TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

さつまいも 基腐病の防除体系

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    有機栽培における病害虫防除体系の組み立て方として、最も優先すべき基本的な考え方はどれですか。

  2. Q2/2

    糸状菌による土壌・残渣伝染性の病害に共通する基本的な性質として正しいものはどれですか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • さつまいも基腐病(もとぐされびょう)の発生生態をふまえて、育苗から収穫までの予防体系を組み立てられる
  • 圃場観察のポイントを理解し、初期症状を早期に発見できる
  • 発病株を見つけた際に、まん延を防止するための対応手順を判断できる

所要時間の目安: 60〜75分(圃場観察演習を含む場合は90分)

結論

基腐病対策は、次の順序で判断します。

  1. 苗の由来を確認する — 無病徴の健全な苗を使う。採苗圃場(親株圃場)での発病歴を確認し、疑わしい苗は使わない。
  2. 圃場条件を整える — 排水性を優先する。低地で滞水しやすい圃場では、畝を高くする、額縁明渠を切るなど、水が滞らない設計にする。
  3. 栽培期間中は定期観察を行う — 植え付け後は最低でも週1回、地際部と茎葉の変色・萎凋を見回る。梅雨期・台風後は観察頻度を上げる。
  4. 初期症状を見つけたら即日対応する — 発病株とその周辺株を抜き取り、ほ場外で適切に処分する。使用した道具は洗浄・消毒してから別区画に入る。
  5. 収穫・貯蔵時も健全性を確認する — 傷のある塊根は長期貯蔵・出荷に回さない。収穫後の圃場残渣は早期にすき込むか撤去する。
  6. 翌作に向けては輪作と土づくりで発生源を減らす — 連作を避け、緑肥や有機物施用で土壌の物理性と生物相を整える。

原理: 基腐病はなぜ広がるのか

病原体の性質

基腐病は糸状菌(カビの仲間)による土壌・残渣伝染性の病害です。病原菌は罹病した茎葉や塊根、圃場に残った残渣の中で生存し、降雨による泥はねや灌水、農具・長靴・苗を介して健全な株に伝播します。感染は主に茎の地際部や根の傷口から起こり、そこから維管束(水や養分を運ぶ茎の組織)を伝って株全体に広がります。茎の基部が黒変して腐敗するため「基腐病」と呼ばれます。

発病が進みやすい条件

高温多湿、特に梅雨期や台風通過後の多雨・滞水条件で発病・まん延が進みやすくなります。排水不良の圃場では土壌中の病原菌密度が高まりやすく、また傷口(挿苗時の損傷、害虫食害、機械作業による擦過傷など)が感染の入口になります。密植や過繁茂で株間の通風が悪いと、株元の多湿状態が続き発病を助長します。

植物体内での進展と症状の出方

感染は根・茎の地際部から始まり、維管束を通じて地上部へ進展します。初期は地際部の茎が黒褐色に変色し、進行すると葉が黄化・萎凋します。塊根では、茎につながる部分(頭部)から黒色の乾腐が進み、重症化すると塊根全体が腐敗して出荷できなくなります。地上部の萎凋症状が目に見える頃には、すでに地下部・株元の組織が相当進行していることが多いため、地際部の観察が早期発見の鍵になります。

判断の実例

実例1: 採苗圃場での苗選定

状況: 自社の採苗圃場の一部で、前年に基腐病の発生履歴がある区画がある。今年もその区画から苗を採りたいという要望が出た。

判断: その区画からの採苗を見送り、発病履歴のない区画、または新規に購入した健全苗に切り替える。

理由: 基腐病は残渣・土壌伝染性であり、発病履歴のある圃場では病原菌密度が下がりきっていない可能性が高い。苗自体に潜在感染(無病徴のまま菌を保持する状態)がある場合、定植後に発病源として圃場全体に広がるリスクがある。苗の健全性確認は防除体系の起点であり、ここでの判断ミスは以降の全工程に影響する。

実例2: 梅雨明け後の圃場巡回での発見

状況: 定植後45日、梅雨明け直後の巡回で、畝の一角に数株だけ葉が黄化し萎凋している株を見つけた。地際部を確認すると茎が黒褐色に変色していた。

判断: 直ちにその株と周辺2〜3株を抜き取り、圃場外に持ち出して処分する。使用した鎌・手袋は圃場を離れる前に洗浄・消毒する。

理由: 地際部の黒変は基腐病の典型的な初期症状であり、地上部の萎凋が見える段階ではすでに胞子形成が進んでいる可能性がある。被害株を放置すると降雨の泥はねや灌水で周辺株への感染源となるため、発見当日のうちに除去することがまん延防止の分岐点になる。

実例3: 収穫後の圃場残渣の扱い

状況: 収穫を終えた圃場に、茎葉や未収穫の小塊根が残渣として残っている。次作の緑肥すき込みまで数週間放置する計画だった。

判断: 残渣をできるだけ早く圃場外に搬出するか、速やかにすき込んで分解を進める。放置期間を数週間から数日程度に短縮する。

理由: 罹病残渣は病原菌の越冬・生存場所になる。放置期間が長いほど翌作・近隣圃場への感染源として残るリスクが高まる。早期のすき込みは分解を促し、病原菌密度の低下につながる。

手順と判断基準

ステップ1: 育苗・採苗段階

  • [ ] 採苗圃場に基腐病の発生履歴がないか確認したか
  • [ ] 挿苗時に茎葉や切り口に黒変・腐敗の兆候がないか、苗1本ごとに目視したか
  • [ ] 挿苗後の活着不良株が一定割合(目安として数%を超えて)見られた場合、原因を基腐病も含めて調べたか

ステップ2: 圃場準備段階

  • [ ] 排水性を確認し、滞水しやすい箇所には明渠・暗渠を設けたか
  • [ ] 前作・前々作の連作・発病履歴を圃場台帳で確認したか
  • [ ] 緑肥(イネ科など)をすき込む場合、定植まで3〜4週間の分解期間を確保したか

ステップ3: 生育期間中の観察

  • [ ] 週1回以上、畝の地際部を中心に巡回しているか(梅雨期・台風後は頻度を上げる)
  • [ ] 葉の黄化・萎凋株を見つけたら、地際部の変色の有無を確認したか
  • [ ] 発病が疑われる株を見つけたら当日中に抜き取り・圃場外搬出を行ったか
  • [ ] 使用した農具・長靴を圃場間で使い回す前に洗浄・消毒したか

ステップ4: 収穫・貯蔵段階

  • [ ] 塊根表面や頭部に黒色の乾腐・変色がないか選別時に確認したか
  • [ ] 傷のある塊根を長期貯蔵・遠隔出荷用から除外したか
  • [ ] 貯蔵庫の温度・湿度条件を確認し、過湿を避けたか

ステップ5: 作後・翌作準備

  • [ ] 収穫後の残渣を早期に搬出またはすき込みしたか
  • [ ] 翌作でさつまいもを同じ圃場で連作しない輪作計画を立てたか
  • [ ] 土壌診断・圃場観察記録を次作の苗選定・圃場選定に反映したか

※ 資材(土壌消毒資材、天敵資材など)を使う場合は、有機JASの別表に適合するか、認証機関・ラベル表示で必ず確認する。

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

発病歴のある圃場から採苗を続ける

苗が潜在感染している可能性があり、定植後に発病源となる

発病歴のない圃場・健全苗に切り替える

萎凋症状が出てから初めて対応する

その時点ですでに株元組織の腐敗が進行しており、周辺への感染が始まっていることが多い

地際部の変色を指標に、萎凋前の段階で週1回以上巡回する

罹病株を圃場内に放置・積み上げる

降雨の泥はねや灌水で周辺株に病原菌が拡散する

発見当日に圃場外へ搬出し、適切に処分する

同一圃場でさつまいもを連作する

土壌中の病原菌密度が下がらず、発生リスクが累積する

輪作計画に組み込み、連作を避ける

収穫後の残渣を長期間放置する

残渣が病原菌の生存・越冬場所になる

早期にすき込むか圃場外に搬出する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 苗は発病歴のない圃場・健全苗を選ぶ
  2. 排水性を優先した圃場設計にする
  3. 植え付け後は地際部を中心に週1回以上観察する(梅雨期・台風後は頻度増)
  4. 疑わしい株は当日中に抜き取り、圃場外で処分する
  5. 収穫物は傷と頭部の変色を確認し、貯蔵・出荷を選別する
  6. 残渣は早期処理し、翌作は連作を避ける

現場実践課題

自分が担当する圃場で、定植から収穫までの基腐病観察記録をつけてください。週1回の巡回記録を基本とし、梅雨期・台風後は巡回日を追加します。記録は次回作の圃場選定・苗選定の判断材料として保存してください。

観察日

天候・直近の降雨

地際部の変色株数

萎凋・黄化株数

対応(抜き取り・処分の有無)

使用農具の洗浄記録

例: 6/20

梅雨前線通過、前日30mm

2株

0株

抜き取り・圃場外搬出済み

鎌・長靴洗浄済み

現場で使える!専門用語ミニ辞書

基腐病(もとぐされびょう)
さつまいもの茎・塊根の地際部・頭部から黒変・腐敗が進む糸状菌病害
地際部(じぎわぶ)
茎と土壌が接する付近の部分。基腐病の初期症状が最も出やすい箇所
維管束(いかんそく)
植物体内で水・養分を運ぶ通路となる組織
潜在感染(せんざいかんせん)
外見上は無病徴だが、植物体内に病原菌を保持している状態
罹病残渣(りびょうざんさ)
病気にかかった茎葉・塊根などの収穫後の残り物
額縁明渠(がくぶちめいきょ)
圃場の外周に沿って設ける排水用の溝

参考(一次情報)

  • 農研機構 病害虫情報・さつまいも基腐病に関する注意喚起資料
  • 都道府県病害虫防除所 発生予察情報・防除指導資料
  • 農研機構 緑肥利用マニュアル
  • 有機農産物の日本農林規格(有機JAS)および別表
  • みどりの食料システム戦略(農林水産省)

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    自社の採苗圃場は3区画あり、A区画は前年基腐病の発生履歴があるが今年は無病徴に見える。B区画は発生履歴がなく順調に生育している。C区画は新たに借りた圃場で履歴は不明だが見た目は良好。苗の需要量が多く、できればA区画からも採苗したいという声が社内で出ている。

    この状況で最も適切な苗の選定方針はどれですか。

  2. Q2/2

    台風通過の2日後、定植後60日の圃場を巡回したところ、畝の一角で数株の葉がやや黄色みを帯びているのに気づいた。地際部を確認すると、一部の株の茎基部がわずかに黒褐色に変色していた。周辺株には目立った症状は見られない。次の巡回予定は通常どおり1週間後になっている。

    このときの対応として最も適切なものはどれですか。

学習状況を確認しています…

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