TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

気象リスクへの備え

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    大気中の二酸化炭素濃度について、気象庁の観測に基づく現在のおおよその値として適切なものはどれか。

  2. Q2/2

    土壌が過湿になった場合、作物の根に最初に起こる生理的な問題として適切なものはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 高温・多雨・干ばつ・台風のそれぞれについて、発生前・発生時・発生後の対応を栽培計画に組み込める
  • 自圃場の土壌群・排水条件・作目構成から、どの気象リスクを優先して備えるべきか判断できる
  • 気象リスクによる品質低下 (食味・形状の劣化) のメカニズムを説明し、未然に防ぐ資材・作業の選択ができる

所要時間の目安: 90分 (圃場点検を含める場合は半日)

結論

気象リスクへの備えは、次の順番で検討する。

  1. 自圃場の弱点を特定する: 土壌群 (黒ボク土・低地土・砂質土など) ごとの排水性・保水性、圃場の傾斜、周辺の防風条件を確認する
  2. 作付け計画の段階でリスクを分散する: 作期・品種・圃場をずらし、同一リスクに全量が同時にさらされないようにする
  3. 土づくりで耐性の土台を作る: 団粒構造と有機物量を高め、過湿にも干ばつにも緩衝力のある土にする (年単位の取り組み)
  4. 発生前の予防作業を優先する: 排水溝の確保、防風対策、敷きわら・マルチによる地温と水分の安定化を、天候悪化の予報が出る前に終わらせる
  5. 発生時は被害を最小化する応急対応を行う: 排水、遮光、支柱・誘引の補強など、作物の生理に即した対応を取る
  6. 発生後は速やかに記録し、次作の計画に反映する: 被害程度・原因・対応の効果を記録し、翌年の圃場選定や作期設定に活かす

資材の使用可否は有機JASの別表と認証機関・ラベルで必ず確認する。

原理: 気象ストレスが作物に与える影響

高温の影響

高温は葉の蒸散を増加させ、根からの吸水が追いつかなくなると気孔が閉じ、光合成速度が低下する。果菜類では高温により花粉の稔性が低下し、着果不良や奇形果が増える。これは収穫物の形状に直結する商品価値の問題である。また、呼吸速度が同化速度を上回ると、貯蔵器官 (果実・塊根・塊茎) への養分転流が減り、糖度や食味が低下する。およそ420 ppmの大気中二酸化炭素濃度のもとでも、高温による気孔閉鎖が続けば光合成の制約は解消されない。

多雨・過湿の影響

土壌が過湿になると、作土の間隙が水で満たされ、根の呼吸に必要な酸素が不足する。根が酸欠になると吸水・吸肥機能が低下し、地上部の萎れや黄化として症状が現れる。さらに過湿は糸状菌性の土壌病害 (疫病・立枯病など) の発生を助長する。排水性の悪い低地土や粘質土壌では、心土の透水性が作土の水はけを左右するため、心土の状態まで確認する必要がある。

干ばつの影響

土壌水分が不足すると、根は水を求めて深層へ伸びようとするが、心土が硬盤化していると根の伸長が妨げられる。葉は気孔を閉じて蒸散を抑えるが、これにより光合成も制限され、生育が停滞する。砂質土壌は保水力が低く干ばつの影響を受けやすい一方、黒ボク土は団粒構造が発達していれば保水力を保ちやすい。

台風・強風の影響

強風は茎葉の機械的損傷に加え、塩害 (海沿いの地域での潮風) や倒伏を招く。倒伏すると茎の輸送機能が損なわれ、着果中の果実や子実への養分供給が途絶える。支柱・誘引・防風ネットなどの物理的対策は、発生前にしか効果を発揮しない。

判断の実例

実例1: 梅雨時期の多雨予報と排水対策

状況: 低地土の圃場で、1週間後に梅雨前線による多雨が予報されている。圃場の一部に水が溜まりやすい低い箇所がある。 判断: 予報が出た時点で、明渠や額縁排水を速やかに整備し、低い箇所には追加の排水路を設ける。 理由: 過湿による根の酸欠と土壌病害の発生は、排水対策を事後に行っても回復が難しいため、発生前の対応が最も効果的である。

実例2: 真夏の高温による果菜類の着果不良

状況: 夏期の最高気温が高い日が続き、トマトの着果率が低下している。 判断: 遮光資材で日中の強光・高温を緩和し、灌水回数を増やして地温の急上昇を抑える。 理由: 高温による花粉稔性の低下は薬剤で直接補えないため、環境側 (遮光・灌水) で生理ストレスを緩和する対応が有効である。

実例3: 台風接近前の圃場点検

状況: 台風の進路予報が出て、3日後に接近する見込みである。 判断: 支柱の補強、誘引ひもの点検、防風ネットの設置を接近2日前までに完了させる。倒伏リスクの高い作物は可能な範囲で早めに収穫する。 理由: 強風による倒伏・損傷は事後の対応では回復できず、物理的な備えが唯一の有効策であるため、時間的余裕を持って作業を終える必要がある。

手順と判断基準

  • [ ] 圃場ごとの土壌群と排水性・保水性を把握しているか (低地土・砂質土は特に優先点検)
  • [ ] 気象庁等の予報を定期的に確認し、1週間先の傾向を把握しているか
  • [ ] 多雨予報が出た場合、作業を予報から3日以内に完了させているか (排水路整備・明渠の確保)
  • [ ] 高温が続く時期 (目安として最高気温が高い日が複数日続く場合)、遮光・灌水計画を前倒ししているか
  • [ ] 干ばつが懸念される場合、土壌水分の目視・触診確認を定期的に行っているか
  • [ ] 台風接近の予報が出た場合、接近2日前までに支柱・誘引・防風対策を完了させているか
  • [ ] 被害発生後、程度・原因・対応内容を記録に残しているか

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

排水対策を雨が降ってから始める

降雨中は作業が困難で、根の酸欠と病害がすでに進行してしまう

予報の段階で明渠・排水路を整備しておく

高温対策を遮光資材の有無だけで判断する

灌水や地温管理を伴わないと蒸散バランスが崩れたままになる

遮光と灌水・敷きわらを組み合わせて地温と水分を同時に管理する

台風対策を前日にまとめて行う

強風下での作業は危険で、支柱の補強が間に合わないことがある

進路予報の確認後、2日前までに作業を終える計画にする

被害後の記録を取らない

翌年同じ圃場・作期で同じ被害を繰り返す

被害程度・原因・対応の効果を簡潔に記録し、次作の作期・圃場選定に反映する

心土の状態を確認せず排水性を判断する

作土の見た目だけでは心土の硬盤化や透水性の悪さを見落とす

土壌断面を掘って心土の状態も定期的に確認する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 自圃場の弱点 (土壌群・排水性・保水性・風当たり) を事前に把握する
  2. 作期・品種・圃場を分散し、同一リスクへの一括暴露を避ける
  3. 土づくりで団粒構造と有機物量を高め、過湿・干ばつ双方への緩衝力を養う
  4. 予防作業は予報が出た時点で速やかに着手し、発生時の応急対応は生理に即して行う
  5. 発生後は記録を残し、次作の計画に反映する

現場実践課題

自圃場について、高温・多雨・干ばつ・台風のそれぞれに対する備えを一覧化し、1作期を通じて記録を取る。

項目

記入例

想定リスク

梅雨時期の多雨

弱点箇所

圃場北側の低い区画 (低地土、排水やや不良)

予防作業

明渠整備、額縁排水の追加 (予報確認後3日以内に実施)

発生時の対応

追加排水路の確保、生育状況の観察強化

被害の有無・程度

(記録する)

次作への反映事項

(記録する)

現場で使える!専門用語ミニ辞書

明渠(めいきょ)
地表に掘る開放型の排水路。降雨後の滞水を速やかに圃場外へ排出する
額縁排水(がくぶちはいすい)
圃場の外周を囲むように設ける排水溝。圃場全体の排水性を底上げする
心土(しんど)
作土の下にある層。透水性や硬盤化の有無が排水性・根の伸長に影響する
硬盤層(こうばんそう)
耕うんの繰り返し等で心土が締め固まった層。根の伸長や水の浸透を妨げる
塩害(えんがい)
台風などで運ばれた潮風により、葉や土壌に塩分が付着・蓄積して生じる生育障害
稔性(ねんせい)
花粉が受精能力を持つ性質。高温や低温で低下すると着果不良につながる

参考(一次情報)

  • 気象庁「気候変動監視レポート」「大気中二酸化炭素濃度の観測結果」
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 農研機構 関連研究成果・技術情報 (高温障害・排水対策等)
  • 都道府県の栽培指針・病害虫防除所の発生予察情報
  • 日本農林規格 (JAS) 有機農産物の生産方法の基準

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    低地土の圃場で夏の高温が続き、トマトの着果率が低下している。資材店で「花粉の稔性を高める」とうたう薬剤を勧められた。

    この状況での最も適切な対応はどれか。

  2. Q2/2

    黒ボク土の圃場で、5日後に台風の接近が予報された。圃場には支柱栽培のナス、誘引していないキュウリ、収穫間近の葉物野菜がある。現時点で防風ネットや支柱補強は未着手である。

    この時点で取るべき最も適切な対応はどれか。

学習状況を確認しています…

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