TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

害虫と益虫の科学

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    天敵のうち「寄生者(寄生蜂・寄生バエ)」の働きを観察で確認する際に、最も適切な着眼点はどれか。

  2. Q2/2

    植物生理学の基礎知識として、作物の生育ステージが防除タイミングの判断に関わる理由として最も適切なものはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 主要な害虫の発生生態(越冬・発生世代・好適環境)を理解し、防除のタイミングを判断できる
  • 天敵(捕食者・寄生者)の働きを種類別に説明し、生物的防除に活かす圃場管理を選べる
  • 発生状況を観察記録から読み取り、「様子を見る」「物理的に対応する」「生物農薬・資材を使う」の判断を順序立てて行える

所要時間の目安: 60〜75分

結論

害虫対応の判断は、次の順番で行う。

  1. 発生生態を確認する: 対象害虫が今どのステージ(卵・幼虫・成虫)にあり、今後どう増えるかを見立てる
  2. 被害許容水準を確認する: 作物の生育ステージと収穫物の規格から、どこまでの食害・汚損なら許容できるかを判断する(許容水準は作目・規格により異なるため、品目別の指標がある場合はそれに従う)
  3. 天敵の有無と密度を確認する: 圃場内外にすでに天敵が働いているか、その密度は害虫の増加を抑えるのに十分かを観察する
  4. 耕種的・物理的対策を優先する: 被覆資材、輪作、天敵温存植物(バンカープランツ)、除去・捕殺など、資材投入を伴わない対策から検討する
  5. 生物農薬・有機JAS適合資材の使用を検討する: 耕種的対策で抑えきれない場合に限り、有機JAS別表に適合する資材を、ラベルと認証機関の確認を経て使用する
  6. 記録し、次作にフィードバックする: 発生時期・対策・効果を記録し、翌年の作付け計画(緑肥・輪作・天敵温存帯の配置)に反映する

原理: 害虫発生と天敵の働き

害虫の発生生態

害虫の発生量は、気温・湿度・寄主植物の生育ステージ・越冬場所の有無によって大きく変わる。多くの害虫は気温の上昇とともに世代時間が短くなり、年間の発生世代数が増える。たとえばアブラムシ類は好適条件下では数日〜1週間程度で世代を繰り返し、単為生殖によって急激に増殖する性質を持つ。一方、鱗翅目(チョウ・ガ)の幼虫は卵から蛹化までの期間が長く、発生のピークを捉えやすい。害虫の発生生態を把握することは、「増える前に気づく」ための基礎になる。

天敵の分類と働き

天敵は働き方によって大きく二つに分けられる。

  • 捕食者: テントウムシ、クサカゲロウ、ヒメハナカメムシなど。獲物を直接捕らえて食べる。生涯に多数の害虫を捕食する種が多く、密度が高いときに効果を実感しやすい。
  • 寄生者(寄生蜂・寄生バエ): 害虫の体内や体表に産卵し、幼虫が宿主を内部から摂食して発育する。アブラムシに寄生するコマユバチの仲間などが代表例。被害が見た目に現れるまで時間がかかるため、観察では「マミー(寄生されて硬化したアブラムシの殻)」の有無を確認する。

天敵が機能するためには、餌となる害虫がある程度存在し続けること、天敵自身が休息・繁殖できる環境(花粉・花蜜源、越冬場所)があることが条件になる。天敵温存植物や畦畔・緑肥の帯を残すことは、この環境を提供する目的を持つ。

耕種的防除が効く理由

輪作や緑肥の導入は、特定の害虫が連作地に蓄積するのを防ぐ。イネ科緑肥は土壌表面を被覆して一部の地表徘徊性害虫の産卵環境を変え、マメ科緑肥はすき込み後の有機物供給を通じて土壌生物相を多様にし、間接的に天敵の生息基盤を支える。被覆資材(防虫ネットなど)は、成虫の飛来・産卵を物理的に遮断する点で、発生源そのものを断つ効果を持つ。

判断の実例

実例1: アブラムシの発生初期

状況: 葉菜類の生育中期、下位葉に数頭〜十数頭のアブラムシが確認された。周辺にテントウムシの幼虫も複数確認された。

判断: 直ちに薬剤的対応はせず、1週間後に再度密度を確認する。

理由: アブラムシは単為生殖で増殖が速いが、捕食性天敵(テントウムシ幼虫)がすでに定着していれば、密度増加が抑制される可能性がある。生育中期で収穫部位(結球前の外葉など)への直接被害が小さい場合、被害許容水準内と判断できる。

実例2: 鱗翅目幼虫による食害が結球部に及ぶ兆候

状況: 結球系葉菜で、結球開始期に外葉の食害痕とともに、新葉の展開部に糞が確認された。

判断: 見回り頻度を上げ、幼虫を捕殺するとともに、被害が収まらない場合は有機JAS適合の微生物農薬(BT剤など)の使用を検討する。

理由: 結球部への食入が始まると規格外率が急増し、収穫後の出荷規格に直結する。被害許容水準を超える段階であり、耕種的対策(捕殺)に加えて資材投入の判断が必要になる。使用する資材は有機JAS別表と認証機関・ラベルで適合を確認する。

実例3: 緑肥帯を残した圃場での天敵温存

状況: 圃場の畦に近い帯にイネ科とマメ科を混播した緑肥帯を残し、隣接する作付け区でアブラムシの発生が例年より緩やかだった。

判断: 緑肥帯の維持を翌作以降も継続する方針とし、発生・天敵密度の記録を継続する。

理由: 緑肥帯は天敵の避難場所・餌場(花粉・花蜜源)として機能し、捕食者・寄生者の個体群を周辺作付け区に供給する基盤になりうる。ただし発生緩和の要因は気象条件など他にも考えられるため、単年の観察だけで効果を断定せず、複数年の記録で傾向を確認する。

手順と判断基準

  1. 発生確認(圃場観察) - [ ] 作物の生育ステージを記録したか - [ ] 害虫の種類・ステージ(卵・幼虫・成虫)を確認したか - [ ] 被害部位(下位葉・新葉・結実部など)を確認したか
  2. 天敵の確認 - [ ] 捕食者(テントウムシ・クサカゲロウ等)の成幼虫数を確認したか - [ ] 寄生の痕跡(マミー等)の有無を確認したか - [ ] 天敵密度が害虫密度に対して増加傾向にあるか
  3. 被害許容水準との照合 - [ ] 収穫部位への直接被害か、外葉等の非収穫部位への被害かを区別したか - [ ] 出荷規格に照らして許容範囲かを判断したか(品目別の指標がある場合はそれに従う)
  4. 対策の選択 - [ ] 耕種的・物理的対策(被覆、捕殺、輪作、緑肥帯)を先に検討したか - [ ] 資材使用が必要な場合、有機JAS別表の適合品目かを確認したか - [ ] 使用方法をラベルと認証機関に確認したか
  5. 記録と次作への反映 - [ ] 発生時期・密度・対策・結果を記録したか - [ ] 次作の作付け計画(輪作・緑肥配置)に反映する項目を整理したか

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

害虫を見つけた時点で即座に資材を使う

天敵をすでに同時に駆除してしまい、以降の発生が抑えにくくなる

発生ステージと天敵密度を先に確認し、許容水準内なら経過観察する

被害許容水準を確認せずに対策の要否を決める

非収穫部位の軽微な被害に過剰対応し、コストと労力を浪費する

収穫部位への影響と出荷規格を基準に、対策の要否を判断する

天敵温存植物や緑肥帯を単年で評価して撤去する

天敵個体群の定着には複数年を要する場合があり、短期評価で有効な対策を手放すことになる

複数年の発生・天敵記録を蓄積してから継続・見直しを判断する

資材の適合性を確認せず使用する

有機JAS認証の継続に支障をきたす可能性がある

使用前に有機JAS別表とラベル、認証機関に適合を確認する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 害虫の発生ステージと今後の増加見込みを確認する
  2. 被害許容水準(収穫部位への影響・出荷規格)と照合する
  3. 天敵の種類と密度を確認し、自然に抑制される見込みを見立てる
  4. 耕種的・物理的対策を優先し、資材投入は最後の手段とする
  5. 資材を使う場合は有機JAS別表・ラベル・認証機関で適合を確認する
  6. 発生と対策の結果を記録し、次作の輪作・緑肥計画に反映する

現場実践課題

自分の圃場(または担当区画)で、以下の観察記録を2〜4週間継続する。

観察日

作物・ステージ

害虫種・ステージ・密度(目安)

天敵の有無・種類

被害部位

判断(経過観察/対策実施)

実施した対策

1週間後の変化

例: 6/10

キャベツ・結球初期

アブラムシ 下位葉に10頭程度

テントウムシ幼虫2頭確認

下位葉のみ

経過観察

なし

密度ほぼ横ばい

記録をもとに、対策を実施した場合はその理由(被害許容水準を超えたか、天敵密度が不十分だったか)を一言で添える。

現場で使える!専門用語ミニ辞書

捕食者(ほしょくしゃ)
害虫を直接捕らえて食べる天敵。テントウムシやクサカゲロウなど
寄生者(きせいしゃ)
害虫の体内・体表に産卵し、幼虫が宿主を内部から摂食して発育する天敵。寄生蜂・寄生バエなど
マミー
寄生蜂に寄生されて硬化したアブラムシの殻。寄生の痕跡として観察に使う
バンカープランツ(天敵温存植物)
天敵の餌・休息場所となり、天敵の個体群を周辺作付け区に供給する役割を持つ植物
被害許容水準
収穫物の規格・出荷基準に照らして許容できる食害・汚損の程度
単為生殖(たんいせいしょく)
受精を経ずにメスだけで増殖する繁殖様式。アブラムシ類などで見られ、急激な増殖の要因になる

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農業の推進に関する法律」及び有機JAS規格(別表)
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 農研機構「緑肥利用マニュアル」
  • 都道府県病害虫防除所が公表する発生予察情報・防除基準

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    結球系葉菜が結球開始期を迎えた圃場で、外葉に食害痕が見られ、新葉の展開部にも鱗翅目幼虫と思われる糞が確認された。見回りの頻度を上げたが、翌週には食害痕が新葉付近まで広がる兆候が見られた。

    この状況での最も適切な対応はどれか。

  2. Q2/2

    結球前の葉菜類の圃場で、下位葉に数頭〜十数頭のアブラムシが確認された。周辺を観察したところ、クサカゲロウの幼虫が複数個体確認され、捕食している様子も見られた。収穫対象となる結球部にはまだアブラムシは見られない。

    この状況での最も適切な判断はどれか。

学習状況を確認しています…

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