TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説
土壌の生物
本サイトはアフィリエイトプログラムに参加しており、記事内のリンク経由で商品やサービスが購入された場合、運営者が報酬を受け取ることがあります。掲載内容は公開情報をもとに独自に構成しています。
PRE-CHECK
事前チェック
読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。
Q1/2
収穫後の圃場に残った作物残さや、施した堆肥が、土の中で少しずつ姿を変えていきます。
土に施した有機物が分解されて、作物が吸える無機の養分(窒素など)に変わる過程を何と呼びますか。
Q2/2
有機物を土に入れる前に、その資材の C/N 比(炭素と窒素の比)を確かめる場面です。
C/N 比が高い資材(稲わらやもみ殻など)を土に入れた直後に起きやすいことはどれですか。
この章で学ぶこと(学習目標)
この章を終えると、次のことができるようになります。
- 土の中で有機物が分解されていく順序(土壌動物による細分化 → 微生物による分解 → 腐植の形成)を、物質循環の言葉で説明できる
- 施した有機物が「早く効くか、ゆっくり効くか、窒素を奪うか」を、C/N 比と資材の性質から見通せる
- 分解が進む条件(温度・水分・空気・pH)を挙げ、圃場の状態から分解の進み具合を判断できる
所要時間の目安: 本文 10 分、現場実践課題 40 分。
結論
土壌生物の働きの判断は、次の順で行います。
- まず「何が分解されるか」を見る。分解の速さと窒素の出方は、資材の C/N 比と硬さ(リグニンなどの難分解成分の多さ)でほぼ決まる
- 次に「分解できる条件か」を見る。温度・水分・空気・pH がそろわなければ、良い資材を入れても分解は進まない。特に過湿と強酸性は分解を止める
- 窒素の動きで作付けとつなぐ。分解の過程では窒素は有機態 → アンモニア態 → 硝酸態と姿を変える。作物が吸う時期と、窒素が出る時期を合わせる
- 腐植は「残り」として見る。分解しきらずに残った安定した有機物が腐植になり、前章で学んだ CEC と団粒を担う。毎年少しずつ有機物を入れ続けることが、腐植を維持する唯一の方法である
- 土づくりは、生物を育てる営みとして年単位で設計する。生物が働き続けるには、餌となる有機物の補給と、空気・水分・pH の条件を毎年整え続ける必要がある。1回の投入で完結するものではなく、作付けと有機物の収支を年単位で組み立てることが土づくりである
有機JAS の基準が求める「土壌の性質に由来する農地の生産力」は、この生物の働きそのものです。肥料分を直接入れるのではなく、生物が分解して養分を出す仕組みを圃場に持たせることが、有機栽培の土づくりの中心になります。
原理: 分解と物質循環はどう進むか
分解の担い手 — 土壌動物と微生物
土に入った有機物(作物残さ、堆肥、緑肥、根)は、まず 土壌動物 がかみ砕き、細かくします。ミミズ、トビムシ、ダニ、ヤスデなどが代表で、ミミズは落ち葉や残さを食べて土と混ぜ、ふんとして出します。細かくなることで表面積が増え、微生物が働きやすくなります。
実際の化学的な分解を担うのは 微生物 です。細菌、糸状菌(カビ)、放線菌などが有機物を分解し、二酸化炭素と水、無機の養分(窒素、リン酸、カリなど)に変えます。これを 無機化 と呼びます。逆に、微生物が無機の養分を取り込んで自らの体を作る動きを 有機化 と呼び、両方が同時に進んでいます。
分解の速さは生物の種類で違います。糖やタンパク質は速く、セルロースは中程度、リグニン(木質の成分)は遅く、最後に残った成分が再合成されて 腐植 になります。前章で学んだとおり、腐植は CEC を高め、団粒構造をつくる中心的な物質です。
分解者の3グループ — 細菌・糸状菌・放線菌
微生物の中でも、分解の主役は 細菌、糸状菌(カビ)、放線菌 の3グループです。同じ「分解」でも、得意な材料と好む条件が違います。圃場の pH 管理・水分管理・有機物の与え方は、この3グループのどれが働きやすい環境かを作ることでもあります。
細菌 は、増殖が速く、条件がそろうと一気に数が増えて働くグループです。糖やタンパク質など分解しやすい成分の初動を担い、有機態窒素をアンモニア態に変える(アンモニア化)中心でもあります。アンモニア態を硝酸態に変える硝酸化成菌も、マメ科と共生して窒素固定を行う根粒菌も、細菌の仲間です。中性から弱アルカリ側で、適度な水分がある条件を好み、強酸性では活動が落ちます。効きの速い有機質肥料や柔らかい緑肥が短期間に分解して窒素を出すのは、主に細菌の働きによるものです。
糸状菌(カビ) は、菌糸を伸ばして資材の中に入り込み、セルロースや、細菌が苦手とするリグニンのような分解しにくい成分まで分解できるグループです。菌糸は土の粒子同士を結びつける働きもあり、団粒構造の形成に関わります。植物の根と共生する菌根菌も糸状菌の仲間です。酸性側でも働けるため、酸性の土では分解の担い手が糸状菌に偏ります。一方で、糸状菌の中には作物に病気を起こす仲間もいます。分解者として働く顔と、病原としての顔の両方を持つことは、病害を扱う章への接続として覚えておきます。
放線菌 は、細菌の仲間でありながら菌糸を伸ばす、両者の中間のようなグループです。セルロースや、糸状菌の細胞壁や昆虫の外殻に含まれるキチンのような、分解しにくい成分を分解します。抗生物質を作る仲間がいて、病原菌との競合や抑制に関わるとされます。掘りたての土の「土の匂い」は、放線菌が作る物質によるものです。やや乾いた条件や、中性からアルカリ側を好む傾向があります。
3グループは、材料と条件で分担しています。分解しやすい成分には細菌が速く反応し、硬く木化した成分は糸状菌が時間をかけて崩し、分解の後段で残る手強い成分には放線菌が関わります。酸性では糸状菌が優占し、中性付近では細菌の働きが活発になる、といった顔ぶれの変化もあります。どのグループが「良い」のでもありません。有機物の質と量、pH、水分をどう管理するかで、圃場の分解の進み方そのものが変わる、というのがここでの判断の軸です。
C/N 比 — 分解の速さと窒素の出方を決める
微生物の体は、炭素と窒素を一定の割合で必要とします。資材の C/N 比(炭素と窒素の比)が高い、つまり窒素に対して炭素が多い資材は、分解する微生物が土の中の窒素を集めて使うため、一時的に作物が使える窒素が減ります。これが前章で触れた 窒素飢餓 です。
目安として、C/N 比がおおむね 20〜30 を境に、それより低い資材は分解の過程で窒素を出し(無機化が勝る)、高い資材は窒素を取り込む(有機化が勝る)傾向があります。稲わらやもみ殻のような炭素の多い資材は C/N 比が高く、家畜ふんや油かすのような窒素の多い資材は低くなります。具体の値は資材の種類や状態で幅があるため、施す資材の分析値や、都道府県の施肥基準に載る代表値で確かめます。
C/N 比が同じでも、リグニンの多い木質資材は分解が遅く、柔らかい緑肥は速く分解します。C/N 比は「窒素の出方」の目安、硬さは「速さ」の目安として、2つを合わせて見ます。
窒素の循環 — 有機態から硝酸態へ
有機物の中の窒素は、微生物の分解を受けて アンモニア態窒素 になります(アンモニア化)。アンモニア態窒素は、硝酸化成菌(硝化菌)の働きで 硝酸態窒素 に変わります(硝酸化成)。多くの畑作物は硝酸態窒素を主に吸収します。
知っておくべき性質が3つあります。
- 硝酸化成は酸素と温度を必要とする。水がたまった酸素不足の土では進まず、逆に硝酸が窒素ガスになって空気中へ逃げる 脱窒 が起きる。過湿の畑では、入れた窒素が作物に行かず失われやすい
- アンモニア態は土に吸着されるが、硝酸態は水と一緒に流れる。分解のタイミングが雨や作物の吸収とずれるほど、硝酸態窒素は流亡しやすい
- マメ科の根粒菌は空気中の窒素を取り込む(窒素固定)。緑肥や輪作にマメ科を入れると、外から窒素を持ち込まずに土の窒素を増やせる。有機栽培で窒素を確保する基本の仕組みの1つである
根の周り(根圏)では、根から出る分泌物を餌に微生物が集まり、養分の無機化が活発になります。また、多くの作物は 菌根菌(アーバスキュラー菌根菌)と共生し、菌糸を通じてリン酸などを吸収しています。耕うんのたびに菌根菌の菌糸ネットワークは物理的に切断され、宿主のない裸地の期間が長いと菌そのものも減っていくとされ、緑肥や被覆で根のある期間を長く保つことが、その維持につながります。
分解が進む条件 — 温度・水分・空気・pH
土壌生物の活動は、温度・水分・酸素・pH で決まります。
- 温度: 活動は温度とともに上がり、地温が低い冬は分解が緩やかになる。秋に施した有機物の分解が春先にまとめて進むのは、水分と温度がそろうためである
- 水分: 乾きすぎても、過湿でも活動は落ちる。水が土のすき間をふさぐと酸素が入らず、好気性の分解が止まって有機酸などの有害な中間生成物がたまりやすい(異常還元)。未熟な有機物を過湿の土に入れると、根を傷める原因になる
- 空気: 分解の主役は酸素を使う微生物である。前章で学んだ団粒構造と気相の確保は、生物の住みかと呼吸を保つことでもある
- pH: 細菌は中性付近を好み、強酸性では活動が落ちる。糸状菌は酸性でも働けるため、酸性の土では分解の担い手が偏る。pH を作物の適正範囲に保つことは、養分の効き方だけでなく、分解を担う生物の顔ぶれを保つことでもある
土壌群と気候 — 同じ有機物でも、生物の働きは土で違う
ここまで見てきた分解の条件(温度・水分・空気・pH)は、圃場ごとに大きく異なります。その違いの土台にあるのが、土そのものの成り立ち(土壌群)と気候です。同じ資材を同じ量入れても、分解の速さも、腐植のたまり方も、土によって変わります。
- 黒ボク土(火山灰土): 火山灰を母材とする土で、腐植がたまりやすく、微生物の量も多い傾向がある。生物の働き自体は活発で、有機物を入れれば分解も進みやすい。一方で、リン酸が土に固定されやすいなど、化学性の面では別の課題を持つ。pH やリン酸の扱いの詳細は、前章「土壌学の基礎」と、後続の土壌診断を扱う章で確認する
- 低地の沖積土・グライ化する土: 川沿いや低地に多い土で、地下水位が高く、土の中が還元状態(酸素が乏しい状態)になりやすい。還元状態では好気性の分解は止まり、有機物は分解されないまま残るか、メタンなどのガスを出しながらゆっくり変わっていく。分解の進み具合は、資材の性質よりも排水の状態に大きく左右される
- 砂質の土: 粒子が粗く、水と養分を保持する力が弱い。有機物は分解と流亡の両方で減りやすく、腐植がたまりにくい。微生物にとっても餌と水分が安定して得にくい土であり、有機物の供給を切らさないことが、生物の住みかを維持する前提になる
- 気温帯の違い: 暖地では温度が高い分、分解が速く、有機物の消耗も速い。寒冷地では分解が遅く、有機物は残りやすいが、効き始めるまでにも時間がかかる。前の節で述べた「地温による分解の季節変化」が、そのまま地域差として現れる
つまり、有機物や緑肥の設計は「何を、どれだけ入れるか」の前に、「自分の圃場の土では、分解がどう進む土か」を置く必要があります。手順のステップ0で、自分の圃場の土壌群を確認します。
土の層 — 生物が働くのは主に作土
土は一様ではなく、深さによって性質の違う層が重なっています。生物の働きも層ごとに全く違います。
- 作土層(表土): 耕うんされ、有機物が入る層です。残さ・堆肥・根が集中し、酸素もあるため、微生物も土壌動物も、そのほとんどがこの層にいます。この章で述べてきた分解の主戦場は作土です
- 心土・下層土: 作土の下の層です。有機物が少なく、酸素も届きにくいため、生物の量と活動は大きく落ちます。同じ有機物でも、作土に混ぜた場合と下層に埋めた場合では、分解の進み方が別物になります
この層の見方は、耕し方と有機物の入れ方の判断の前提になります。
- すき込む深さ: 有機物は、生物と酸素のある作土の中に混ぜるのが基本です。深く埋めすぎると酸素不足で分解が止まり、還元的な変化(実例2で見た、根を傷める条件)が起きやすくなります
- 深耕と天地返し: 下層の生土(有機物も生物も乏しい土)を一度に大量に表へ出すと、作土の有機物の濃度が薄まり、生物の住みかは作り直しになります。深く耕す場合は、深くする範囲と有機物の補給を年に分けて段階的に進める方が安全です
- 水と根への影響: 耕盤のような硬い層があると、水の下への動きが止まり、根の伸びも制限されます。層の境に水がたまれば、その下は還元状態になりやすく、生物の働きも落ちます
層位の詳しい分類や、断面を見て層を判定する方法は、後続の土壌診断と圃場設計の章で扱います。ここでは「生物の働きは作土に集中している」という1点を押さえてください。
緑肥 — 生きたまま入れる有機物
緑肥は、収穫せずにそのまま土にすき込むために育てる作物です。堆肥や作物残さと違い、生きた状態で根を張り、地上部も柔らかく窒素を比較的多く含んだ段階ですき込まれるため、有機物の供給と無機化の進み方が独特になります。この章で学んだ「分解されるもの」「分解の条件」「窒素の動き」の3つが、1つの資材の中で同時に問われるのが緑肥です。
緑肥の働きは、目的によって次のように分かれます。
- 有機物の供給(微生物の餌): 茎葉と根がそのまま有機物になる。特に根は作土の深いところまで入り、残さが届かない層にも炭素を運ぶ
- 窒素の持ち込み(マメ科): 根粒菌が空気中の窒素を固定し、土になかった新しい窒素を圃場に持ち込む。外から窒素を増やせるのは、マメ科を使う場合だけである
- 余剰養分の吸収と保持(イネ科など): 硝酸態窒素は水と一緒に流れるが、緑肥が生育のあいだ吸収して体に取り込めば、流亡せずに圃場の中に留まる。すき込んだ後に無機化して、次の作物に戻る
- 根による土の改善: 太い根や深い根は土をほぐし、根が腐ったあとの孔隙が水と空気の通り道になる。前章で学んだ水はけ・気相の確保に、耕さずに働きかける方法である
- 被覆による保護: 地表を覆うあいだ、雨による浸食と土の跳ね上がりを防ぎ、乾燥と地温の急な変化も緩める。裸地の期間を短くすることは、前の節で述べた根圏微生物や菌根菌の維持にもつながる
分解の進み方は、すき込むときの生育ステージで変わります。若いうちは茎葉が柔らかく C/N 比が低いため分解が速く、窒素も早く出ます。開花を過ぎて茎が硬くなると炭素が増えて C/N 比が上がり、分解は遅くなり、量が多い場合は窒素飢餓が起きる側に寄ります。つまり緑肥は「種類」だけでなく「いつすき込むか」で、速効の窒素資材にも、ゆっくり分解する有機物にもなる。窒素を効かせたいなら早めに、炭素と被覆の効果を取りたいなら遅めに、と目的から逆算します。
すき込みの判断では2つを確認します。1つは 後作の定植までの期間 で、実例3のように定植の 3〜4 週間前までにすき込み、分解の最盛期を避けます。もう1つは 土の条件 で、柔らかい茎葉を一度に大量に入れた直後は、酸素消費と有機酸やガスの発生が大きい。過湿の畑や地温の低い時期では、その影響が根に出やすいため、量を分けるか、期間を長めに取ります。未熟な有機物の扱いで学んだ「分解の場所と条件」の判断は、生の緑肥でもそのまま当てはまります。
なお、緑肥でなくても、畑に生えた雑草の根も、根圏へ分泌物を出し、枯れれば有機物として土に返ります。雑草は作物と競合する相手であると同時に、根のある期間を保ち、微生物への供給を続ける存在でもあります。雑草そのものをどう見るか、どう管理するかは「生態系と環境」の章で扱います。
判断の実例
実例1: 稲わらを秋に全量すき込むか、一部を持ち出すか
水稲の収穫後、稲わらが 10a あたり約 500 kg 出る圃場。翌年は同じ圃場で露地野菜を作る計画でした。稲わらは C/N 比が高い炭素の多い資材です。
判断: 稲わらは全量を圃場に残さず、一部は堆肥の原料として持ち出し、残りを秋の早い時期に浅くすき込みました。翌作の基肥は、窒素飢餓を見越して作付け直前の投入を避け、分解が進んだ春に効くよう、有機質肥料の時期を遅らせました。
理由: C/N 比の高い稲わらを作付け直前に大量にすき込むと、分解する微生物が土の窒素を使い、作物が窒素不足になる。秋の早い時期にすき込めば、地温があるうちに分解が進み、作付けまでの期間で窒素の取り込みが落ち着く。量を分けることで、圃場に残る炭素(腐植の材料)と、作付け直後の窒素の釣り合いを両立させた。
実例2: 水はけの悪い畑で、未熟な堆肥を入れて生育が止まった
粘質で排水の悪い畑に、切り返しの途中でまだ熱を持つ未熟な家畜ふん堆肥を基肥として入れ、定植したところ、初期生育がそろわず、根の先が褐変しました。
判断: 追肥で立て直そうとせず、その作は浅く中耕して土に空気を入れ、過湿を避けるために畝を高く作り直しました。次作からは、完熟した堆肥だけを使い、未熟なものは堆肥舎で切り返しを続けて温度が下がりきってから出す運用に変えました。
理由: 未熟な有機物は土の中でも分解が続き、酸素を消費する。過湿の土では酸素不足が強まり、有機酸などの中間生成物が根を傷める。問題は養分の量ではなく「分解の場所と条件」で、土の中ではなく堆肥舎で分解を進める段階まで待つのが正しい順序である。堆肥の完熟の目安(温度が上がりきったあと下がって安定する、原料の形が崩れている等)は、都道府県の堆肥利用の手引き等で確かめる。
実例3: マメ科緑肥で窒素を持ち込んだ畑の基肥を減らす
前作の秋にヘアリーベッチ(マメ科緑肥)をまき、春にすき込んだ畑で、夏野菜を作る計画でした。
判断: 基肥の窒素は通常の作より減らし、生育を見ながら追肥で調整する計画にしました。すき込みは定植の 3〜4 週間前に行い、分解が進んでから作付けました。
理由: マメ科緑肥は根粒菌の窒素固定で窒素を含み、C/N 比が低く分解が速い。すき込めば窒素が出るため、基肥を通常どおり入れると窒素過剰になり、つるボケや病害の助長につながる。一方、すき込み直後は分解の最盛期で、一時的に酸素消費と窒素の動きが大きいため、定植まで間を空ける。緑肥からの窒素供給量の目安は、都道府県の施肥基準の緑肥の減肥の扱いで確かめる。なお、緑肥の狙いが窒素の持ち込みではなく、余剰養分の保持や被覆の確保である場合は、イネ科など非マメ科を選ぶ判断になる(原理「緑肥 — 生きたまま入れる有機物」と、手順のステップ6を参照)。
手順と判断基準
有機物を圃場に入れる前に、次の順で確認します。
ステップ0: 自分の圃場の土壌群を確かめる
- 有機物や緑肥の設計は、自分の圃場の土がどの土壌群に当たるかが前提になる。黒ボク土か、低地の沖積土か、砂質の土かで、分解の速さも腐植のたまり方も違う(原理「土壌群と気候」を参照)
- 調べ先: 農研機構の日本土壌インベントリー/e-土壌図で、圃場の位置から土壌図を確認できる。あわせて、都道府県や市町村の土壌調査・土地分類の資料も参照する
- 土壌群の情報は、前章で見た土壌診断の値(pH・EC・CEC・腐植)と重ねて読み、以降のステップの判断の前提にする
ステップ1: 資材の性質を確かめる
- C/N 比(分析値、または都道府県の施肥基準等の代表値)と、硬さ(木質か、柔らかい緑肥か)を見る
- C/N 比が高い(目安として 30 を超える)→ 窒素の取り込みを前提に、時期と量を決める
- 未熟かどうか(温度・におい・原料の形)を確かめる。未熟なら圃場に入れず、堆肥舎で分解を進める
ステップ2: 分解の条件を確かめる
- 水はけ: 雨の翌日に水がたまる畑では、分解が酸素不足で止まる。排水の対策が先
- pH: 強酸性なら細菌の活動が落ちている。石灰の判断は前章の手順(緩衝曲線・処方)で先に決める
- 地温: 寒い時期に入れた有機物は、効きが春にずれ込む前提で計画する
ステップ3: 入れる時期を作付けから逆算する
- 分解の速い資材(C/N 比が低い、柔らかい): 作付けの 3〜4 週間前までにすき込む
- 分解の遅い資材(C/N 比が高い、木質): 前作の直後など、作付けまで期間を取れる時期に入れる
- 定植・播種の直前に大量の生の有機物を入れない
ステップ4: 窒素の釣り合いを決める
- C/N 比の高い資材を入れた作は、初期の窒素不足(窒素飢餓)を見越し、効きの速い有機質肥料を少量分けて使う等の調整を計画する
- マメ科緑肥をすき込んだ作は、基肥の窒素を減らし、生育を見て追肥で合わせる
- 減肥・加肥の具体の量は、都道府県の施肥基準で確かめる
ステップ5: 入れた後の様子を見る
- 作物の葉色と生育のそろいを見る。窒素飢餓なら下葉から黄化し、生育が一様に遅れる
- 雨の後のにおい(酸っぱいにおい、腐敗臭)や根の色を見て、酸素不足の分解になっていないかを確かめる
ステップ6: 緑肥は目的から逆算して選ぶ
- 目的を先に決める: 窒素の供給(持ち込み)か、有機物の補給か、余剰養分の吸収・保持か、被覆か。目的が違えば選ぶ種類もすき込む時期も変わる
- 種類の選択: 窒素を持ち込みたい場合はマメ科。有機物の補給、養分の保持、被覆が目的なら、イネ科など非マメ科も候補になる。作型(播ける時期と、後作までに取れる期間)に合うものを選ぶ。播種量・品種などの具体は、都道府県の緑肥利用の指針等で確かめる
- 播種と管理: 後作の作付けから逆算して播く時期を決める。生育のあいだは通常の作物と同じ圃場として扱い、雑草に負けていないか、根が張っているかを見る
- すき込み時期の判断: 窒素を早く効かせたいなら、茎葉が柔らかく C/N 比が低いうちに。炭素と被覆の効果を取り切るなら遅めに。いずれも定植の 3〜4 週間前までにすき込む
- 後作の施肥設計への反映: マメ科をすき込んだ作はステップ4のとおり基肥の窒素を減らす側で計画し、イネ科中心で窒素の持ち込みがない作は、通常の設計を基本にする。減肥の具体の量は、都道府県の施肥基準の緑肥の扱いで確かめる
ステップ7: 分解の様子から、圃場の分解環境を読む
- 菌糸の広がり: すき込んだ残さや堆肥の表面・内部に白い菌糸が見えれば、糸状菌が働いている目印になる。繊維や木質の多い資材ほど目立ちやすい
- 土の匂い: 掘った土に「土の匂い」(放線菌が作る物質による)があるか。逆に酸っぱいにおいや腐敗臭がすれば、酸素不足の還元的な分解に寄っているサインとして、ステップ5の観察と合わせて見る
- 分解の進み方の差: 同じ資材でも場所によって進み方が違う場合、その差は温度・水分・空気の条件差を映している。条件のどこが違うかを考える材料にする(現場実践課題の観察記録と組み合わせる)
有機JAS の圃場で堆肥や有機質肥料を使うときは、原料と製造方法が有機JAS で使えるものかを、別表と認証機関・資材証明書で事前に確かめます。家畜ふん堆肥は、規格上「家畜及び家きんの排泄物」にあたる資材です。確認が必要なのは、原料の家畜の飼料や飼養方法ではなく(規格では問われません)、畜舎や堆肥化の過程で使われた薬剤・消毒剤の混入や、発酵の進み具合です(未発酵のものは使えません)。初めて使う資材は必ず確認します。
よくある失敗と対策
失敗 | なぜまずいか | 対策 |
|---|---|---|
C/N 比の高い資材(稲わら・もみ殻・木質チップ)を作付け直前に大量に入れる | 分解する微生物が土の窒素を使い、作物が窒素飢餓になる | 前作直後など期間を取れる時期に入れる。作付けが近い場合は量を減らすか堆肥化してから使う |
未熟な堆肥を過湿の畑に入れる | 土の中で分解が続き酸素を消費し、有機酸などで根を傷める | 完熟したものだけを圃場に出す。排水の悪い畑は排水対策を先に行う |
緑肥のすき込み直後に定植する | 分解の最盛期と定植が重なり、根の環境が不安定になる。ガスや中間生成物で活着が悪くなる | 定植の 3〜4 週間前までにすき込む |
マメ科緑肥の後も通常どおり基肥を入れる | 緑肥からの窒素と重なり窒素過剰になる。つるボケ・病害を助長する | 基肥を減らし、追肥で生育に合わせる。減肥の目安は県の施肥基準で確認する |
裸地の期間を長く空ける | 根からの分泌物が絶え、根圏微生物や菌根菌の働きが弱まる。腐植の補給も止まる | 緑肥や被覆作物を入れ、根のある期間を長く保つ |
残さを毎年すべて持ち出す | 炭素の補給がなく、腐植が減り続ける | 残さの一部は圃場に返し、堆肥と合わせて有機物の収支を保つ |
まとめ(判断基準の再掲)
- 分解の判断は 資材の性質(C/N 比と硬さ)→ 分解の条件(温度・水分・空気・pH)→ 窒素の動き の順で見る
- C/N 比が高い資材は窒素を取り込み、低い資材は窒素を出す。おおむね 20〜30 が境の目安だが、具体の値は資材の分析値と県の基準で確かめる
- 窒素は 有機態 → アンモニア態 → 硝酸態 と姿を変える。硝酸化成には酸素と温度が要り、過湿では脱窒で失われる
- 未熟な有機物の分解は、土の中ではなく堆肥舎で進める。分解の場所を間違えると根を傷める
- 腐植は分解の「残り」。毎年の有機物の補給が止まれば減り続ける
- 土づくりとは、土壌生物が働き続けられる条件を年ごとに整え、生物を育てる営みである。有機JAS と みどりの食料システム戦略 が目指す土づくりも、生物の働きによって農地の生産力を保つことに置かれている
現場実践課題
自分の圃場で使う有機物(堆肥・緑肥・残さ等)を1つ選び、その資材を手のひら大の塊で土に埋め、4週間後の状態を観察して記録してください。埋める前に資材の C/N 比(不明なら資材の種類と窒素分の多さの見当)と硬さを書き出し、4週間でどれだけ形が崩れたか、周りの土と比べてどう変わったかを見ます。分解の進み具合が、資材の性質とその期間の地温・水分で説明できるかを確かめます。
進め方:
- 使う資材を決め、埋める前の状態(重さの見当、硬さ、におい)を記録する
- 作土の深さ 10〜15 cm に埋め、位置に印を付ける。埋めた日の地温・土の湿り具合も書く
- 4週間後に掘り出し、形の崩れ具合、色、におい、周囲の土の様子(ミミズや菌糸の有無)を記録する
- 分解が進んだ/進まなかった理由を、C/N 比・硬さ・温度・水分の言葉で説明する
記録の例:
項目 | 埋める前 | 4週間後 |
|---|---|---|
資材 | 完熟した牛ふん堆肥(原料の形はほぼ崩れている) | 形はほぼ無く、周りの土と見分けがつきにくい |
硬さ・におい | 柔らかい、土に近いにおい | においは土とほぼ同じ |
地温・水分 | 地温 18℃、握ると湿るが水はにじまない | (期間を通して雨は3回) |
土壌生物の様子 | — | ミミズのふんが周囲に数個。白い菌糸は見当たらない |
分解の説明 | C/N 比は低めで分解は速いはず | 予想どおり分解が進んだ。水分が適度に保たれたことが条件として合っていた |
現場で使える!専門用語ミニ辞書
- 無機化(むきか)
- 有機物の中の窒素やリンなどが、微生物の分解で植物が吸える無機の形に変わること。分解が「効く」とはこの過程を指す。
- 有機化(ゆうきか)
- 微生物が無機の養分を取り込んで自らの体を作ること。C/N 比の高い資材を入れた直後に進み、作物と窒素を取り合う。
- 窒素飢餓(ちっそきが)
- 分解する微生物が土の窒素を使い、一時的に作物が窒素不足になる状態。下葉の黄化と生育の遅れで気づく。
- アンモニア化(あんもにあか)
- 有機態窒素が分解されてアンモニア態窒素になる過程。窒素循環の最初の無機化。
- 硝酸化成(しょうさんかせい)
- アンモニア態窒素が硝酸化成菌の働きで硝酸態窒素に変わること。酸素と温度が必要で、過湿や低温では進まない。
- 脱窒(だっちつ)
- 酸素不足の条件で、硝酸態窒素が窒素ガスになって空気中へ逃げること。過湿の畑で窒素が失われる主な仕組み。
- 窒素固定(ちっそこてい)
- 空気中の窒素ガスを生物が取り込んで利用できる形に変えること。マメ科の根粒菌が代表で、緑肥や輪作で土の窒素を増やす仕組み。
- 根粒菌(こんりゅうきん)
- マメ科の根に共生し、窒素固定を行う細菌。宿主のマメ科ごとに相性の合う菌が違う。
- 菌根菌(きんこんきん)
- 植物の根と共生し、菌糸を伸ばしてリン酸などの吸収を助ける糸状菌。多くの畑作物はアーバスキュラー菌根菌と共生する。
- 根圏(こんけん)
- 根の周りの、根からの分泌物の影響を受けるごく狭い土の範囲。微生物が集まり、無機化が活発に進む。
- リグニン
- 木質の主成分の1つで、分解されにくい有機物。多い資材ほど分解が遅く、腐植の材料になりやすい。
- 腐植化(ふしょくか)
- 分解の過程で残った成分が再合成され、安定した腐植になること。分解の終点ではなく、土に長く残る形への変化。
参考(一次情報)
- 農林水産省「有機農産物の日本農林規格」および別表(使用可能な肥料・土壌改良資材)
- 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
- 農林水産省「地力増進基本指針」(有機物の施用と土壌の性質の改善目標)
- 各都道府県の施肥基準・土壌診断基準(緑肥・堆肥の窒素供給と減肥の扱い)
- 各都道府県の堆肥利用に関する手引き(堆肥の完熟の目安)
- 農研機構「土壌有機物と農業生産との関係についての総説」(C/N 比と窒素の無機化・有機化、硝酸化成の2段階)
- 農研機構「緑肥利用マニュアル」(緑肥のすき込みから定植までの間隔)
- 農研機構「菌根菌の世界」(菌根菌への耕うん・裸地の影響)
- 農林水産省「有機農産物のJASの手引き」「有機農産物等の生産・出荷に関するQ&A」(家畜ふん堆肥の扱い)
- 各都道府県の稲作指導指針(稲わらの発生量)
EXERCISE
判断演習
本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。
Q1/2
前作の水稲の稲わら(C/N 比の高い資材)が圃場に残っています。翌作の露地野菜の定植は3週間後に迫っています。稲わらを全量、このタイミングですき込もうとしています。
この計画の問題点と、取るべき対応の組み合わせとして正しいものはどれですか。
Q2/2
秋にヘアリーベッチ(マメ科緑肥)をまいた畑で、春にすき込んで夏野菜を作ります。基肥の計画を作る場面です。
この畑の基肥について、正しい判断はどれですか。
学習状況を確認しています…
共感・コメントは無料会員限定です
NOUKARA TOOLS
経営の次の一手を、数字で確かめる。
作付け収益シミュレーター16品目の収益性を比べて、来期の作付け計画の材料にできます使ってみる →- 補助金マッチング診断国の支援制度30件から、経営規模・分野・目的に合う制度を絞り込めます
- 製品ファインダーアグリテック製品32件を、カテゴリ・規模・価格帯から比較できます
- 回収シミュレーター設備やシステムへの投資が、何年で回収できるかを試算できます
アグリコメ 0
現場のプロの視点で、この記事への意見や経験を共有しましょう。
コメントの投稿と「現場でそう思う」は無料会員限定です。LINE なら1タップで登録できます。
まだコメントはありません。最初の見解を書いてみませんか?