TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

有機JAS の基準と考え方

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    有機JASが基本原則として位置づけている内容として、章の冒頭で示されているものはどれか。

  2. Q2/2

    前提ユニットで学んだ「みどりの食料システム戦略」と、この章で扱う「有機JAS」の関係を説明したものとして最も適切なのはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 有機JAS の基本原則(禁止資材・使用可能資材の考え方、圃場要件、記録義務)を自分の言葉で説明できる
  • 自分の圃場の栽培計画や資材選定が有機JAS に適合するかどうかを、確認すべき情報源を示しながら判断できる
  • 転換期間・輪作・混入防止などの要件を踏まえ、認証取得までの準備段階で何をすべきか説明できる

所要時間の目安: 60〜75分(資材リストの実地確認を含めると90分)

結論

有機JAS に適合するかどうかの判断は、次の順番で行う。

  1. 圃場の要件を確認する - 周辺からの農薬・化学肥料の飛散や流入を防ぐ措置(緩衝地帯、水系の分離など)が取れているか。土壌・水の汚染履歴がないか。
  2. 転換期間を確認する - 新規に有機栽培へ切り替える圃場は、規定の転換期間(栽培作物の種類により年数が異なる)を経過しているか。期間中の栽培は「転換期間中」である旨の区別が必要。
  3. 使用する資材を個別に確認する - 肥料・土壌改良資材・防除資材が有機JAS 別表に掲載されているか、かつラベル表示・認証機関の判断と一致するか。
  4. 栽培方法を確認する - 種苗の由来(有機種苗の優先使用、遺伝子組換え種苗の禁止)、輪作や緑肥による地力維持など、化学合成資材に依存しない方法が組み込まれているか。
  5. 記録と分別管理を確認する - 資材の購入・使用記録、収穫・出荷記録が残り、慣行栽培の圃場・資材と混同しない体制があるか。

この順序は「圃場・期間」という前提条件を先に確認し、その後「資材・方法」という運用レベルの確認に進み、最後に「証跡」を確認するという考え方に基づく。前提が崩れていれば、資材や方法がどれほど適切でも認証は成立しない。

原理: なぜこの順番と基準が必要か

有機JAS が目指すもの

有機JAS は、化学合成された肥料・農薬を使用せず、遺伝子組換え技術を利用しないことを基本とし、土壌の生物機能と物質循環を生かした農業生産の方法を規定した日本農林規格である。前提ユニット(みどりの食料システム戦略)で扱った「化学肥料・化学農薬の低減」「有機農業の面積拡大」という国の政策目標に対し、有機JAS は個々の生産現場がその実践を証明するための具体的な基準として機能する。両者は目指す方向は同じだが、みどり戦略が国全体の数値目標であるのに対し、有機JAS は圃場単位・経営体単位で適合・不適合を判定する認証制度である点が異なる。

なぜ圃場要件と転換期間が最初に来るのか

土壌には長年の施肥・防除の履歴が残る。化学合成資材の残留や、土壌生物相が化学合成資材に依存した状態から回復するには一定の期間を要すると考えられている。転換期間は、この回復過程を担保するための期間であり、資材を切り替えた初日から有機栽培を名乗れるわけではない。また、隣接圃場からの飛散・流入は生産者自身の管理だけでは防ぎきれないため、緩衝地帯などの物理的な対策が圃場要件として求められる。これらは土壌化学的な回復と、管理上の混入防止という二つの異なるリスクに対応している。

なぜ資材は個別確認が必要なのか

「有機だから使える」という思い込みは誤りを生みやすい。同じ「堆肥」でも、化学合成資材が混入していないか、発酵が十分に進んでいるかによって可否が分かれる。家畜ふん堆肥については、規格上、由来となる家畜の飼養方法(飼料の内容や薬剤の使用歴)は問われない。確認すべき点は、堆肥化の過程で化学合成の資材が混入していないことと、発酵が十分に進んでいること(未発酵のものは使用できない)の二点である。防除資材も同様で、天然由来を謳う資材であっても別表に掲載がなければ使用できない場合がある。資材ごとの可否は、有機JAS の別表と、認証機関の個別判断、資材ラベルの表示内容を突き合わせて確認する必要があり、一律の判断はできない。

なぜ記録と分別管理が最後にして不可欠なのか

有機JAS は「何を使ったか」だけでなく「使っていないことをどう証明するか」を問う制度である。記録がなければ、第三者である認証機関は栽培方法を検証できない。慣行栽培の圃場・資材・収穫物と物理的に混同しない分別管理も、記録と並んで証明の根幹をなす。

判断の実例

実例1: 緑肥すき込み後の定植時期

状況: 新規転換予定の圃場でイネ科緑肥(えん麦)をすき込み、次作の定植を計画している。

判断: すき込みから定植まで3〜4週間の間隔を確保する計画とする。

理由: 緑肥のすき込み直後は土壌中の微生物による分解が急速に進み、一時的に窒素が微生物側に取り込まれる(窒素飢餓)ことや、未分解有機物が根の生育を阻害することがある。農研機構の緑肥利用マニュアルでは、すき込みから定植までの期間として3〜4週間を標準の目安としている。これは有機JAS の適合可否に直接関わる基準ではないが、緑肥を地力維持の手段として組み込む栽培計画の実務上の目安として扱う。

実例2: 堆肥資材の受け入れ可否

状況: 近隣の畜産農家から未発酵の家畜ふん堆肥の提供を受けられることになった。

判断: このままでは使用しない。堆肥化施設で十分に発酵させた状態まで待つ、または発酵が完了した資材に切り替える。

理由: 有機JAS 上、家畜の飼養方法(飼料や薬剤の使用歴)は規格で問われない。しかし堆肥化の過程で化学合成資材が混入していないこと、発酵が十分に進んでいることの二点は必須の確認事項である。未発酵の堆肥は、土壌中での急激な分解に伴うガス障害や窒素飢餓、病原菌・雑草種子の残存リスクがあり、有機JAS の観点からも使用対象外となる。

実例3: 周辺圃場からの飛散リスク

状況: 認証取得を検討している圃場の隣接地で、慣行栽培の水稲に航空防除(ドローン散布)が行われている。

判断: 緩衝地帯の設置、または隣接圃場の管理者との散布時期・方法の調整を行い、それでも飛散リスクが排除できない場合は、認証機関に個別相談のうえ、圃場区画の見直しを検討する。

理由: 圃場要件は自分の管理範囲内の資材使用だけでなく、外部からの汚染リスクも対象とする。緩衝地帯の幅や必要な措置は作物・地形・散布方法によって異なるため、都道府県の基準および認証機関の判断に従って個別に確認する必要がある。

手順と判断基準

ステップ1: 圃場の履歴と立地を確認する

  • [ ] 過去の施肥・防除の記録が残っているか
  • [ ] 周辺圃場からの飛散・流入リスクがあるか(航空防除、強風時の飛散、水系を通じた流入など)
  • [ ] リスクがある場合、緩衝地帯や水系分離の措置を取れるか → 取れない場合は圃場選定を見直す

ステップ2: 転換期間を確認する

  • [ ] 対象作物の転換期間が何年と規定されているか認証機関に確認したか
  • [ ] 転換期間中であることを帳簿・出荷ラベルで区別できる体制があるか

ステップ3: 使用資材を一つずつ照合する

  • [ ] 肥料・土壌改良資材が有機JAS 別表に掲載されているか
  • [ ] 防除資材が別表に掲載されているか、またはラベル・認証機関の確認が取れているか
  • [ ] 堆肥は発酵が完了し、化学合成資材の混入がないか
  • [ ] 種苗は有機種苗を優先的に検討したか、遺伝子組換えでないことを確認したか

ステップ4: 栽培方法を確認する

  • [ ] 輪作・緑肥等、化学合成資材に依存しない地力維持の方法が計画に組み込まれているか
  • [ ] 病害虫・雑草対策が耕種的・物理的方法を基本としているか

ステップ5: 記録と分別管理の体制を確認する

  • [ ] 資材の購入記録・使用記録を保管する仕組みがあるか
  • [ ] 慣行栽培の圃場・資材・収穫物との混同を防ぐ動線・保管場所の分離ができているか

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

「天然由来」と表示された資材を確認せず使用する

天然由来であっても有機JAS 別表に掲載がなければ使用できない場合がある

購入前に別表掲載の有無を認証機関またはラベル表示で確認する

転換期間中の収穫物を「有機」として扱う

転換期間を満たしていない収穫物は有機農産物と表示できない

転換期間中である旨を記録・出荷ラベルで明確に区別する

未発酵の堆肥をそのまま使用する

化学合成資材混入の有無にかかわらず、未発酵は使用対象外。窒素飢餓やガス障害のリスクもある

発酵状況を確認し、未発酵の場合は切り返し・養生期間を確保する

慣行栽培の圃場と資材を同じ倉庫・器具で管理する

意図せず混入し、分別管理の証明ができなくなる

保管場所・器具を分離し、記録で動線を追跡できるようにする

資材の可否を自己判断で決める

地域や認証機関によって個別判断が異なる場合がある

必ず認証機関に個別確認し、確認結果を記録に残す

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 圃場要件(飛散・流入防止、土壌・水の履歴)を最初に確認する
  2. 転換期間を満たしているか確認し、満たすまでは区別して管理する
  3. 使用資材は一つずつ有機JAS 別表・ラベル・認証機関の判断で照合する
  4. 輪作・緑肥等、化学合成資材に依存しない栽培方法を計画に組み込む
  5. 記録と分別管理の体制を、資材選定と同じ重みで整備する

現場実践課題

自分の圃場(または所属法人の圃場)を対象に、次の課題に取り組む。

  1. 圃場の過去3年分の施肥・防除履歴を可能な範囲で洗い出し、周辺圃場からの飛散リスクを地図上で確認する
  2. 現在使用している、または使用予定の資材を一覧化し、有機JAS 別表掲載の有無を確認する
  3. 確認結果を下記の形式で記録する

資材名

用途

別表掲載の有無

確認方法(誰に・いつ確認したか)

判定

例: 完熟牛ふん堆肥

土づくり

要個別確認

認証機関へ電話確認予定

保留

現場で使える!専門用語ミニ辞書

転換期間(てんかんきかん)
慣行栽培から有機栽培に切り替える際、収穫物を有機農産物として扱えるようになるまでに必要な期間。作物の種類により年数が異なる
別表(べっぴょう)
有機JAS で使用可能な肥料・土壌改良資材・防除資材などを定めたリスト。掲載がない資材は原則使用できない
緩衝地帯(かんしょうちたい)
隣接する慣行栽培圃場などからの農薬・化学肥料の飛散・流入を防ぐために設ける区域
分別管理(ぶんべつかんり)
有機栽培の圃場・資材・収穫物を、慣行栽培のものと物理的・記録的に区別して管理すること
認証機関(にんしょうきかん)
有機JAS 適合の可否を審査・認証する登録認証機関

参考(一次情報)

  • 有機農産物の日本農林規格(農林水産省)
  • みどりの食料システム戦略(農林水産省)
  • 緑肥利用マニュアル(農研機構)
  • 気象庁 大気中の二酸化炭素濃度の観測データ

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    有機JAS認証取得を目指す露地野菜の圃場で、隣接する休耕地の持ち主が来季から水稲栽培を再開し、ラジコンヘリによる除草剤散布を計画していることが分かった。両圃場の間に明確な緩衝地帯はまだ設けていない。

    この状況での対応として最も適切なのはどれか。

  2. Q2/2

    転換2年目の畑作圃場で、近隣の畜産農家から牛ふん堆肥の提供を受けられることになった。現地で確認したところ、堆肥化施設で切り返しを重ねており、発酵は十分に進んでいる。ただし、その牛は体調不良時に抗生物質を投与されたことがあるという。

    この堆肥を有機JASの圃場に使用する際の判断として最も適切なのはどれか。

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