TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

病害の科学

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    野菜の細菌性病害について、発生の様子を学ぶ前の確認です。

    細菌が植物の体内へ入る経路として正しいものはどれですか。

  2. Q2/2

    同じ品種のトマトを植えた2枚の圃場で、片方でだけ病気が発生しました。もう片方では、同じ時期に同じ作業をしていたのに症状が出ていません。

    植物の病気が成立するために、同時にそろう必要がある3つの条件の組み合わせとして正しいものはどれですか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 病原の種類(糸状菌・細菌・ウイルス・線虫など)ごとに、侵入の仕方と広がり方の違いを説明できる
  • 発生している症状から、病原の種類と伝染経路を推定し、最初に取る対策の順番を決められる
  • 温度・湿度・結露・伝染源といった発生条件を挙げ、自分の圃場で発生しやすい条件がそろっていないかを点検できる

所要時間の目安: 本文 12 分、現場実践課題 30 分。

結論

病害の判断は、次の順で行います。

  1. まず症状と標徴を観察し、病原の種類を推定する。糸状菌か、細菌か、ウイルスか、線虫かで、対策がまったく変わる
  2. 次に伝染経路を特定する。種子・苗から来たのか、土壌に残っていたのか、風や水で飛んできたのか、虫が運んだのか
  3. 発生条件がそろった理由をたどる。温度・湿度・結露の長さ、連作や残渣などの伝染源の有無を確認する
  4. 対策は伝染源と環境から先に手をつける。罹病部・残渣の除去、結露を切る換気、輪作による伝染源の断ち切りが優先で、資材は最後の手段として位置づける

植物の病気は、病原・かかりやすい宿主・発生に適した環境の3つがそろったときに成立します。逆に言えば、どれか1つを外せば発生は抑えられます。有機栽培では化学合成農薬による治療に頼れないため、この「そろわせない」設計を栽培計画の段階から組み込むことが防除の中心になります。みどりの食料システム戦略が掲げる化学農薬の使用量低減も、予防を軸にした総合的な病害管理の方向と一致します。

原理: 病原の種類と、感染から発病までの流れ

病原の種類 — 侵入の仕方が違う

病害を起こす病原は、主に次のグループに分かれます。グループごとに、植物への入り方と広がり方が異なります。

糸状菌(菌類)。野菜の病害で最も種類が多いグループです。菌糸と胞子で増え、胞子が風や水はねで運ばれます。侵入の仕方は病原によって異なり、葉の表面に付着器という器官を作って表皮を直接貫くもの(イネのいもち病菌など)、気孔から入るもの(べと病菌など)、傷や弱った組織から入るもの(灰色かび病菌など)があります。キュウリのうどんこ病、トマトの葉かび病などが代表的です。なお、ジャガイモ疫病菌やべと病菌は、厳密には菌類ではなく卵菌類に分類されますが、発生の仕組みや対策の考え方は糸状菌の病害に近いため、現場では同じ枠で扱われることが多い病原です。

細菌。単細胞の微生物で、植物の表皮を自力で破ることはできません。気孔・水孔・皮目などの自然の開口部か、風雨や作業でできた傷口から入ります。植物の中で増え、雨の水はねや管理作業で周囲の株へ広がります。トマトやナスの青枯病、キャベツの黒腐病などが知られます。青枯病菌は根の傷から入って導管の中で増え、株全体を急にしおれさせます。

ウイルス。生きた細胞の中でしか増えられない微小な病原で、傷口からしか入れません。アブラムシやアザミウマなどの昆虫が媒介する虫媒伝染が中心で、ほかにも接ぎ木、種子、作業時の汁液の接触で広がります。感染した株は回復せず、モザイク(葉の濃淡のまだら模様)、葉の奇形、生育の停滞といった症状を示します。感染株そのものが伝染源になる点が、ほかの病原との大きな違いです。

線虫。土壌中にすむ微小な動物で、根に寄生します。ネコブセンチュウは根に大小のこぶを作って養水分の吸収を妨げ、シストセンチュウは根にシスト(卵を包んだ耐久体)を作り、土壌中で長期間生き残ります。線虫自体の移動範囲は狭いため、汚染された土の移動(作業機・靴・苗の土)で圃場に広がります。

このほか、ファイトプラズマ(昆虫媒介で、師部に寄生する細菌様の微生物)なども病原に含まれます。

病気が成立する3条件

病気は、次の3つが同時にそろったときに成立します。これを病気の成立条件(病気の三角形)と呼びます。

  1. 病原: 感染力を持つ病原が存在すること
  2. 宿主: その病原にかかりやすい作物・品種が植わっていること
  3. 環境: 病原の感染と発育に適した温度・湿度などの条件が続くこと

同じ品種を植えても、片方の圃場でだけ病気が出るのは、この3条件のそろい方が違うためです。対策は、この3つのどれかを外すことに対応します。抵抗性品種は「宿主」を外し、輪作や残渣の除去は「病原」を減らし、換気や排水の改善は「環境」を外します。

感染の仕組み — 侵入から発病まで

病原が植物に感染し、症状が現れるまでの流れは、おおむね次の通りです。

  1. 到達・付着: 胞子や細菌が、風・雨の水はね・土壌・昆虫・種苗などを介して植物の表面に到達する
  2. 侵入: 糸状菌は付着器や自然開口から、細菌は開口部や傷から、ウイルスは傷から入る
  3. 感染・潜伏: 植物の中で病原が増える。症状がまだ現れない期間が潜伏期間で、病気によって数日から数週間と幅がある
  4. 発病: 病斑・萎凋・奇形などの症状(病徴)が現れる。糸状菌では病斑の表面にカビや胞子などの病原の姿(標徴)が現れることが多い
  5. 二次伝染: 発病した部位で新たに胞子や細菌が作られ、周囲の株へ広がる

潜伏期間があるため、「症状を見つけてから対策する」では広がりに後れを取ることがあります。特に二次伝染を繰り返す病害は、発生初期の株数が少ないうちに伝染源を取り除くことが、その後の発生量を大きく左右します。

感染環と伝染源 — 病原はどこで生き残るか

病原が次の作まで生き残り、感染を繰り返す循環を 感染環 と呼びます。防除の設計では、感染環のどこを断つかが要点になります。主な伝染源は次の通りです。

  • 罹病残渣: 前作の罹病した茎葉や根が圃場に残り、次の作の一次伝染源になる
  • 土壌: 土壌伝染性の糸状菌や細菌、線虫のシストなどは、土壌中で年単位で生き残るものがある。アブラナ科の根こぶ病菌の休眠胞子は、土壌中で長期間生存することが知られている
  • 種子・苗: 種子伝染性の病原は、種子や購入苗と一緒に圃場へ入る
  • 周辺の雑草・作物: ウイルスや細菌は、圃場の周りの雑草や近くの作目を宿主として生き残り、虫や風で運ばれる

最初に圃場へ入る感染を一次伝染、発病した株から広がる感染を二次伝染と呼びます。土壌伝染や種子伝染のように発生源が限られる病害は一次伝染の遮断(健全な種苗、輪作、土の移動の管理)が中心になり、風で胞子が繰り返し飛ぶ病害は、二次伝染を抑える環境管理と早期発見が中心になります。

発生しやすい条件 — 温度・湿度・結露

病原の多くは、水分と温度の条件がそろったときに感染します。

  • 葉面の濡れと結露: 多くの糸状菌と細菌は、胞子の発芽や侵入に葉面の水滴を必要とします。夜間に葉が結露し、朝まで濡れたままの時間が長いほど感染が進みます。施設栽培では、夜間の加温や朝の換気で結露している時間を短くすることが、発生を抑える基本です
  • 高湿度: 施設内や梅雨どきのように湿度の高い状態が続くと、胞子の形成と放出が活発になります。一方で、うどんこ病は葉面に水滴があると胞子の発芽が妨げられる場合があり、湿度が高く葉が濡れていない条件で進みやすいという例外もあります。「濡れれば全部の病気が進む」ではない点に注意します
  • 温度: 病原ごとに活動しやすい温度帯が異なります。疫病やべと病は比較的涼しい時期に、青枯病は地温の高い夏に発生しやすい、といった傾向はありますが、具体的な温度の目安は病害と地域で異なるため、都道府県の病害虫防除所が出す発生予察情報で確かめます
  • 風雨: 台風や強い雨は、傷を作って細菌の侵入口を増やすうえに、水はねで病原を広げます。風雨の後は細菌性病害が広がりやすい時期として観察を強めます
  • 株の状態: 窒素過多で軟弱に育った株、密植で風通しの悪い群落、収穫や管理で傷の多い株は、感染を受けやすくなります。前章までで学んだ施肥と土の管理は、病害の発生条件にもつながっています

被害の現れ方 — 収量の減少と、品質の低下

病害の被害は、収量の減少だけではありません。収穫物そのものに病斑・変形・腐敗が出れば、株が生き残って収穫量が確保できても、出荷できる量と商品価値が下がります。

  • 形状・外観の劣化: 果実や葉菜の表面の病斑、病原による変形や奇形、腐敗は、等級の低下や、出荷そのものを見送る判断につながります。株全体の生育への影響が小さい病害でも、収穫部位に出る場合は被害が大きくなります
  • 食味以前の喪失: 腐敗や変質が進んだ収穫物は、味の問題以前に、商品として成立しなくなります。収穫の時点では小さな病斑でも、貯蔵や輸送の間に腐敗が広がることがあります

このため、防除の判断では「どれだけ穫れるか」だけでなく「どれだけ出荷できる状態で穫れるか」が基準になります。収穫部位に出やすい病害は、発生初期の小さいうちに手を打つ意味が大きい一方で、商品価値への影響が小さい範囲をどこまで許容し、出荷できない部分をどこで見切るかも、判断の一部になります。

判断の実例

実例1: 施設栽培で結露が続き、花がらにカビが生えた

施設のトマトで、夜間の最低気温が16 ℃前後、外の気温との差で朝まで葉と果実が結露する日が続いていました。収穫を終えた房の近くや、しおれた花がらに灰色のカビが付き始め、一部の果実に広がりつつあります。

判断: 灰色かび病を疑い、まず環境と伝染源に手をつけました。朝の換気で結露している時間を短くし、日中の湿度を下げる運用に変えました。罹病した果実と花がらは、胞子を飛ばさないよう濡れていない時間帯に丁寧に取り除き、袋に入れて圃場の外へ出しました。収穫や誘引の作業では、罹病部に触れた手やハサミで健全な株に触らないよう順序を決めました。

理由: 灰色かび病菌は傷や衰弱した組織から入りやすく、結露が続く高湿度の条件で胞子形成と感染が進む。環境(結露)と伝染源(花がら・罹病果)を同時に外すことが、病気の成立条件を崩す最短の手当てになる。この病害は果実に出れば、その実は病斑と腐敗で出荷できなくなる。花がらや一部の果実の段階で止めることが、出荷できる実を守ることになる。感染が広い範囲に及ぶ場合は、有機JAS別表2に位置づけのある資材の使用も選択肢になるが、使用の可否は品目と病害の登録内容とあわせて、認証機関・資材証明書・ラベルで確認してから判断する。

実例2: 前年アブラナ科で根にこぶが出た畑の作付け

前年にキャベツを作った露地の畑で、抜いた株の根に大小のこぶが多数ついていました。根こぶ病と判断された畑です。今年、この畑に再びアブラナ科を植える計画がありました。土壌の pH(H2O) は 5.5 です。

判断: この畑ではアブラナ科の作付けを見送り、非アブラナ科の作物に替えました。あわせて、作業機や長靴に付いた土を介してほかの畑へ病原を持ち込まないよう、この畑の作業を最後にする運用に変えました。次のアブラナ科の作付けまでには年単位の間隔を空け、その間に土壌診断で pH を確認しながら、酸性に傾いた土の矯正を計画します。

理由: 根こぶ病菌の休眠胞子は土壌中で長期間生き残るため、1作休んだ程度では伝染源は減らない。酸性の土壌で発生しやすく、中性からアルカリ側では発生が抑えられる傾向があるため、pH 矯正は輪作と組み合わせる対策になる。石灰資材を使う場合は、前章(土壌学の基礎)の通り、緩衝能を踏まえて量を決め、有機JASで使える資材かどうかを事前に確認する。

実例3: 新葉にモザイクが出て、アブラムシが寄生している

露地のキュウリで、新しい葉を中心に濃淡のまだら模様(モザイク)と葉の縮れが出始めました。発生は畑の端の数株からで、葉の裏にはアブラムシの寄生が見られます。

判断: ウイルス病を疑い、発生株を早期に抜き取って圃場の外で処分しました。抜き取りの際は、症状のある株に触れた手で健全な株に触らないよう、発生株の作業を最後に回し、使った道具は洗ってから次の作業に使いました。あわせて、圃場周辺の雑草を除草し、媒介するアブラムシの発生源を減らしました。以後は新葉の症状の有無を週1回の見回りで確認し、発生株数が増える場合は作付け全体の扱いを見直します。

理由: ウイルスは感染した株の中で全身に広がり、回復することはない。症状のある葉だけを切り取っても、株全体が伝染源のまま残る。感染株を早期に取り除くことが一次・二次伝染の遮断になり、アブラムシの寄生を減らすことは虫媒伝染の経路を断つことにつながる。

手順と判断基準

病害らしい症状を見つけたら、次の順で確かめます。

ステップ0: 発生の記録を残す

  • いつ、どの圃場の、どの作物・品種で、株のどの部位に出たか
  • 発生株のおおよその数と、点状か面状かという分布の形を記録する

ステップ1: 病徴と標徴を観察する

  • 葉・茎・根・果実のどこに、どんな症状(斑点、萎凋、黄化、奇形、こぶ)が出ているかを見る
  • 病斑の表面や裏面に、カビ・胞子・菌核などの標徴があるか
  • 必要に応じて根を抜いて確かめる。根のこぶや導管の褐変は、地上部だけでは分からない

ステップ2: 分布のパターンから伝染経路を推定する

  • 圃場の端や風上から点状に始まる → 風や虫で運ばれた可能性
  • 低い場所や水の流れる方向に沿って広がる → 水はねや土壌の可能性
  • 特定の前作の場所や、植えた苗のロットに沿って出る → 土壌伝染や種苗伝染の可能性
  • 圃場全体に一様に出て境界が明瞭、標徴がない → 病害ではなく生理障害や環境要因も候補に入れる

ステップ3: 発生条件と照合する

  • 前1週間ほどの気温・降雨・結露の様子と、症状の出始めが合うか
  • 前作と輪作の間隔、残渣の処理、購入苗の由来を確認する
  • 都道府県の病害虫発生予察情報で、その時期に警戒されている病害と照合する

ステップ4: 病原の種類を推定し、対策の順番を決める

  • 標徴があり、条件が合う → 糸状菌(卵菌類を含む)の病害として、伝染源の除去と結露・湿度の管理を先に行う
  • 水浸状の病斑が速く広がる、導管が褐変して萎れる → 細菌性の病害を疑い、作業による接触伝搬と水はねを止めることを優先する
  • モザイク・奇形で標徴がない → ウイルス病を疑い、感染株の除去と媒介虫対策を行う。治療を目的とした資材の検討はしない
  • 根のこぶ・シストがある → 線虫や根こぶ病を疑い、作付け計画(輪作・作目変更)と土の移動の管理で対応する
  • 病原が特定できない場合は、写真と記録を持って都道府県の病害虫防除所や普及指導機関へ相談する

どの場合も、対策の優先順位は 伝染源の除去 → 環境の改善(結露・排水・風通し) → 次作の設計(輪作・品種・種苗) の順を基本とし、資材の使用はその先で検討します。資材を使う場合は、有機JAS別表2に位置づけのある資材のうち、対象の作物と病害に使えるかを、認証機関の判断・資材証明書・ラベルの記載で事前に確認します。

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

症状だけで病名を決め、すぐ資材に頼る

病原の種類が違えば資材は効かず、発生条件も残るため再発する

標徴・分布・発生条件の3点で病原を推定してから対策を決める

罹病した残渣や株をそのまま圃場に残す・すき込む

罹病残渣が次の作の一次伝染源になる

罹病部は圃場の外へ持ち出して処分する。堆肥化する場合は、病原が死滅する条件で完熟させたものだけを使う

雨の日や株が濡れた状態で管理作業をする

手・道具・水滴を介して細菌やウイルスが株から株へ広がる

株が乾いた時間帯に作業し、発生株の作業は最後に回す。道具は洗浄してから使う

施設で換気を後回しにして結露を放置する

葉面の濡れ時間が長くなり、糸状菌の感染条件が毎晩そろう

朝の換気を作業の最初に組み込み、結露している時間を短くする

同じ科の作物を同じ畑で作り続ける

土壌伝染性の病原と線虫が蓄積し、発生が年々重くなる

輪作の間隔を年単位で設計し、科を変えた作付けにする

ウイルス病の株の症状のある葉だけを切り取る

ウイルスは株全体に広がっており、伝染源が残る

株ごと抜き取って圃場の外で処分する

抵抗性品種だけに頼る

病原のレース(系統)の変化で、抵抗性が効かなくなることがある

抵抗性品種は予防の一要素として、輪作・衛生管理・環境管理と組み合わせる

発生してから慌てて一斉に対策する

潜伏期間があるため、目に見える発生の背後で感染が進んでいる

週1回の見回りと発生予察情報の確認を習慣にし、発生初期に手を打つ

まとめ(判断基準の再掲)

  • 病気は 病原・宿主・環境 の3条件がそろったときに成立する。対策はどれか1つを外すこと
  • 病原の種類で侵入と広がり方が違う。糸状菌は付着器・気孔・傷、細菌は開口部と傷、ウイルスは傷のみ(多くは虫媒)、線虫は土壌中の根が入口
  • 判断の順番は 観察(病徴・標徴) → 分布から伝染経路を推定 → 発生条件と照合 → 病原を特定して対策
  • 対策の優先順位は 伝染源の除去 → 環境の改善 → 次作の設計。資材は最後に検討し、可否は認証機関・資材証明書・ラベルで確認する
  • ウイルス病は治療できない。早期の株の除去と媒介虫対策が中心になる
  • 潜伏期間があるため、発生初期の対応と定期的な見回りが被害の大きさを決める

現場実践課題

自分の圃場1枚で、今作に発生した病害らしい症状を1つ取り上げ、「病徴・標徴」「発生の分布」「前1週間ほどの天候(降雨の有無、夜間の結露の様子)」「前作と残渣の扱い」を記録し、病原の種類と伝染経路の推定と、発生条件のうちどれがそろっていたかを書いてください。症状が出ていない圃場では、過去に発生した病害について、圃場の記録と記憶をもとに同じ項目を整理してください。

記録の例:

項目

記録

推定・判断

病徴・標徴

下葉に灰色のカビ、果実に広がり始めた

糸状菌の病害。灰色かび病を疑う

分布

ハウスの出入口側から点状に拡大

風と作業で広がる経路を疑う

天候

最低気温 16 ℃、朝まで結露が残る日が5日続いた

結露による葉面の濡れが感染条件になった

前作・残渣

前作の残渣は圃場外へ処分済み

残渣由来の可能性は低い

そろっていた条件

環境(結露・高湿度)と伝染源(花がら)

換気で結露を切り、花がらを除去する

次の章では、この記録をもとに防除とリスク管理の考え方へ進みます。

現場で使える!専門用語ミニ辞書

病原(びょうげん)
植物の病気を起こす微生物や線虫の総称。糸状菌・細菌・ウイルス・線虫などが含まれる。
病徴(びょうちょう)
病気によって植物に現れる症状。斑点・萎凋・黄化・奇形など、植物側の変化を指す。
標徴(ひょうちょう)
病斑の表面に現れる病原そのものの姿。カビ・胞子・菌核・細菌の漏出液などで、病原の推定に使う。
感染環(かんせんかん)
病原が伝染源で生き残り、植物に感染し、再び伝染源になるまでの循環。防除はこの循環のどこを断つかで設計する。
一次伝染源(いちじでんせんげん)・二次伝染(にじでんせん)
作の初めに感染のもとになる残渣・土壌・種苗などを一次伝染源、発病した株から周囲へ広がる感染を二次伝染と呼ぶ。
潜伏期間(せんぷくきかん)
病原が侵入してから症状が現れるまでの期間。病気によって数日から数週間と幅がある。
付着器(ふちゃくき)
糸状菌が葉の表面で作る、表皮を直接貫いて侵入するための器官。いもち病菌などで見られる。
卵菌類(らんきんるい)
疫病菌やべと病菌のグループ。厳密には菌類ではないが、発生の仕組みや対策は糸状菌の病害に近い。
虫媒伝染(ちゅうばいでんせん)
アブラムシやアザミウマなどの昆虫が病原を運んで広げる伝染の仕方。ウイルス病の主な経路。
土壌伝染(どじょうでんせん)
病原が土壌中で生き残り、根や地際部から感染する伝染の仕方。輪作と土の移動の管理が対策の中心になる。
発生予察(はっせいよさつ)
病害虫の発生時期や量を予測して知らせる仕組み。都道府県の病害虫防除所が情報を出しており、防除の判断材料にする。

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農産物の日本農林規格」および別表2(使用可能な資材)
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 各都道府県の病害虫防除所「病害虫発生予察情報」
  • 各都道府県の病害虫防除基準
  • 『日本植物病害大事典』(岸國平 編、全国農村教育協会)

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    施設のトマトで、夜間の結露が朝まで残る日が数日続いたあと、しおれた花がらや収穫跡の近くに灰色のカビが付き始め、一部の果実に広がりつつあります。灰色かび病が疑われる状況です。

    最初に取る対策として、最も適切なものはどれですか。

  2. Q2/2

    露地のキュウリで、畑の端の数株に新葉のモザイク(濃淡のまだら模様)と葉の縮れが出始め、葉の裏にアブラムシの寄生が見られます。ウイルス病が疑われる状況です。

    取るべき判断として、最も適切なものはどれですか。

学習状況を確認しています…

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