意味を理解したうえで行う。

原理: なぜ水管理が生育と品質を左右するのか

根の呼吸と酸素供給

根は酸素を使って呼吸し、エネルギーを得て養水分を吸収している。土壌が過湿で間隙が水で満たされると、酸素供給が絶たれ、根の呼吸が阻害される。水稲は通気組織(通気道)を発達させ、茎葉から根へ酸素を送る仕組みを持つため湛水に耐えられるが、畑作物の多くはこの仕組みを持たず、過湿に弱い。長期間の過湿は根の褐変・腐敗を招き、地上部の萎凋(ここでは水不足ではなく酸素不足による二次的な萎凋)として現れることがある。

水ストレスと気孔・同化

葉の気孔は水分を保持するため、土壌水分が不足すると閉じる方向に働く。気孔が閉じると二酸化炭素(大気中およそ420 ppm)の取り込みが減り、光合成(同化)速度が低下する。これが続くと茎への養分輸送や貯蔵器官(果実・塊茎・子実)への分配が滞り、収量だけでなく糖度や形状にも影響する。特に開花期・肥大期の水ストレスは、着果不良や奇形、裂果の原因になりやすい。

水稲の中干しの意味

中干しは、幼穂形成期前後に水田を一時的に落水し、土壌に酸素を入れて根を深く健全に張らせる操作である。あわせて、過剰な分げつを抑制し、無効分げつへの養分浪費を防ぐ。中干しが不十分だと倒伏や秋落ち(登熟後期の生育不良)のリスクが高まる。中干しのタイミングと期間は、気象条件(干ばつ・猛暑)や土壌群(砂質土は乾きやすく粘土質は乾きにくい)によって調整が必要であり、一律の日数ではなく田面のひび割れ具合を目安に判断する。

土壌群による保水性の違い

黒ボク土は多孔質で保水性と排水性を両立しやすいが、砂質土は保水力が低く灌漑間隔を短くする必要がある。低地土は粘土分が多く停滞水が生じやすいため、排水路の管理が重要になる。これらの違いは都道府県の土壌図や営農指導資料で確認する。

判断の実例

実例1: 水稲・幼穂形成期の高温予報

状況: 幼穂形成期(出穂前約20〜25日)に入った水田で、翌週に最高気温35℃前後の高温予報が出ている。現在は中干し中で田面にひび割れが見え始めている。

判断: 中干しを終了し、入水して湛水状態に戻す。

理由: 幼穂形成期は水分要求が高く、高温・乾燥が重なると幼穂の退化や不稔の原因になる。中干しの目的(過剰分げつ抑制・根の強化)はひび割れの発生でおおむね達成されているため、高温対策を優先する。

実例2: 畑作(露地トマト)・肥大期の土壌乾燥

状況: 果実肥大期のトマトで、作土層(深さ15cm程度)を掘ると手で握っても固まらずほろほろと崩れる状態。直近5日間降水なし、翌日も晴天予報。

判断: 灌漑を実施する。量は作土層が軽く握って形を保つ程度まで。

理由: 肥大期の水ストレスは尻腐れ(カルシウム移行不良と関連)や裂果の原因になりやすい。土壌水分の急変(乾燥後の急な多量灌漑)も裂果を誘発するため、少量を複数回に分けて与えることが望ましい。

実例3: 水稲・出穂期直前の長雨予報

状況: 出穂期を数日後に控えた水田で、今後3日間連続した強い降雨が予報されている。水田は現在浅水管理。

判断: 落水口を調整し、過剰な水位上昇を防ぐ排水体制を事前に確認する。湛水深を標準範囲内に保つ。

理由: 出穂期前後の冠水や極端な深水は花粉の機能や受精に悪影響を及ぼす可能性があるため、降雨による水位上昇を見越して排水経路を確保しておく必要がある。

手順と判断基準

  1. 生育ステージを確認する: 前章の診断記録(葉色・葉数・草丈・根の状態)を参照する
  2. 土壌・湛水の状態を確認する - 水稲: 湛水深(目視・測尺)、田面のひび割れ有無 - 畑作: 作土層の手触り(握って形が残るか、ほろほろ崩れるか)
  3. 気象予報を確認する(3〜5日先まで): 降水量予報、最高・最低気温、強風・台風情報
  4. 水要求期かどうかを判定する - 水稲: 幼穂形成期・出穂期・開花期は水分要求が高い時期として優先対応 - 畑作: 開花期・果実肥大期・塊茎肥大期は水ストレスに敏感な時期として優先対応
  5. 操作を選択する - 過湿・停滞水のリスクが高い → 排水路を確認し落水または排水を実施 - 乾燥・高温リスクが高い → 入水または灌漑を実施 - 分げつ抑制・根の強化が目的 → 水稲は中干しを継続(田面のひび割れ具合を目安に、継続か終了かを判断する)
  6. 実施後、日付・操作内容・実施理由・その後の生育変化を記録する

灌漑量や施肥と連動する水管理の数値基準(灌漑量の上限など)は地域差が大きいため、都道府県の営農指導基準で確認する。

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

中干しを一律の日数で終える

土壌群や気象により乾き方が異なり、効果が不十分または過剰になる

田面のひび割れ具合を観察して終了時期を判断する

乾燥後に一度に大量灌漑する

急激な水分変化が裂果・根の障害を招く

少量を複数回に分けて灌漑する

水要求期を見落として落水・断水する

幼穂形成期・開花期・肥大期の水ストレスは収量・品質に直結する

生育ステージごとの水要求期を記録表で管理する

排水路の点検を怠る

長雨時に停滞水が生じ、根の酸素不足を招く

降雨予報時に事前に排水経路を確認する

気象予報を確認せずに水管理を決める

直後の降雨や高温で判断が裏目に出る

操作前に3〜5日先までの予報を必ず確認する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 生育診断の結果(葉色・萎凋・根の状態)を確認する
  2. 土壌水分・湛水状態を確認する(水稲は湛水深とひび割れ、畑作は作土層の手触り)
  3. 3〜5日先までの気象予報を確認する
  4. 生育ステージ特有の水要求期かどうかを確認する
  5. 入水・落水・中干し・灌漑・排水のいずれかを選び、実施日と量を決める
  6. 実施後は必ず記録し、次回の判断に活かす

現場実践課題

自分の担当圃場(水稲または畑作)で、1作期を通じて水管理の判断記録をつける。生育ステージ、土壌・湛水状態、気象予報、実施した操作、その理由を毎回記録し、ステージごとの水要求期と実際の生育変化を照らし合わせる。

記録例:

日付

生育ステージ

土壌・湛水の状態

気象予報(3日先)

実施した操作

判断理由

その後の変化

6/20

幼穂形成期

田面ひび割れ有

最高35℃予報

入水(中干し終了)

高温と幼穂形成期の水要求を優先

ひび割れ解消、葉色安定

7/5

肥大期(トマト)

作土ほろほろ崩れる

晴天継続

灌漑(少量2回分割)

急激な水分変化による裂果を回避

裂果なし、肥大順調

現場で使える!専門用語ミニ辞書

中干し(なかぼし)
水稲の幼穂形成期前後に水田を一時的に落水し、根に酸素を供給して過剰分げつを抑える操作
間断灌漑(かんだんかんがい)
湛水と落水を周期的に繰り返す水管理方法
通気組織(つうきそしき)
水稲などが持つ、茎葉から根へ酸素を送るための組織
秋落ち(あきおち)
登熟後期に根の活力が低下し、収量・品質が落ちる現象
尻腐れ(しりぐされ)
トマトなどの果実でカルシウムの移行不良により生じる障害
作土層(さくどそう)
耕うんが及ぶ土壌の表層で、生物活性と有機物が集中する層

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農業の推進に関する基本的な方針」
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 農研機構 水稲栽培技術・水管理に関する研究資料
  • 都道府県農業試験場・普及指導センターの営農指導資料(水管理基準)
  • 気象庁 大気中の二酸化炭素濃度の観測データ

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    露地栽培のばれいしょで、塊茎肥大期に入っている。作土層(深さ15cm程度)を掘って確認したところ、手で握っても固まらずほろほろと崩れる状態だった。直近4日間降水はなく、翌日以降も晴天が続く予報である。

    この状況での灌漑の判断として最も適切なものはどれか。

  2. Q2/2

    水稲の水田で、幼穂形成期(出穂前約20日)に入ったところ、現在は中干し中で田面にひび割れが見え始めている。翌週の予報では最高気温34℃前後の高温が続く見込みである。

    この状況での水管理の判断として最も適切なものはどれか。

学習状況を確認しています…

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