TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説
植物生理学の基礎
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PRE-CHECK
事前チェック
読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。
Q1/2
この章を読む前の確認です。晴れた日の昼間、畑の作物は光合成を行っています。
光合成では、葉は主に何を取り込み、何を放出していますか。
Q2/2
この章を読む前の確認です。晴れた日の昼間、作物の葉からは盛んに水蒸気が失われています(蒸散)。
蒸散の働きとして、適切なものはどれですか。
この章で学ぶこと(学習目標)
この章を終えると、次のことができるようになります。
- 光合成・呼吸・蒸散の3つの働きを、互いの関係(昼と夜、作る・使う・運ぶ)で説明できる
- 葉で作られた光合成産物が、生育ステージごとに「どこへ分配されるか」(ソース・シンク)を読み、栽培判断に結びつけられる
- 晴れた日の圃場で、生育の勢い・しおれ・過繁茂などの様子を見て、生理のどこに制限がかかっているかを切り分けられる
所要時間の目安: 本文 12 分、現場実践課題 1 週間(毎日 5 分の観察)。
結論
植物の生理の判断は、次の順で行います。
- まず生育ステージを確認する。今の植物が「葉を広げる時期」「実や貯蔵器官を太らせる時期」のどちらにいるかで、同化産物の行き先(シンク)が決まる
- 次に光合成の制限要因を見る。光・二酸化炭素・温度・水のうち、どれが一番足りていないか。足りない要素が1つでもあれば、ほかを増やしても収量には結びつかない
- 蒸散と気孔の状態を見る。しおれ・葉温の上がり方は、水分と温度の制限のサインである
- 呼吸の消耗を差し引いて考える。特に夜温が高い時期は、昼に作った同化産物が夜の呼吸で使われ、貯蔵や肥大に回る分が減る
- 分配の偏りを正す。蔓や葉ばかりがシンクになっている(つるぼけ等)ときは、肥料を足すのではなく、分配が偏った原因を取り除く
有機JAS の基準は、土壌の生産力を基盤に作物を育てることを求めています。植物生理は、その土台の上で「植物が今何をしているか」を読むための知識です。肥料や資材の判断の前に、植物側の状態を読む順番が大切になります。
原理: 光合成・呼吸・蒸散と、同化産物の分配
光合成 — 炭水化物を作る働き
光合成は、葉の葉緑体で、光のエネルギーを使って二酸化炭素と水から炭水化物(糖)を作り、酸素を放出する働きです。反応をまとめると次のようになります。
6CO2 + 6H2O → C6H12O6 + 6O2
作られた糖は、その場で使われるほか、デンプンとして葉に一時的にためられ、夜間に分解されて体全体へ運ばれます。光合成の速さ(光合成速度)は、次の要素で決まります。
- 光: 強いほど速くなりますが、一定の強さを超えると頭打ちになります。この頭打ちの始まる光の強さが 光飽和点 です。逆に、光合成で取り込む二酸化炭素と呼吸で出す二酸化炭素が釣り合う弱い光が 光補償点 で、これより暗い場所では葉は「作る」より「使う」方が多くなります。群落の下葉が光補償点を下回ると、その葉は生産者ではなく消費者になります
- 二酸化炭素: 大気中の濃度はおよそ 420 ppm です。光が十分でも二酸化炭素が薄いと光合成は制限されます。密閉した施設内では、晴れた午前中に作物が吸収して濃度が大きく下がることがあります
- 温度: 光合成に関わる酵素の働きには適温があり、低すぎても高すぎても速度は落ちます。適温は作物と品種で異なり、都道府県の栽培基準や栽培暦で確認します
- 水: 水が不足すると気孔が閉じ、二酸化炭素が取り込めなくなります(後述)
多くの野菜や水稲は、光合成の経路が C3 型 と呼ばれる型です。高温・乾燥の条件では、光呼吸(取り込んだ酸素と結びついて同化産物を消費する働き)が増え、効率が落ちます。トウモロコシやサトウキビなどの C4 型 は、二酸化炭素を濃縮する仕組みを持ち、高温・強光でも効率が落ちにくい特徴があります。栽培管理では「C3 の作物は真夏の高温と乾燥で光合成が鈍りやすい」という形で効いてきます。
呼吸 — 作ったものを「使う」働き
呼吸は、糖を分解して、生育や養分吸収に必要なエネルギーを取り出す働きです。光合成と逆向きの反応ですが、昼夜を問わず常に行われています。
呼吸は役割で2つに分けられます。
- 生長呼吸: 新しい葉・茎・根・実を作る材料の組み立てに使われる呼吸
- 維持呼吸: すでにできた体を維持するために使われる呼吸。体の量が多いほど、また温度が高いほど多くなります
呼吸速度は温度に強く影響され、温度が 10 ℃上がるとおよそ 2 倍 になる(温度係数 Q10 ≒ 2)という関係が目安になります。夜温が 5 ℃高いと、夜の呼吸量はおよそ 1.4 倍(2 の 0.5 乗)になります。昼に十分な光合成ができても、夜温が高すぎる時期は維持呼吸の消耗が増え、果実の肥大や貯蔵器官への蓄積に回る分が減ります。果菜類で「夜温を下げると実の太りが良くなる」とされるのは、この収支で説明できます。
蒸散と気孔 — 水と二酸化炭素の出入り口
葉の裏側を中心に分布する 気孔 は、孔辺細胞の膨らみ・しぼみで開閉する小さな穴です。二酸化炭素の取り込み口であると同時に、水蒸気の出口でもあります。葉から水蒸気が失われる働きが 蒸散 です。
蒸散は「水の無駄遣い」ではありません。蒸散によって根から水が引き上げられ、その流れに乗って土壌中の養分(特に、師管の中では移動しにくいカルシウムなどの成分)が地上部へ運ばれます。また、蒸散で熱が奪われるため、葉の温度が上がりすぎるのを防ぎます。
気孔は、光が当たると開き、暗くなると閉じるのが基本です。ただし、土壌の水分が不足したり、空気が極端に乾燥したりすると、植物は水分を守るために昼間でも気孔を閉じます。気孔が閉じれば蒸散は止まりますが、同時に二酸化炭素も入らなくなり、光合成が止まります。強い日射しと乾燥が重なる真夏の昼に光合成が落ち込む 昼寝現象 は、この仕組みで起きます。
空気の乾き具合は、温度と湿度を組み合わせた 飽差(ほうさ。水蒸気圧の不足分)で捉えます。飽差が大きい(高温・低湿)ほど蒸散は強く求められ、根の吸水が追いつかなければしおれます。
器官の分担 — 根・茎・葉
植物の体は、働きの違う器官の分担で成り立っています。生理の判断は、この分担のどこに不調があるかを読むことでもあります。
- 根 — 吸収の場。根の先端近くの 根毛 が土と接する面積を大きく広げ、水と養分の吸収の主役になります。根は植物を土に固定する支持の役割も持ちます。根の張り(深さと広がり)が吸収できる土の範囲を決めるため、根の発達が地上部の生育の上限を規定します。また、根も呼吸をしてエネルギーを作り、その力で養分を取り込んでいます。過湿で土の中の酸素が不足すると根の呼吸ができなくなり、水があっても吸収が止まります。「水のやりすぎで枯れる」のはこの仕組みです
- 茎 — 輸送と支持の場。根が吸った水と養分は 道管 を通って地上部へ上がり、葉で作られた同化産物は 師管 を通ってシンクへ運ばれます(転流)。茎は葉と実を高い位置に保つ支持体でもあります。茎の太さや 節間(せっかん。節と節の間)の伸び方は、生育の勢いを読む目安になります。節間が間延びしている状態は、光不足や窒素過多などで分配や生育のバランスが崩れているサインです
- 葉 — 同化の場。光合成で同化産物を作り、気孔を通じて蒸散と二酸化炭素の取り込みを行います。葉の面積と、群落の中でどれだけ光を受けられるかが、その植物のソースの大きさを決めます
全体を1つの系として見ると、流れは 吸収(根)→ 輸送(茎)→ 同化(葉)→ 貯蔵(果実・塊根・球などのシンク器官) となります。どこか1つの器官の不調は、この流れの詰まりとして現れます。根が傷めば水と養分が上がらず葉がしおれ、葉が失われれば貯蔵器官は太らず、輸送の途中の茎が折れたり病気になったりすれば、その先の器官への供給が止まります。症状が出た器官と、原因のある器官が一致するとは限りません。
なお、養分の欠乏・過剰の症状が「どの器官に、どう出るか」は、器官ごとの養分の動き方と結びつけて、次の章「植物栄養学」で扱います。この章で置いた器官の分担は、その前提になります。
ソースとシンク — 同化産物の分配
光合成産物(同化産物)は、師管を通って植物全体へ運ばれます(転流)。このとき、同化産物を 供給する側をソース、受け取って使う・ためる側をシンク と呼びます。
- ソースの中心は、十分に展開した葉(成葉)です。若い葉は、展開が終わるまでは受け取る側(シンク)です
- シンクには、生長点と若い葉、根、開花・結実した果実、塊茎・塊根・りん茎などの貯蔵器官があります
- シンクの引く力(シンク活性)は生育ステージで大きく変わります。栄養生長期は葉・茎・根が主なシンクで、生殖生長に移ると果実や貯蔵器官が最優先のシンクになります
分配の原則は単純で、同化産物は、その時期に最も強く引くシンクへ優先的に流れます。したがって、シンクが多すぎれば1つあたりの取り分が減って小玉になり、栄養器官のシンクが強すぎれば(例: 窒素過多で蔓葉ばかり伸びる「つるぼけ」)、貯蔵器官や果実が太りません。逆に、ソースである葉の面積が不足すれば、シンクが健全でも太らせる材料が足りません。
栽培作物では、この関係が品目ごとに具体的な姿を取ります。
- サツマイモ: 塊根がシンク。塊根の数は定植後の早い時期に決まり、その後の肥大は葉からの同化産物の供給で進みます。蔓葉が過繁茂すると分配が栄養器官に偏り、塊根の肥大が鈍ります
- タマネギ: りん茎(球)がシンク。球の肥大は、日長が長くなることで始まる性質(日長反応)があり、早生の品種では日長がおよそ 12 時間を超える頃から肥大が始まります。肥大期に葉が健全でなければ、球を太らせる同化産物が不足します
- 果菜類(トマトなど): 果実が最優先のシンク。着果数が多すぎると1果あたりが小さくなり、少なすぎると茎葉に分配が偏って過繁茂になります
この章の内容は、後続の「植物栄養学」(養分の吸収と同化産物の関係を扱う)と「病害の科学」(過繁茂が病害の発生環境を作る側面を扱う)の前提になります。
食味と形状 — シンクに何がたまり、どう太ったか
収穫物の商品価値は、量だけでなく 食味と形状 で決まります。この2つも、特別な仕組みではなく、ここまで見てきた分配と肥大の結果として現れます。
食味は、シンクに蓄積した中身で決まります。果実や貯蔵器官の甘みのもとになるのは、ソース(葉)から送られてきた同化産物です。果実では、送られた糖がそのまま、あるいはデンプンなどを経て蓄えられ、有機酸とのバランスで味が決まります。貯蔵器官(塊根・塊茎・りん茎など)では、同化産物は主にデンプンとして蓄積し、その蓄積量が収量と品質の土台になります。サツマイモでは、収穫後の貯蔵中にデンプンの一部が糖に変わり、甘みが増すことが知られています。逆に、夜温が高く呼吸の消耗が大きい時期は、送られてきた糖が使われてしまい、蓄積が進みにくくなります。食味の土台は、収穫後ではなく、生育中に葉がどれだけ作り、シンクへどれだけ送れたかで決まっている、ということです。
形状は、シンクの肥大のしかたで決まります。果実や塊根・球の形は、細胞分裂と細胞の肥大によって作られます。同化産物の供給が不足したり、水分条件の急変などで肥大がむらになったりすると、太る部分と太らない部分の差が開き、形の乱れにつながります。また、株ごとにシンクの数と葉面積(ソース)のバランスがばらつけば、1つあたりの取り分がばらつき、収穫物の大きさのそろいも悪くなります。果菜類の摘果や着果数の調整は、味と形をそろえるための、分配のバランスを整える操作でもあります。
つまり、食味と形状は「最後にどうにかする」ものではなく、生育中の管理――葉を健全に保ち、シンクの数を適正にし、水分の供給を安定させること――の結果として収穫のときに現れます。
生育ステージと生理の変化
生理の状態は、生育ステージで切り替わります。判断のときは「今どのステージか」を先に置きます。
ステージ | 植物の中で起きていること | 管理で意識すること |
|---|---|---|
発芽・出芽 | 種子や種芋にためた養分で育つ(ソースは貯蔵養分)。光合成はまだ小さい | 土壌水分と地温。肥料はまだ効かない |
栄養生長 | 葉面積が広がり、光を受ける面を作る。シンクは葉・茎・根 | 葉面積の確保が先。ただし過繁茂は相互遮蔽を招く |
生殖生長への移行 | 日長や温度の刺激で花芽ができ、シンクの優先順位が変わる | 品目ごとの感光性・感温性を栽培暦で確認する |
開花・結実/貯蔵器官の肥大 | 果実・塊根・球などが最優先のシンクになる | ソース(葉)を健全に保つことが肥大の条件になる |
成熟・老化 | 葉の養分が貯蔵器官へ移行(再転流)し、葉は黄化する | 収穫適期の判断。葉の黄化は異常とは限らない |
群落全体で見ると、葉面積の合計と地面の面積の比(葉面積指数、LAI)が光の利用を決めます。LAI が小さすぎると地面に光が漏れて使われず、大きすぎると下葉が光補償点を下回り、蒸散と湿度の面でも病害の出やすい環境になります。品目ごとの適正な LAI や栽植密度は、都道府県の栽培基準で確認します。
判断の実例
実例1: 晴れた冬の午前、ハウスを閉め切っていた
冬の果菜類ハウス。晴天の午前 10 時、室温は上がっているのに換気を閉め切り、二酸化炭素濃度は外気(およそ 420 ppm)より大きく下がっていました。葉色や水分に問題は見えませんが、生育の勢いは鈍い状態です。
判断: 施肥や灌水を増やす前に、午前中から段階的に換気を開け、施設内の二酸化炭素濃度が外気並みを大きく下回らない運用に変えました。温度は品目の適温の範囲に収まるよう、換気の開け方で調整します。
理由: 光が十分にある時間帯に、二酸化炭素が光合成の一番の制限要因になっていた。制限要因でない要素(肥料・水)を増やしても光合成は増えず、EC の上昇などの副作用だけが残る。判断の順番は「制限している要素から外す」である。
実例2: サツマイモのつるぼけ — 蔓ばかり茂って塊根が太らない
定植から 2 か月。蔓の伸びと葉の茂りは旺盛で葉色も濃いが、試し掘りでは塊根の肥大が進んでいませんでした。前作の残肥が多く、基肥の窒素も多めに入っていた圃場です。
判断: 追肥は行わず、次作に向けて施肥量と栽植密度の見直しを記録しました。当年は、蔓の過繁茂で地面が厚く覆われている部分の通風を確かめ、病害の発生を見張る管理に切り替えました(蔓を大きく切り取るような操作は、ソースである葉面積まで減らすため行いません)。
理由: 同化産物の分配が、シンクである塊根ではなく、栄養器官(蔓葉)に偏っていた。窒素が多い条件では栄養生長のシンクが強くなり続けるため、追肥は偏りを強める方向に働く。ソース・シンクの問題は「足す」のではなく「偏りの原因を外す」ことで正す。この状態が続くと、肥大が進む塊根と進まない塊根の差が開いて形と大きさがそろわなくなるうえ、塊根に蓄えられるデンプンそのものが少なくなり、収穫後に甘みへ変わる素材も乏しくなる。つるぼけは収量だけの問題ではなく、形状と食味の土台を失う問題でもある。
実例3: タマネギの肥大期に、葉の病気を様子見した
球の肥大が始まった時期(早生品種で日長がおよそ 12 時間を超える頃)に、下葉に病斑が出始めました。「収穫が近いから」と様子見を続けた区では葉の枯れ上がりが早く、球の肥大が止まって小玉になりました。
判断: 肥大期は葉を守る時期と位置づけ、病斑の広がりを早期に記録し、発生初期の段階で、その栽培体系(有機JAS)で使える防除手段と耕種的な対策(通風の確保、発生源の除去)を優先して行う判断に変えました。具体の薬剤・資材の可否と使い方は、認証機関の判断と都道府県の防除基準で確認します。
理由: 肥大期の球は、葉で作られた同化産物の転流で太る。葉(ソース)を肥大期に失うことは、シンクに送る材料そのものを失うことになる。同じ病気でも、栄養生長期と肥大期では被害の出方が違う。ステージで判断の重みが変わる例である。
手順と判断基準
圃場で生理の状態を読むときは、次の順で観察します。
ステップ1: 生育ステージを置く
- 今は栄養生長か、生殖生長・肥大期か
- そのステージで最優先のシンクはどこか(葉・根/果実/塊根・球)を言葉にする
ステップ2: ソース(葉)と器官の状態を見る
- 葉色と葉の大きさ、葉面積の過不足(地面が見えるか、下葉まで光が届くか)
- 下葉が黄化・枯死していないか。下葉の早期枯死は、光不足か養分不足のサイン
- 茎の太さと節間の伸びを見る。間延びしていれば、光不足や栄養生長の偏りを疑う
- 根は直接見えないため、朝の葉の張りと、試し掘りや株元の様子から張りを推し量る。過湿が続いた圃場では、根の呼吸が止まって吸収が落ちている可能性を候補に入れる
- 過繁茂なら、追肥の前に栽植密度と施肥の履歴を振り返る
ステップ3: 光合成の制限要因を切り分ける
- 曇天・短日で光が足りない時期か → 増やせるのは受光条件(栽植・整枝)だけ。肥料では補えない
- 施設で晴天の午前なら、二酸化炭素の低下を疑う → 換気の運用を見直す
- 高温期の昼に生育が鈍る → 昼寝現象の可能性。水分の状態をステップ4で確かめる
ステップ4: 蒸散と水分の状態を見る
- 朝のうちに葉の張りがあるか。朝から張りがなければ、土壌水分の不足を疑い、根の張っている深さの土を握って確かめる
- 昼にしおれて夕方に回復するか。一時的なしおれは蒸散が吸水を上回った状態で、夕方までに回復すれば直ちに異常とはしない。夕方も回復しなければ灌水を判断する
- 施設では飽差の大きい時間帯(高温・低湿)に注意し、換気と灌水のタイミングを合わせる
ステップ5: 呼吸の消耗を見積もる
- 夜温が高い時期(目安として、昼に作った分が夜温 5 ℃の差で呼吸量およそ 1.4 倍になる関係を使う)→ 施設では夜間の換気・温度管理を見直す。露地では、夜温の高い時期に過繁茂で体量(維持呼吸の対象)を増やしすぎない
- 果実・貯蔵器官の肥大が鈍いときは、昼の光合成だけでなく夜の消耗も候補に入れる
ステップ6: 分配の偏りを確かめる
- 蔓葉ばかり伸びて貯蔵器官・果実が太らない → 窒素の過多と残肥を疑い、追肥は止める(実例2)
- 実や球が小玉でそろわない → シンク過多(着果・着生の過多)か、ソース不足(葉面積・葉の健全さ)かを分ける
- 偏りの原因が当年に直せないものは、記録して次作の施肥・密度・品種の判断材料にする
観察は「ステージ → ソース → 制限要因 → 水分 → 呼吸 → 分配」の順を固定し、同じ順で記録すると、週ごとの変化が比べやすくなります。
よくある失敗と対策
失敗 | なぜまずいか | 対策 |
|---|---|---|
生育が鈍いと、まず追肥で対応する | 制限要因が光・二酸化炭素・水分のときは効かず、EC 上昇と栄養生長の過剰だけが残る | ステップ3で制限要因を切り分けてから、足すものを決める |
密植・過繁茂のまま育てる | 下葉が光補償点を下回って消費側に回り、高湿で病害の出やすい環境になる | 品目の栽植密度は都道府県の栽培基準で確認し、整枝・間引きで受光を保つ |
つるぼけに窒素を追肥する | 栄養器官のシンクがさらに強くなり、塊根・果実への分配が減る | 追肥を止め、残肥と施肥履歴を記録して次作で正す |
肥大期に葉の病気を様子見する | ソースを失い、貯蔵器官や球の肥大が止まる | 肥大期は葉を守る時期と位置づけ、発生初期に記録と対策を優先する |
夜温の高い時期に施設を閉め切る | 維持呼吸の消耗が増え、昼に作った同化産物が肥大に回らない | 夜間も品目の適温の範囲に収まるよう換気を調整する |
昼のしおれを見て、すぐに大量に灌水する | 一時的なしおれは生理現象の範囲で、過灌水は根の酸素不足を招く | 夕方の回復を確認し、朝の葉の張りと土の水分で判断する |
防除や施肥に使う資材を有機JAS の圃場で使うときは、資材が有機JAS で使えるものを、資材の内容と認証機関の判断で事前に確かめます。
まとめ(判断基準の再掲)
- 判断の順番は ステージ → ソース → 制限要因 → 水分(蒸散)→ 呼吸 → 分配
- 光合成は、光・二酸化炭素・温度・水のうち最も足りない要素で決まる。制限要因でない要素を足しても増えない
- 呼吸は温度が 10 ℃上がるとおよそ 2 倍。夜温の高さは、昼の収穫(同化産物)を夜に食う形で効く
- 気孔が閉じれば、蒸散も光合成も止まる。しおれは水分判断の入口で、朝の張りと夕方の回復で重みが変わる
- 同化産物は、その時期に最も強く引くシンクへ流れる。つるぼけは「不足」ではなく「偏り」。足すのではなく原因を外す
- 肥大期・結実期は、シンク(実・塊根・球)ではなくソース(葉)を守ることが肥大の条件になる
- 食味と形状は、収穫のときに決まるのではなく、生育中の分配と肥大の結果として現れる。葉を保ち、シンクの数をそろえ、供給を安定させる管理が、味と形の土台になる
現場実践課題
自分の圃場の1品目(肥大期をこれから迎えるものが望ましい)を選び、1週間、毎日ほぼ同じ時刻に次の3点を記録してください。朝(9時前)と昼(13時頃)の1日2回、葉の様子を比べます。
- 生育ステージと「今いちばん育っている場所(シンク)」を言葉で書く
- 朝と昼の葉の様子(張り・しおれ・葉色)と、その日の天候(晴れ・曇り・雨)を書く
- 昼にしおれた日は、夕方に回復したかどうかを書く
1週間後に、記録を見返して「同化産物は今週、どこへ流れていたか」「制限になっていたのは光・水・分配のどれか」を3行でまとめてください。
記録の例:
日 | ステージとシンク | 朝の葉 | 昼の葉 | 夕方の回復 | メモ |
|---|---|---|---|---|---|
1日目(晴れ) | 肥大始め。シンクは球 | 張りあり | 少ししおれる | 回復した | 一時的なしおれ。灌水は見送り |
2日目(晴れ) | 同上 | 張りあり | しおれる | 回復した | 2日続けて昼にしおれる |
3日目(曇り) | 同上 | 張りあり | しおれなし | — | 曇りでは蒸散が少なく、しおれない |
4日目(晴れ) | 同上 | 朝から張りが弱い | 強くしおれる | 回復が遅い | 根の深さの土が乾いていた。灌水を判断 |
次の章「植物栄養学」の冒頭で、この記録の「制限になっていた要素」を振り返ります。
現場で使える!専門用語ミニ辞書
- 光合成(こうごうせい)
- 葉が光のエネルギーで二酸化炭素と水から糖を作る働き。作物の収量の出発点になる。
- 呼吸(こきゅう)
- 糖を分解して生育と維持のエネルギーを取り出す働き。生長呼吸と維持呼吸に分けられ、温度が高いほど増える。
- Q10(きゅーてん・温度係数)
- 温度が 10 ℃上がったときに反応速度が何倍になるかを示す値。呼吸ではおよそ 2 が目安。
- 蒸散(じょうさん)
- 葉の気孔から水蒸気が失われる働き。根からの吸水と養分の運搬、葉温の調節を担う。
- 気孔(きこう)
- 葉にある小さな開閉する穴。二酸化炭素の入口であり、水蒸気の出口。水分不足では閉じて光合成も止まる。
- 飽差(ほうさ)
- 空気があとどれだけ水蒸気を含む余裕があるかを示す指標。大きい(高温・低湿)ほど蒸散の要求が強くなる。
- 光飽和点(ひかりほうわてん)・光補償点(ひかりほしょうてん)
- 光合成が頭打ちになり始める光の強さと、光合成と呼吸が釣り合う光の強さ。下葉が補償点を下回ると、その葉は消費側になる。
- ソースとシンク
- 同化産物を供給する側(主に成葉)と、受け取って使う・ためる側(生長点・果実・塊根・球など)の呼び方。分配の判断の基本になる。
- 転流(てんりゅう)
- 同化産物や養分が、師管や道管を通って植物体内を移動すること。成熟期には葉の養分が貯蔵器官へ移る(再転流)。
- 同化産物(どうかさんぶつ)
- 光合成で作られた糖などの有機物。生育・肥大・蓄積の材料になる。
- 葉面積指数(ようめんせきしすう・LAI)
- 地面の面積あたりの葉面積の合計。光の利用効率と過繁茂の判断に使う。
- 日長反応(にっちょうはんのう)
- 昼の長さ(日長)に反応して花芽形成や球の肥大が始まる性質。タマネギの肥大開始などに現れる。
- 昼寝現象(ひるねげんしょう)
- 強い日射しと乾燥で気孔が閉じ、真昼に光合成が落ち込む現象。
- 根毛(こんもう)
- 根の先端近くに生える細い毛。土と接する面積を広げ、水と養分の吸収の主役になる。
- 道管(どうかん)と師管(しかん)
- 茎の中の輸送の通り道。道管は根から地上部へ水と養分を上げ、師管は葉で作られた同化産物をシンクへ運ぶ。
参考(一次情報)
- 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
- 農林水産省「有機農産物の日本農林規格」および別表(使用可能な肥料・土壌改良資材)
- 農研機構の作物栽培・生育診断に関する技術資料
- 各都道府県の栽培基準・施肥基準・栽培暦(作物ごとの適温・栽植密度・日長反応の確認先)
- 気象庁「大気中二酸化炭素濃度の観測結果」(大気中の二酸化炭素濃度の確認先)
- 千葉県「サツマイモ栽培技術指針」(塊根数の決定時期と、貯蔵中にデンプンの一部が糖に変わることの確認先)
- タキイ種苗「タマネギ栽培マニュアル」(品種ごとに異なる肥大開始日長の確認先)
EXERCISE
判断演習
本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。
Q1/2
サツマイモの圃場です。定植から2か月、蔓の伸びと葉の茂りは旺盛で葉色も濃いのに、試し掘りでは塊根の肥大が進んでいませんでした。前作の残肥が多く、基肥の窒素も多めに入っていた圃場です。
ソース・シンクの考え方に基づく判断として、適切なものはどれですか。
Q2/2
冬の果菜類ハウスです。晴天の午前10時、光は十分にありますが、保温のため換気を閉め切っており、施設内の二酸化炭素濃度は外気(およそ420 ppm)より大きく下がっていました。葉色・水分に問題は見えませんが、生育の勢いは鈍い状態です。
この状況で、光合成を制限している要因への対応として、まず行うべき判断はどれですか。
学習状況を確認しています…
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