TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説
輪作と圃場ローテーションの設計
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PRE-CHECK
事前チェック
読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。
Q1/2
前提ユニット「土づくりの年間設計」で扱った内容として適切なのはどれか。
Q2/2
マメ科作物が土壌の養分収支に果たす役割として本章の前提となる知識はどれか。
この章で学ぶこと(学習目標)
この章を終えると、次のことができるようになります。
- 科(ファミリー)・生育特性・養分特性の違いに基づいて、輪作の順序を設計できる
- 連作障害と養分偏りのリスクを、作付け履歴と緑肥の組み合わせで低減する計画を立てられる
- 自分の圃場群について、3〜5年スパンのローテーション表を作成し、判断理由を説明できる
所要時間の目安: 90分(圃場台帳の確認を含む場合は120分)
結論
圃場ローテーションは、次の順番で判断します。
- 科を分散させる: 同一科(ナス科・アブラナ科・ウリ科・マメ科など)を同じ圃場で連続させない。最低でも2〜3年、できれば3〜4年空ける。
- 前作の残効と養分収支を確認する: マメ科の後は窒素要求の高い作目(葉物・果菜)を置く。イネ科緑肥の後は、余剰養分が吸収・保持された状態を踏まえて次作を決める。
- 土壌病害・センチュウの履歴を確認する: 発生歴がある圃場では、非寄主作物または緑肥を挟む年を設ける。
- 土づくりの年間設計と連動させる: 堆肥・緑肥の投入タイミングをローテーション表に組み込み、単年でなく複数年で土づくりを設計する。
- 雑草の発生傾向を考慮する: 同じ中耕体系・同じ作型が続くと特定の雑草が優占しやすいため、中耕のタイミングや被覆作物を変えて多様性を保つ。
原理: なぜ輪作が必要か
土壌病害とセンチュウの密度管理
同じ科の作物を連作すると、その作物を好む土壌病原菌(糸状菌・細菌)やセンチュウの密度が圃場内で高まりやすくなります。これは、病原体が宿主特異性を持ち、同じ宿主が繰り返し供給される環境で増殖しやすいためです。輪作により非寄主作物を挟むと、病原体の増殖機会が減り、密度が低下する期間が生まれます。糸状菌は資化できる有機物の種類が幅広く土壌中で長期間生存するものが多いため、発生歴のある圃場では複数年の間隔が必要です。放線菌は抗菌物質を産生する種もあり、土壌の微生物相が多様であるほど特定病原菌が優占しにくいとされています。輪作による作物種の多様化は、根圏に供給される有機物の種類を変え、細菌・糸状菌・放線菌それぞれの群集構成を変化させる働きがあります。前提ユニット「土づくりの年間設計」で扱った分解者の働きの違いは、ここでも土台になります。有機JAS の病害虫管理も、こうした予防的な作付け設計を基本とする考え方に立っています。農薬・資材による防除を検討する場合は、有機JAS 別表と認証機関・ラベルで使用可否を必ず確認します。
養分収支とマメ科・イネ科の役割分担
マメ科作物は根粒菌との共生により大気中の窒素を固定し、土壌への窒素供給源となります。マメ科の後作に窒素要求の高い作物を置くと、前作の残効を活用できます。一方、イネ科緑肥は吸肥力が強く、前作で残った余剰窒素やリン酸・カリを吸収して体内に保持し、すき込みにより有機物として土壌に還元します。これにより、降雨による養分の溶脱を抑え、次作への供給源とする設計が可能になります。緑肥のすき込みから定植までは、有機物の分解・無機化と炭素率(C/N比)の落ち着きを待つため、3〜4週間を標準の目安とします(農研機構の緑肥利用マニュアルに基づく)。この期間が短いと、未分解有機物による酸素欠乏や微生物による窒素飢餓が生じ、定植後の生育初期に葉の黄化(下位葉から症状が出やすい)として現れることがあります。これは、窒素が成長の盛んな茎頂・新葉へ転流する一方、下位葉から再移動して不足を補う植物の生理に基づきます。
根の深さと物理性の違い
作物ごとに根の深さ・太さ・分岐の仕方は異なります。浅根性の作物が続くと作土層の特定の深さだけが繰り返し耕され、心土との境界に硬盤が形成されやすくなります。深根性の作物や緑肥を輪作に組み込むと、根が物理的に土壌を貫通し、孔隙を作ることで透水性・通気性の改善につながります。これは前提ユニットで扱った作土と心土の違い(生物・有機物は作土に集中する)を踏まえ、作土層を深く・豊かに保つための設計と位置づけられます。
雑草相への影響
同じ作型・同じ中耕体系が続くと、その条件に適応した雑草種が優占しやすくなります。輪作により作付け時期・中耕回数・被覆期間を変えることで、特定の雑草が連続して種子を落とす機会を減らせます。雑草管理そのものの詳細は生態系を扱う章に譲りますが、ローテーション設計の判断材料として発生傾向を記録しておくことが有効です。
判断の実例
実例1: トマト(ナス科)の連作歴がある圃場
状況: 同一圃場でトマトを2年連続栽培し、3年目も同じ圃場での作付けを検討している。前年に青枯病の発生が一部で確認された。
判断: 3年目はナス科を避け、非寄主のイネ科緑肥(ソルゴー等)を1作入れた上で、4年目以降にナス科を再検討する。
理由: 青枯病菌は土壌中に長期間生存し、ナス科作物への感染性を持つ。非寄主作物を挟むことで菌密度の増加を避け、イネ科緑肥のすき込みにより土壌の有機物供給と物理性改善も同時に図れるため。
実例2: ダイズ(マメ科)の後作を検討する圃場
状況: ダイズを収穫した圃場で、次作にキャベツ(アブラナ科・窒素要求が高い)を計画している。
判断: ダイズの残渣をすき込み、2〜3週間程度の分解期間を置いた上でキャベツを定植する。追加の窒素投入量は都道府県の施肥基準で確認し、残効分を差し引いて設計する。
理由: マメ科の根粒による窒素固定分が土壌に残り、後作の窒素要求を一部満たせるため。ただし残効量は圃場条件により変動が大きく、一律の数値では判断できないため、地域の基準に照らして調整する。
実例3: 砂質土の圃場で毎年同じ作型を続けている場合
状況: 砂質土の圃場で、浅根性の葉物を年3作、同じ中耕体系で続けている。保水力の低下と特定雑草の優占が見られる。
判断: ローテーションにマメ科またはイネ科の緑肥を年1回組み込み、中耕のタイミングをずらした作型を挟む。
理由: 砂質土は腐植の分解が速く有機物が蓄積しにくいため、緑肥による有機物供給と根による保水力改善が必要。また同じ中耕体系の継続が雑草相の単純化を招いているため、作型を変えることで多様性を回復させる。
手順と判断基準
ステップ1: 圃場台帳で過去の作付け履歴を確認する
- [ ] 直近3〜5年の作付け科を一覧にしているか
- [ ] 同一科の作付けが2年以上連続していないか
ステップ2: 病害・センチュウの発生歴を確認する
- [ ] 発生歴のある圃場を地図・台帳で特定しているか
- [ ] 発生歴がある場合、非寄主作物または緑肥を1作以上挟む計画になっているか
ステップ3: 養分収支を設計する
- [ ] マメ科の後作に窒素要求の高い作物を配置しているか
- [ ] イネ科緑肥を養分の吸収・保持の目的で組み込んでいるか
- [ ] 施肥量は都道府県の基準で確認したか(残効分を考慮)
ステップ4: 土づくりの年間設計と統合する
- [ ] 堆肥・緑肥の投入タイミングをローテーション表に明記しているか
- [ ] 緑肥すき込みから次作定植まで3〜4週間を確保できる作期になっているか
ステップ5: 土壌群・気候帯に応じた調整をする
- [ ] 黒ボク土・低地土・砂質土などの土壌群ごとに適した緑肥種・輪作間隔を選んでいるか
- [ ] 地域の気象条件(作期の長さ)に無理のない計画か
ステップ6: 雑草発生傾向の記録を反映する
- [ ] 前作型での雑草の優占種を記録しているか
- [ ] 作型・中耕時期を変える計画になっているか
よくある失敗と対策
失敗 | なぜまずいか | 対策 |
|---|---|---|
同一科を安易に連続作付けする | 土壌病害・センチュウの密度が圃場内で蓄積し、収量・品質低下につながる | 圃場台帳で科の履歴を必ず確認し、最低2〜3年は間隔を空ける |
緑肥すき込み後すぐに定植する | 未分解有機物による窒素飢餓・酸素欠乏で初期生育が不安定になる | すき込みから定植まで3〜4週間を標準に確保する |
マメ科の残効を考慮せず一律施肥する | 窒素過剰による徒長・品質低下、または過少による生育不良を招く | 残効を踏まえつつ、具体的な施肥量は都道府県の基準で確認する |
土壌群の違いを無視して他地域の輪作例をそのまま適用する | 砂質土と黒ボク土では有機物の分解速度・保水力が異なり、同じ間隔・緑肥種が合わない | 自圃場の土壌群を把握し、地域の指導機関・基準に照らして調整する |
ローテーション表を単年で作り直す | 土づくりは年単位の設計が前提であり、単年計画では土壌改善の効果が積み上がらない | 3〜5年スパンの表を作成し、年ごとの作目・資材投入を一体で管理する |
まとめ(判断基準の再掲)
- 科を分散させ、同一科の連続作付けを避ける(目安2〜3年、できれば3〜4年間隔)
- マメ科・イネ科の役割分担(窒素供給/養分の吸収・保持)を踏まえて前後作を組む
- 病害・センチュウの発生歴がある圃場は非寄主作物・緑肥を挟む
- 緑肥すき込みから定植まで3〜4週間を標準の目安とする
- 土壌群・気候帯の違いを踏まえ、施肥量は都道府県の基準で確認する
- 土づくりの年間設計・雑草発生傾向の記録とローテーション表を一体で管理する
現場実践課題
自分が管理する圃場群について、過去3〜5年の作付け履歴を一覧化し、今後3年分のローテーション計画を作成してください。計画には、作目・科・緑肥投入時期・病害発生歴の有無を記録します。
圃場No | 年 | 作目(科) | 緑肥投入 | 病害・センチュウ発生歴 | 施肥量確認(都道府県基準) | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
例: A1 | 2024 | トマト(ナス科) | なし | 青枯病あり | 済 | 翌年は非寄主を計画 |
A1 | 2025 | ソルゴー(緑肥) | すき込み予定 | - | - | 3〜4週間後に次作定植 |
A1 | 2026 | キャベツ(アブラナ科) | - | なし | 要確認 |
現場で使える!専門用語ミニ辞書
- 連作障害(れんさくしょうがい)
- 同一科・同一作物を同じ圃場で繰り返し栽培することで生じる生育不良・病害虫の多発などの総称
- 宿主特異性(しゅくしゅくとくいせい)
- 病原体が特定の作物(宿主)にのみ感染・増殖しやすい性質
- 非寄主作物(ひきしゅさくもつ)
- ある病原体やセンチュウが感染・増殖できない作物
- C/N比(たんそちっそひ)
- 有機物中の炭素と窒素の比率。高いほど分解に時間がかかり、分解時に周囲の窒素を取り込みやすい
- 窒素飢餓(ちっそきが)
- 未分解有機物の分解過程で微生物が土壌中の窒素を取り込み、作物が利用できる窒素が一時的に不足する現象
- 硬盤(こうばん)
- 同じ深さの耕耘が続くことで作土と心土の境界に形成される締まった層。透水性・根の伸長を妨げる
- 残効(ざんこう)
- 前作で投入・固定された養分が、後作の生育に利用できる形で土壌中に残ること
参考(一次情報)
- 農林水産省「有機農業の推進に関する基本的な方針」
- 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
- 農研機構 緑肥利用マニュアル
- 有機JAS 規格(別表を含む)
EXERCISE
判断演習
本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。
Q1/2
ある圃場でジャガイモ(ナス科)を2年連続で栽培し、昨年は青枯病の発生が一部で確認された。3年目の作付けを検討している。
この圃場での3年目の作付け計画として最も適切な判断はどれか。
Q2/2
ダイズを収穫した圃場で、次作にホウレンソウ(アブラナ科近縁ではないが窒素要求がやや高い葉物)を計画している。残渣はまだすき込んでいない。
この圃場での養分設計として最も適切な判断はどれか。
学習状況を確認しています…
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