農業の気候資金、わずか2.5%
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2025年11月9日からトルコ・アンタルヤで開幕するCOP31(国連気候変動枠組条約締約国会議)を前に、農業分野への気候資金の少なさが改めて注目されている。公的気候資金のうち農業・土地利用システムに回る割合はわずか2.5%。一方でこの分野は世界の温室効果ガス排出の約33%を占めるとされる。排出源としての比重と、資金配分の比重が大きく乖離している状況だ。
この格差は、気候変動の影響を最も受けやすい低中所得国の小規模農家にとって切実な問題でもある。資金が足りなければ、干ばつや洪水への備えも、収量を増やす技術投資もままならない。かといって、限られた資金をどこに振り向けるべきかは専門家の間でも意見が分かれる論点だ。本記事では、COP31を前に行われたウェビナーでの議論をもとに、気候資金と農業、そしてAI活用のリスクについて整理する。
気候資金の偏り、農業はわずか2.5%
国際農業研究機関CGIAR(シージアール)のイスマハネ・エルオウアフィ事務局長は、今週のウェビナーで次のように述べた。
「農業・食料システムが(世界の温室効果ガス排出の)33%を占めるなら、資金もその割合まで引き上げるべきだ。そうすれば排出削減と気候変動への適応・緩和のための手段を手にできる」
国連は気候資金を「緩和と適応、特に開発途上国への支援のために、公的・民間・その他の資金源から資金を提供・動員すること」と定義している。農業・土地利用はこれまでの気候変動交渉で後回しにされてきた経緯があり、小規模農家は気候リスクに最も脆弱な層の一つとされる。
排出シェアと資金シェアの乖離
項目 | 割合 |
|---|---|
農業・土地利用の温室効果ガス排出シェア | 約33% |
公的気候資金のうち農業・土地利用向け | 約2.5% |
「予測は農家を養わない」現場視点の転換
CGIARの気候アクション部門ディレクター、トッド・ローゼンストック氏は、気候リスクの予測精度を高めるだけでは不十分だと指摘する。
「干ばつや洪水の予測が当たるかどうかは、農家を守ることとは別の話だ。予測を農場レベルでの行動変化につなげられるかどうかで、我々の取り組みの成否を測っている」
例えばエルニーニョが予測される場合、農家が作付け時期や作物の選択、水・家畜の管理方法を調整できるかどうかが鍵になる。だが多くの小規模農家にとって、これは簡単なことではない。
- 農家には資源・制度・支援サービスへのアクセスが必要
- 科学の役割は政府の政策や開発銀行の資金配分を後押しすること
- 課題は予測精度の向上だけでなく、信頼される情報伝達の仕組み構築
「課題は、より良い予測を作ることだけではない。制度を作り、信頼を築き、農家が慣れた方法で情報を届けることだ」とローゼンストック氏は語る。
まず必要なのは適応支援
気候資金を巡っては、排出削減策と適応策のどちらに重点を置くかというバランスの難しさが常に議論になる。ローゼンストック氏は両者の共存が必要だとしつつ、エルオウアフィ氏は「まず途上国の農家に投資すべきだ」と強調する。
「農業システムを転換するには、まず適応から始める必要がある。脆弱なコミュニティ、特に小規模生産者を支援し、排出の多い慣行から、生産性を保ちながら排出の少ない慣行へ移行できるようにしなければならない」
具体例として挙げられたのが収量ギャップの問題だ。低中所得国では、1ヘクタールあたり1.5ポンドしか収穫できていない土地が、適切な栽培条件下では8ポンドの収量を得られるケースがあるという。現状、多くの農家はこの差を埋めるために、新たに土地を切り開いて耕作地を増やすという対応を取っている。
エルオウアフィ氏の提言は明確だ。「新たに土地を切り開いて収量を増やすのではなく、今使っている土地でイノベーションや優れた種子、灌漑を導入し、1ヘクタールあたりの生産性を高めるべきだ」。畜産でも同様に、適切な飼料やワクチン接種、農家への支援があれば搾乳量を増やせるとしている。
農業技術は「地域条件」次第
技術はこうした課題解決を後押しする存在として期待されるが、ウェビナーの参加者は「適切な場所に、適切なタイミングで、適切な技術が届いて初めて意味を持つ」との見解で一致した。生産性、食料・栄養安全保障、農場のレジリエンス、排出削減のいずれにも貢献しない技術は、農場では使われにくい。
ローゼンストック氏が挙げたのは、東南アジアの稲作におけるCGIARの取り組みだ。水田に間断灌漑(AWD)を導入することでメタン排出を減らす手法で、稲作でのメタン削減策として広く実証されている。ただし、すべての圃場で機能するわけではない。
- 生産者自身が水管理の権限を持たないケースがある
- 水利システムを自分でコントロールできない農家にはAWDの導入自体が不可能
- 成果は地域条件に大きく左右される
「結果は本当に地域条件次第だ。水をコントロールする権限を持っていない人も多く、これは万能な解決策ではない」とローゼンストック氏は述べた。
AIが広げる可能性と格差リスク
この「地域条件次第」という視点が最も当てはまるのがAIだとウェビナーでは指摘された。
「モデルの質は、入力されるデータの質次第だ。これまでAIの学習データの多くは、我々がアフリカ・南北アメリカ・アジアで関わろうとしている農家のタイプを十分に反映してこなかった」とローゼンストック氏は語る。
エルオウアフィ氏も、投資家にとってAIが高いリターンの可能性を持つことを認めつつ、今後数年で広がりうる不平等に警鐘を鳴らす。
「電話すら持っていない低所得国の小規模農家の話をしている。緩和戦略の文脈で、AIや情報共有のあり方を『考え直す』必要がある」「人々のレベル、特に脆弱なコミュニティにおいては、資金がAIやテクノロジーに偏り、他の分野への配分が一層絞られていくリスクを感じている」
まとめ
COP31を前に明らかになったのは、農業が世界の温室効果ガス排出の約33%を占めながら、公的気候資金の配分はわずか2.5%にとどまるという構造的な偏りだ。CGIARの専門家は、予測精度の向上だけでなく、小規模農家が実際に行動を変えられる支援体制と、地域条件に合わせた技術導入の重要性を強調している。
この構図は、日本のアグリテック・スタートアップやベンチャー企業にとっても示唆的だ。海外の小規模農家向けに開発されたAIモデルやセンサー技術をそのまま国内に転用しても、土壌・水利・経営規模といった地域条件が異なれば同じ成果は見込めない。導入を検討する経営者は、技術の対象地域でどんなデータで学習されたモデルか、自社の圃場条件や水利権の実態と合致するかを事前に確認する必要がある。ITリテラシーの面では、現場担当者が信頼できる形で情報を受け取れる体制づくりが、技術そのものの精度以上に成果を左右する可能性がある点も踏まえておきたい。
あなたの現場では、気候資金や新技術の配分の偏りをどう感じますか。あなたの現場の声を、記事下のアグリコメで聞かせてください。
現場で使える!専門用語ミニ辞書
- 気候資金(きこうしきん・クライメートファイナンス)
- 緩和や適応の取り組みを支援するために公的・民間資金から拠出される資金のこと。農業分野での資金配分の少なさが今回の議論の出発点になっている。
- 緩和策・適応策(かんわさく・てきおうさく)
- 緩和策は温室効果ガスの排出そのものを減らす取り組み、適応策は既に起きている気候変動の影響に備える取り組みを指す。現場では両方のバランスが課題になる。
- CGIAR(シージアール)
- 世界各地の農業研究センターが連携する国際農業研究グループ。気候変動と食料安全保障に関する研究・政策提言を行う。
- 収量ギャップ
- 同じ土地でも、実際の収量と最適な栽培条件下で得られる潜在的な収量との差のこと。技術導入による改善余地を示す指標として使われる。
- 間断灌漑(かんだんかんがい・AWD)
- 水田に常時水を張らず、乾燥と湛水を交互に繰り返す稲作の水管理方法。メタン排出削減策として知られるが、水利権を持たない農家には導入が難しい。
- 学習データのバイアス
- AIモデルの学習に使われるデータが特定の地域や属性に偏っていること。途上国の小規模農家に関するデータが少ないと、AIの予測や提案が現場の実態と合わなくなるリスクがある。
参考
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アグリコメ 1
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編集部NextTrend Review 編集部
【編集部より】現場の皆さんは、気候変動対応にかかる資金やコストの負担感をどう感じていますか?地域や作目による違いもあわせて教えてください。