TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

防除体系の組み立て

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    前章(発生予察と早期発見の仕組み)の内容を踏まえると、都道府県病害虫防除所が発表する発生予察情報を防除体系の設計にどう活用するのが適切か。

  2. Q2/2

    有機JASに適合した防除資材(生物農薬や硫黄・重曹系資材など)を圃場で使用する前に、必ず確認すべきこととして適切なものはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 耕種的・生物的・物理的防除を組み合わせ、有機JASで使える防除体系を自分の圃場向けに設計できる
  • 防除手段を選ぶときの優先順位と、化学合成農薬に依存しないための判断基準を説明できる
  • 前章 (発生予察・早期発見) の情報をもとに、どの防除手段をいつ投入するかを決められる

所要時間の目安: 60〜90分 (圃場での体系見直しの演習を含めると半日)

結論

防除体系を組み立てる判断の順番は次のとおりです。

  1. まず発生させない設計を優先する (耕種的防除: 輪作、抵抗性品種、作付け時期の調整、圃場衛生)。前章のモニタリング記録で発生しやすい条件 (時期・気象・前作) を把握してから設計する。
  2. 物理的に遮断・捕殺する手段を組み込む (防虫ネット、粘着トラップ、マルチ、太陽熱消毒など)。発生源を断てる手段ほど優先度を上げる。
  3. 生物的防除を補助として位置づける (天敵温存、拮抗微生物資材、対抗植物・緑肥)。即効性を期待せず、生態系の安定とセットで考える。
  4. 資材 (有機JAS別表に適合する防除資材) は最後の手段とする。使用可否は資材ラベルと認証機関への確認を必須とし、耐性菌・抵抗性害虫の発生を避けるため同一系統の連用を避ける。
  5. 発生予察の情報と照らし合わせ、防除の実施時期と範囲を決める。予防的措置と緊急的措置を区別し、記録を残す。
  6. 体系は固定せず、年ごとの発生実績で見直す。土づくり・輪作計画と連動させ、単発の対症療法にしない。

原理: なぜ耕種的・物理的防除を優先するのか

病害虫の発生サイクルと介入点

病害虫の発生は、病原体・害虫 (発生源)、感受性のある作物 (宿主)、発生に適した環境条件がそろったときに成立します。この三つの要素のどれかを断てば発生は抑えられます。化学合成農薬は主に発生後の病原体・害虫そのものを減らす手段ですが、耕種的防除は宿主の感受性や発生源そのものを減らし、物理的防除は環境条件や接触経路を断ちます。有機栽培では化学合成農薬に依存できないため、発生源・宿主・環境の三要素に多面的に働きかける体系が必要になります。

耕種的防除が効く理由

輪作は同じ科の作物に偏って寄生する病原体・害虫の密度を、非寄主作物を挟むことで低下させます。緑肥 (イネ科・マメ科) を輪作に組み込むと、有機物供給や土壌物理性の改善に加え、連作に伴う特定病害 (土壌伝染性病害など) の密度低下にも寄与します。すき込みから定植までは3〜4週間を標準の目安とし、未分解の有機物が新たな病原体の培地にならないようにします (農研機構の緑肥利用マニュアルに基づく)。抵抗性品種の選定や、株間・畝幅による通風確保 (多湿を好む糸状菌病害の抑制) も同じ原理に基づきます。

物理的防除が効く理由

防虫ネットやマルチは、害虫の飛来・産卵行動や、病原体の雨滴・土はね伝播の経路を物理的に遮断します。太陽熱消毒は、透明フィルム被覆下で地温を一定期間高く保つことで、土壌中の病原体や雑草種子、一部害虫の密度を下げます。地温の上がり方は土壌群 (黒ボク土・低地土・砂質土) や気候帯で異なるため、処理期間や効果の見込みは地域の普及指導機関の情報で確認します。

生物的防除が補助にとどまる理由

天敵温存や拮抗微生物資材は、発生を即座にゼロにする手段ではなく、生態系のバランスを通じて発生を緩やかに抑える手段です。天敵が定着するには、餌となる害虫がある程度存在し続ける必要があり、効果の発現に時間がかかります。そのため、急激な多発生に対する緊急対応としてではなく、平時の発生抑制の土台として位置づけます。

判断の実例

実例1: アブラナ科野菜でのコナガ多発生の予察情報

状況: 前章のモニタリングで、周辺地域の予察情報にコナガの多発生注意報が出ており、自圃場のトラップでも成虫数の増加を確認した。

判断: 定植時に防虫ネット (目合い1mm程度) を展張し、圃場周辺の除草を徹底する。発生状況がなお悪化する場合に限り、有機JAS適合の生物農薬 (微生物由来製剤) の使用を認証機関・ラベルで確認した上で検討する。

理由: ネット展張は成虫の飛来・産卵を物理的に防ぐため発生前の予防効果が高く、資材の連用による抵抗性発達のリスクもない。生物農薬は多発生時の補助として温存し、常用しない。

実例2: 連作圃場でのネコブセンチュウ被害

状況: 同一圃場でナス科を3年連続作付けし、前作で根こぶ症状が確認された。

判断: 翌作にイネ科緑肥 (対抗植物性のある品種) を導入し、すき込みから定植まで3〜4週間空ける。輪作計画を見直し、ナス科の作付け間隔を広げる。

理由: 連作による特定病害虫の密度上昇は輪作によって断ち切るのが基本であり、対抗植物の導入は発生源そのものを減らす耕種的防除にあたる。緑肥のすき込み後の期間を確保することで、未分解有機物による生育障害も避けられる。

実例3: 施設栽培でのうどんこ病発生初期

状況: 多湿・過繁茂の条件下で、下位葉にうどんこ病の初期病斑を数枚確認した。

判断: ただちに罹病葉を除去して圃場外で処分し、換気と株間の通風を改善する。拡大が続く場合は有機JAS別表に適合する硫黄・重曹系など資材の使用を認証機関に確認の上で検討する。

理由: 初期段階での除去は発生源を直接減らす物理的防除であり、通風改善は多湿という発生条件を断つ耕種的対応にあたる。資材投入は発生源・環境条件への対応で抑えきれない場合の追加手段とする。

手順と判断基準

  • [ ] 前作・輪作履歴を確認し、同一科の連作が2〜3年以上続いていないか確認する
  • [ ] 作付け前に、その作物・地域で発生しやすい病害虫を予察情報と過去記録から洗い出す
  • [ ] 耕種的防除 (輪作・抵抗性品種・作付け時期・株間) を作付け計画に組み込む
  • [ ] 物理的防除 (ネット・マルチ・トラップ・太陽熱消毒) の導入要否を、発生しやすい時期に合わせて判断する
  • [ ] 生物的防除 (天敵温存環境・拮抗微生物・対抗植物) を土づくり・緑肥計画と連動させて位置づける
  • [ ] モニタリングで発生の兆候を確認したら、発生源・宿主・環境条件のどれに介入するのが最も早いか判断する
  • [ ] 資材投入が必要と判断した場合、有機JAS別表への適合をラベルと認証機関で確認してから使用する
  • [ ] 同一系統の資材を連用しないよう、使用履歴を記録する
  • [ ] 作後に発生実績を記録し、翌年の輪作・防除計画に反映する

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

発生を確認してから防除手段を検討し始める

耕種的防除は作付け前の設計が前提で、発生後では間に合わない

作付け計画の段階で輪作・品種・時期を発生予察に基づいて決めておく

生物的防除資材に即効性を期待して多発生時に頼る

天敵・拮抗微生物は定着に時間がかかり、急激な被害には対応しきれない

生物的防除は平時の土台とし、緊急時は物理的除去や資材の緊急対応と組み合わせる

有機JAS適合資材を確認せずに使用する

由来や製造工程によっては規格に適合しない場合があり、認証に影響する

使用前に資材ラベルと認証機関への確認を必ず行い、記録を残す

緑肥すき込み直後に定植する

未分解の有機物がガス障害や病原体の培地になりやすい

すき込みから定植まで3〜4週間の間隔を標準として確保する

一度決めた防除体系を毎年同じように繰り返す

病害虫の発生傾向は年や輪作状況で変わり、固定した体系では対応できない

作後に発生実績を記録し、翌年の体系を輪作計画とあわせて見直す

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 発生源・宿主・環境条件のどれに介入できるかを考え、発生させない耕種的防除を最優先する
  2. 物理的に遮断・捕殺できる手段を組み込み、発生源を断つ
  3. 生物的防除は平時の土台とし、即効性を求めない
  4. 資材は最後の手段とし、有機JAS別表・ラベル・認証機関での確認を徹底する
  5. 発生予察と早期発見の情報をもとに実施時期を決める
  6. 体系は固定せず、年ごとの発生実績と輪作計画に基づいて見直す

現場実践課題

自分の担当圃場で、次期作付けに向けた防除体系を設計し、記録表にまとめてください。前章のモニタリング記録と合わせて、発生しやすい病害虫を2〜3種類挙げ、耕種的・物理的・生物的防除のそれぞれについて具体的な手段を記入します。

想定病害虫

耕種的防除

物理的防除

生物的防除

資材使用の要否 (認証機関確認済みか)

例: コナガ

作付け時期をずらす

防虫ネット展張

周辺に天敵温存植物を配置

未定 (多発生時に検討)

現場で使える!専門用語ミニ辞書

耕種的防除(こうしゅてきぼうじょ)
輪作・品種選定・作付け時期の調整など、栽培管理そのものによって病害虫の発生を抑える方法
物理的防除(ぶつりてきぼうじょ)
ネット・マルチ・トラップ・熱処理など、物理的な遮断や捕殺によって病害虫を抑える方法
生物的防除(せいぶつてきぼうじょ)
天敵や拮抗微生物など、生物の働きを利用して病害虫を抑える方法
対抗植物(たいこうしょくぶつ)
特定の病害虫 (センチュウなど) の密度を下げる働きを持つ植物。緑肥として利用されることが多い
太陽熱消毒(たいようねつしょうどく)
透明フィルムで被覆し地温を高めることで、土壌中の病原体・雑草種子・一部害虫を減らす処理
耐性菌・抵抗性害虫(たいせいきん・ていこうせいがいちゅう)
同じ防除手段の連用により、その手段が効きにくくなった病原体・害虫の系統

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農産物の日本農林規格」
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 農研機構「緑肥利用マニュアル」
  • 都道府県病害虫防除所 発生予察情報
  • 都道府県 病害虫防除基準

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    露地のアブラナ科野菜圃場で、定植を2週間後に控えている。周辺地域の発生予察情報でコナガの多発生注意報が出ており、自圃場に設置したトラップでも成虫数が増加傾向にある。まだ食害は確認されていない。

    この段階で優先して行うべき判断として最も適切なものはどれか。

  2. Q2/2

    施設栽培のキュウリで、多湿・過繁茂の条件が続いた後、下位葉にうどんこ病の初期病斑を数枚確認した。被害はまだ圃場全体には広がっていない。

    この段階でまず行うべき対応として最も適切なものはどれか。

学習状況を確認しています…

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