TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

被害発生時の判断

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    病害虫の伝染様式に関する説明として適切なのはどれか。

  2. Q2/2

    有機栽培の防除体系について、新人スタッフが理解しておくべき内容として正しいものはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 病害虫・生理障害の被害を発見したときに、まん延防止の初動(隔離・除去・防除資材の選択)を自分で判断できる
  • 有機JAS認証を維持する上で必要な報告・記録の範囲とタイミングを説明できる
  • 被害の記録を次作の防除体系(phase4-ipmで組んだ体系)の見直しに活かせる

所要時間の目安: 60〜75分(圃場での実地確認を含めると半日)

結論

被害を発見したら、次の順序で判断する。

  1. 特定: 原因が病害・虫害・生理障害・気象害のいずれかを見分ける。判別できない場合は無理に断定せず、都道府県の病害虫防除所や普及指導センターに相談する。
  2. 範囲の把握: 株単位か、畝単位か、圃場全体かを歩いて確認し、被害株数・被害面積を数値で記録する。
  3. まん延防止の初動: 感染性のある病害・虫害であれば、被害株の除去・隔離を圃場の外に出す作業を即日〜翌日中に行う。放置すると次の見回りまでに拡大する。
  4. 防除の要否判断: phase4-ipmで組んだ防除体系の中から、有機JAS別表に適合する資材・方法を選び、ラベルと使用基準を確認してから実施する。
  5. 記録: 発生日、作物名、被害の種類、被害程度、対応内容を記録簿に残す。認証機関の調査で提示できる形にしておく。
  6. 報告: 被害が急拡大し出荷に影響する場合や、使用資材について疑義がある場合は、認証機関・普及指導員に早めに相談する。自己判断だけで抱え込まない。

原理: なぜ初動とまん延防止が重要か

病原体・害虫の増殖と拡散の仕組み

糸状菌病は胞子が風雨や作業者の衣服・農具を介して広がる。1株の発病を放置すると、胞子密度が周辺に蓄積し、次の降雨や多湿条件で一気に感染が拡大する。細菌病は水媒伝染が中心で、灌水や雨滴の跳ね返りで短期間に広がりやすい。害虫は世代時間が短いものが多く、発見時の個体数が少なくても、1〜2週間で世代交代して急増することがある。被害を見つけた時点での対応の速さが、その後の被害規模を左右する。発酵が不十分な堆肥や、排水不良の土壌条件は病原体の温床になりやすいため、土づくり(有機栽培の土づくり)の段階での管理も被害発生の背景として関係する。

生理障害と気象害の見分け方

生理障害(カルシウム欠乏による尻腐れ、窒素過多による軟弱徒長など)は、特定の器官(葉の先端、果実の尻部など)に左右対称に症状が出ることが多く、株によってばらつきが少ない傾向がある。一方、病害虫による被害は、発生源から同心円状・帯状に広がる、または特定の株に偏ることが多い。葉に症状が出た場合でも、原因が根(養水分吸収)にあることもあるため、器官ごとの役割(根は吸収、茎は輸送、葉は同化・蒸散)を踏まえて、症状の出ている場所と原因の所在を切り分けて考える必要がある。

有機JASにおける対応の制約

有機JASでは使用できる資材が別表で限定されている。被害が急拡大した際に、慣行栽培で使われる化学合成農薬を使用すると、その圃場・その作物は認証を失う。資材を使う前に、別表への適合とラベル表示、認証機関への事前確認が必須である。迷った場合は使用せず、耕種的・物理的防除(除去、被覆、トラップなど)を優先する判断が安全である。

判断の実例

実例1: うどんこ病の初期発生

状況: 露地栽培のキュウリで、下位葉の一部に白い粉状の斑点を確認。被害株は畝の一角、約15株中3株に限定されていた。

判断: 被害葉のみを除去し圃場外で処分、資材使用はせず経過観察とした。

理由: 発生範囲が限定的で、風通しを確保する管理(葉かき・畝間除草)で進行を抑えられると判断したため。うどんこ病は乾燥時に胞子が飛散しやすいが、初期段階では物理的除去と環境改善(過繁茂の是正)が有効であり、資材使用は次の見回りで拡大が確認されてから検討する方針とした。

実例2: 軟腐病の急拡大

状況: ハクサイ圃場で、収穫間近の株の一部に悪臭を伴う軟化・腐敗を発見。発生から3日後の再確認で被害株数が5株から20株に増加していた。

判断: 被害株を即日除去・圃場外廃棄し、周辺の灌水を一時停止、認証機関と普及指導センターに状況を報告した。

理由: 軟腐病は細菌性で水媒伝染するため、灌水継続は拡大を助長する。被害株数が3日で4倍に増えており、出荷への影響が見込まれるため、自己判断のみで抱え込まず早期に外部に相談する必要があると判断した。

実例3: 生理障害との誤認回避

状況: トマトの果実に尻腐れ症状が複数株でほぼ一斉に発生。周辺に病斑の広がりパターン(同心円状の拡大)は見られなかった。

判断: 病害ではなくカルシウム欠乏による生理障害と判断し、防除資材は使用せず、灌水管理の見直し(極端な乾湿の繰り返しの是正)を行った。

理由: 発生が株によらず一斉かつ同一時期であり、病斑の拡大パターンが見られないこと、器官の症状部位(果実の尻部に限局)が典型的な生理障害の特徴と一致したため。病害と誤認して不要な資材を使用することを避けた。

手順と判断基準

  • [ ] 被害を発見したら、発見日・作物名・圃場名を記録する
  • [ ] 被害の種類(病害・虫害・生理障害・気象害)を、症状の広がり方(同心円状か一斉かなど)と症状の出ている器官から仮判定する
  • [ ] 判別が難しい場合は、都道府県の病害虫防除所・普及指導センターに相談する(自己判断で放置しない)
  • [ ] 被害株数・被害面積を数えて記録する(例: 畝の何株中何株か、面積の何割か)
  • [ ] 感染性のある病害・虫害と判定した場合、被害株・被害部位を即日〜翌日中に除去し、圃場外で処分する
  • [ ] 灌水・作業動線など、拡大を助長する要因(水媒伝染なら灌水、接触伝染なら作業順序)を一時的に見直す
  • [ ] 防除資材の使用を検討する場合、有機JAS別表への適合をラベル表示と認証機関への確認で裏付けてから使用する
  • [ ] 再確認の間隔を決める(目安として3〜7日後)。被害株数が前回比で増加しているか必ず比較する
  • [ ] 被害株数が短期間(数日)で明確に増加している場合、出荷判断と合わせて認証機関・普及指導員に報告する
  • [ ] 対応内容(除去・資材使用の有無・報告先)を記録簿に残す

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

被害株を圃場内に放置・積み置きする

胞子や害虫の供給源となり、まん延を助長する

被害株・被害部位は即日〜翌日中に圃場外へ持ち出し処分する

症状を見てすぐに資材を使う

生理障害を病害と誤認し、不要な資材使用や対応の遅れにつながる

症状の広がり方・発生部位から仮判定し、迷えば専門機関に相談してから対応する

有機JAS別表を確認せず資材を使用する

認証失効につながる重大な違反になりうる

使用前に別表・ラベル・認証機関への確認を必須の手順にする

被害の記録を残さない

認証機関の調査に対応できず、翌作の防除体系の見直しにも活かせない

発生日・範囲・対応を都度記録簿に記入する

被害拡大を一人で抱え込む

判断の遅れが被害規模・出荷への影響を拡大させる

急拡大や判別困難時は早期に普及指導員・認証機関に報告する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 症状の広がり方と発生部位から、病害・虫害・生理障害・気象害を仮判定する(判別困難なら専門機関へ相談)
  2. 被害株数・面積を数値で把握し、再確認時に増減を比較する
  3. 感染性のある被害は、被害株・部位を即日〜翌日中に圃場外へ除去する
  4. 資材使用は有機JAS別表・ラベル・認証機関への確認を経てから行う
  5. 発生日・範囲・対応内容を必ず記録し、急拡大時は早期に報告する

現場実践課題

自分が管理する圃場で、見回り時に被害(病害・虫害・生理障害いずれでも可)を発見した場合、または過去の記録から1件を選び、以下の記録表を作成する。被害がない場合は、見回りの記録のみでも可とする。

項目

記入例

発見日

2024-06-10

作物・圃場名

キュウリ/第2圃場

症状の内容

下位葉に白色粉状斑点

広がり方の観察

畝の一角に限定、同心円状ではない

仮判定

うどんこ病(初期)

被害株数/総株数

3/15

実施した対応

被害葉の除去・圃場外処分、資材未使用

再確認予定日

2024-06-15

報告の要否

不要(経過観察)

現場で使える!専門用語ミニ辞書

まん延(まんえん)
病害虫が圃場内・周辺に広がっていくこと
水媒伝染(すいばいでんせん)
水を介して病原体が運ばれ感染が広がること。灌水や雨滴の跳ね返りが経路になる
接触伝染(せっしょくでんせん)
作業者の手や農具、株どうしの接触によって病原体が広がること
生理障害(せいりしょうがい)
病原体によらず、養分の過不足や水分ストレスなどで作物に現れる障害
別表(べっぴょう)
有機JASで使用可能な資材を定めたリスト。資材使用前に必ず確認する
認証機関(にんしょうきかん)
有機JAS認証を行う登録認証機関。資材使用や被害対応で疑義がある場合の相談先

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農業の推進に関する法律」及び有機JAS規格(別表一・別表二)
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 都道府県病害虫防除所 病害虫発生予察情報
  • 農研機構 病害虫・雑草に関する技術情報

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    トマト圃場で、複数の株にほぼ同時期に果実の尻部が黒く陥没する症状が発生した。病斑は周辺に同心円状には広がっておらず、灌水管理は乾湿の差が大きい状態が続いていた。

    この状況での最も適切な判断はどれか。

  2. Q2/2

    収穫前のキャベツ圃場で、一部の株に悪臭を伴う軟化症状を発見した。3日後の再確認で被害株数が4株から18株に急増しており、現在も点滴灌水を継続中である。

    この状況での最も適切な初動判断はどれか。

学習状況を確認しています…

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