TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

記録と検査の実務

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    有機JAS 認証制度が「証明できること」を基準にしているとはどういう意味か。

  2. Q2/2

    有機JAS における「別表」とは何か。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 有機JAS の実地検査で求められる栽培記録の項目を理解し、日々の作業を記録に残せる
  • 資材の使用記録・種苗の出所・ほ場の履歴を、検査員の質問に答えられる形で整理できる
  • 実地検査の流れ(事前準備 → 書類確認 → ほ場巡回 → 指摘対応)を把握し、一人で検査当日の対応ができる

所要時間の目安: 本文の通読に20分、記録様式の整備と試行に半日〜1日。

結論

記録と検査対応は、次の順番で判断します。

  1. まず「何を記録するか」を先に決める。ほ場・種苗・資材・作業・収穫・出荷の6区分で記録様式を用意する。
  2. 記録は作業の都度、その日のうちに付ける。後からまとめて書くと資材の使用日や数量が不正確になり、検査で整合性が取れなくなる。
  3. 資材を新規に使う前に、有機JAS 別表への適合を認証機関に確認してから使用する。使用後ではなく使用前に確認する。
  4. 種苗は由来(自家採種か購入か、有機種苗か)を記録し、購入の場合は納品書・ラベルを保管する。
  5. 検査前に、記録・書類・ほ場の3点が一致しているかを自分で点検する(記録に書いた資材が在庫にあるか、使用量が面積に対して妥当か)。
  6. 検査当日は、聞かれたことに記録で答える。記録にない作業は「やっていない」として扱われる前提で臨む。
  7. 指摘を受けた場合は、その場で反論せず、是正の方法と期限を確認し、記録に是正内容を残す。

原理: なぜ記録が検査の土台になるのか

有機JAS は「証明できること」を基準にしている

有機JAS は、栽培方法そのものの良し悪しを評価する制度ではなく、「化学合成資材を使わず、規格に適合した方法で生産されたこと」を第三者が確認できる状態を求める制度です。確認の手段は現地の目視だけでは不十分で、資材の購入記録、使用記録、ほ場の作業記録が一致して初めて「証明できた」ことになります。記録がなければ、実際に基準通りに栽培していても、検査上は確認できないため認証が維持できません。記録は栽培の結果ではなく、栽培が基準通りであったことの証拠です。

トレーサビリティの考え方

認証は「ほ場 → 栽培 → 収穫 → 出荷」までの一連の流れが追跡できることを前提にします。途中の記録が欠けると、その区間だけ有機であることの証明が途切れます。例えば資材の使用記録はあっても、どのほ場・どの作物に使ったかが書かれていなければ、トレーサビリティとしては不十分です。区分ごとの記録をつなげて初めて、一つの農産物の履歴になります。

みどりの食料システム戦略との関係

みどりの食料システム戦略は有機農業の面積拡大を政策目標としていますが、拡大した面積が制度として機能するためには、個々の経営体の記録と検査の実務が確立していることが前提になります。記録の省力化や電子化が今後進められるとしても、「何を記録すべきか」という基本の考え方は変わりません。

判断の実例

実例1: 新しい資材を使いたいとき

状況: 病害対策として、これまで使ったことのない微生物資材を入手した。ラベルには「有機栽培に使用可能」と書かれている。

判断: ラベルの表示だけで使用を決めず、認証機関に別表適合の確認を取ってから使用する。

理由: ラベル表示は資材メーカーの判断であり、有機JAS 別表への適合を保証するものではない。別表に掲載されていない資材や、掲載資材でも製造工程に化学合成物質が使われている場合は不適合となることがある。使用後に不適合と判明すると、そのほ場の作物が規格外になる。

実例2: 記録の付け方を後回しにしていた場合

状況: 繁忙期の作業を優先し、堆肥の投入記録を2週間分まとめて記憶で記入した。

判断: 記憶での一括記入は避け、投入の都度、投入日・資材名・ロット・数量・ほ場名をその場でメモし、後で清書する運用に改める。

理由: 検査では投入量とほ場面積の関係、投入日と作付けの時期的整合性を確認される。記憶に基づく記録は日付や数量にずれが生じやすく、整合性が取れないと記録の信頼性全体が疑われる。

実例3: 検査当日に記録のない作業を指摘された場合

状況: 検査員から「このほ場で緑肥をすき込んだ記録がないが、作付け前の畝立てが早い。何をしたか」と聞かれた。

判断: 記録にない作業は「記録がない」とそのまま答え、記憶で補足する場合はその旨を明示する。その場で記録を後付けしない。

理由: 検査は記録に基づく確認が原則であり、後から記録を作成すると記録の信頼性そのものが損なわれる。記録の不備は是正指導の対象であり、その場で取り繕うより、不備を認めて次回までに記録様式を改善する方が、認証継続の観点で適切に扱われる。

手順と判断基準

ステップ1: 記録区分を決める

  • ほ場記録(転換期間の起算日、周辺からの飛散防止策を含む)
  • 種苗記録(由来、購入先、ロット)
  • 資材記録(購入日、資材名、別表適合確認の有無、使用日、使用量、使用ほ場)
  • 作業記録(播種・定植・中耕・かん水・防除・収穫の日付)
  • 出荷記録(出荷日、数量、出荷先、ロット)
  • 分別管理記録(有機と慣行を同一経営内で行う場合の混入防止策)

ステップ2: 記録の頻度を決める

  • 資材投入・防除作業: 当日中に記入
  • 生育観察: 週1回を目安に記入(頻度は作目・生育ステージに応じて増減)
  • 収穫・出荷: その都度記入

ステップ3: 新規資材のチェック分岐

  • 別表に資材名が掲載されている → 認証機関に適合確認を取り、確認が取れたら使用し記録
  • 別表に掲載がない、または製造工程が不明 → 使用しない。認証機関に個別相談
  • 家畜ふん堆肥を使う場合 → 飼養方法(飼料・薬剤)は規格で問われない。確認点は「堆肥化過程で化学合成資材が混入していないこと」と「発酵が完了していること(未発酵のものは使用不可)」の2点

ステップ4: 検査前点検

  • 記録簿とほ場の作付け状況が一致しているか
  • 資材の購入記録と在庫量、使用記録の数量が一致しているか
  • 転換期間中のほ場と有機ほ場が記録上も区別されているか
  • 前回検査の指摘事項に対する是正記録が残っているか

ステップ5: 検査当日の対応

  • 書類は区分ごとにファイルを分けて、検査員が求める項目をすぐ出せるようにする
  • 質問には記録に基づいて答え、記録にないことは「記録なし」と答える
  • 指摘事項はその場でメモを取り、是正期限を確認する

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

資材を使ってから別表適合を確認する

不適合と判明した場合、そのほ場の作物が規格外になり出荷に影響する

使用前に認証機関へ確認し、確認が取れるまで使用を保留する

記録を繁忙期にまとめて後付けする

日付・数量の誤りが生じやすく、検査で整合性が取れない

作業の都度その場でメモし、定期的に清書する習慣をつける

慣行と有機のほ場・資材を同じ場所で保管する

混入のリスクがあり、分別管理が証明できない

保管場所・器具を物理的に分け、分別管理記録を付ける

ラベル表示だけを根拠に資材を使う

ラベルは別表適合を保証しない

認証機関またはJAS 法令・別表の原文で確認する

検査時に記録のない作業をその場で記入する

記録の信頼性全体が疑われる

記録がないことを認め、是正は次回以降の運用改善で対応する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 記録区分(ほ場・種苗・資材・作業・出荷・分別管理)を先に決めてから運用する
  2. 記録は作業当日に付け、後からの一括記入はしない
  3. 新規資材は使用前に別表適合を認証機関に確認する
  4. 家畜ふん堆肥は飼養方法ではなく、堆肥化過程の非混入と発酵完了を確認する
  5. 検査前に記録・書類・ほ場の3点の整合性を自分で点検する
  6. 検査当日は記録に基づいて答え、記録にない作業は後付けしない

現場実践課題

自分の経営のほ場を1圃場選び、1か月間、以下の記録様式を実際に運用してください。運用後、記入漏れが生じた項目を洗い出し、様式を改善してください。

日付

区分

内容

資材名・数量

ほ場名

備考

例: 4/10

資材投入

堆肥投入

完熟牛ふん堆肥 200kg

第1圃場

発酵確認済み

例: 4/12

作業

播種

—

第1圃場

品種名記載

例: 4/20

生育観察

発芽確認

—

第1圃場

欠株率を記録

現場で使える!専門用語ミニ辞書

別表(べっぴょう)
有機JAS 規格に付属し、使用可能な資材を具体的に列挙した表。資材の可否はまずここで確認する
トレーサビリティ
ほ場から出荷までの履歴を記録でたどれる状態のこと
ロット
同一条件で生産・製造された資材や農産物のひとまとまりの単位。記録・追跡の基本単位になる
分別管理
有機と慣行の資材・農産物を混同しないよう、保管・作業を物理的に区分して管理すること
転換期間
慣行栽培から有機栽培に切り替えた後、有機JAS 認証を受けるまでに必要な一定の期間
実地検査
認証機関の検査員が、記録と現地のほ場・設備を照合して基準適合を確認する検査
是正(ぜせい)
検査で指摘された不備を、期限内に直す対応のこと

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農産物の日本農林規格」
  • 農林水産省「有機農産物及び有機加工食品の検査認証制度」関連資料
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 各登録認証機関が公表する認証申請・実地検査の手引き

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    有機JAS認証を取得している露地野菜農家で、アブラムシ被害が出始めたため、資材販売店から「有機栽培対応」と表示された新しい天敵誘引資材を購入した。ラベルには製造工程の詳細は記載されていない。すぐに散布したい状況である。

    この資材を使用する前に取るべき最も適切な対応はどれか。

  2. Q2/2

    実地検査当日、検査員から「このほ場で除草のために何か資材を投入した記録が見当たらないが、雑草が少ない。何か対応したか」と質問された。担当者は記憶では手取り除草をしたような気がするが、記録簿には記載がない。

    このときの最も適切な対応はどれか。

学習状況を確認しています…

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