TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説
さつまいもの育苗と定植の衛生管理
本サイトはアフィリエイトプログラムに参加しており、記事内のリンク経由で商品やサービスが購入された場合、運営者が報酬を受け取ることがあります。掲載内容は公開情報をもとに独自に構成しています。
PRE-CHECK
事前チェック
読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。
Q1/2
前提ユニット「育苗の管理基準」で学んだ内容として、育苗箱の苗の良否を判定する際に確認すべき基準の組み合わせとして適切なものはどれか。
Q2/2
家畜ふん堆肥を有機JASの基準に沿って使用する際、堆肥化の過程で確認すべき点として適切なものはどれか。
この章で学ぶこと(学習目標)
この章を終えると、次のことができるようになります。
- さつまいもの種いも・育苗・採穂・定植の各段階で、病害を持ち込むリスクがどこにあるかを説明できる
- 種いもの健全性を判定し、使用可否・消毒の要否を自分で判断できる
- 基腐病・黒斑病・つる割病などの主要病害を念頭に、採穂位置や育苗資材の衛生管理手順を実行できる
所要時間の目安: 90分(圃場での実地確認を含めると半日程度)
結論
衛生管理の判断は、次の順番で行います。
- 種いもの来歴・健全性を確認する(生産履歴、病斑・軟化・異臭の有無)
- 種いも消毒(温湯消毒等)の要否を判断する
- 育苗床・育苗箱など資材の衛生状態を確認する(前作残渣の有無、消毒歴)
- 採穂時に、採穂位置と優先順位を判断する(健全株を優先し、地際付近は避ける)
- 挿し穂を選別する(切り口の変色・軟化・萎凋の有無)
- 定植予定圃場の輪作履歴・排水条件を確認する
- 定植後、初期巡回で発病株を早期発見し、適切に処分する
この順序は、病原体の侵入点(種いも→育苗床→採穂→圃場)を上流から順に断っていく考え方に基づきます。
原理: さつまいもの主要病害と感染経路
基腐病の感染経路
基腐病は土壌伝染性の病害で、種いも・苗・土壌・かん水を介して伝搬します。病原菌は茎の基部(地際付近)から侵入し、道管を閉塞させることで地上部の萎凋を引き起こし、貯蔵中にも腐敗が進行します。多湿条件で発病が助長されるため、育苗床やかん水管理の湿度条件も発生に関わります。
黒斑病とつる割病
黒斑病は種いもを介して伝染しやすく、塊根表面に黒色のくぼんだ病斑を生じます。種いもの温湯消毒が対策として知られています。つる割病は維管束系に生じる病害で、連作により土壌中の病原菌密度が高まりやすい点が特徴です。
器官と病徴の出方
根(塊根)は養水分の貯蔵・吸収、茎(つる)は輸送(道管・師管)、葉は同化という役割分担を担っています。茎基部は病原菌の侵入点になりやすく、そこで道管が閉塞すると、輸送機能の低下として地上部全体(葉の黄化・萎凋)に症状が現れます。採穂時に地際付近を避ける理由は、この侵入点を回避するためです。
土壌中の分解者との関係
健全な土壌では、拮抗作用を持つ細菌・糸状菌が病原菌の増殖をある程度抑制します。しかし未熟な堆肥の投入や過湿な管理は、病原菌にとって有利な環境をつくる可能性があるため、堆肥化が十分に進んでいることの確認(発酵の完了、未発酵物を使わないこと)が土づくりの基本と同様に重要です。
判断の実例
実例1: 種いもの一部に黒斑病様の病斑が見つかった
状況: 入荷した種いものロットのうち数個に、黒っぽいくぼんだ病斑が確認された。 判断: そのロット全体を育苗に使用せず除去する。 理由: 黒斑病は種いも伝染性が高く、一部だけを取り除いても苗床全体が汚染されるリスクが残るため。
実例2: 採穂時に地際付近のつるを使うかどうか
状況: 苗床のつるが十分に伸び、採穂作業を行う段階になった。 判断: 地際から離れた先端部のみを採穂し、地際付近の部分は使用しない。 理由: 基腐病菌は土壌中に生存し、地際部に感染している可能性が高いため。
実例3: 定植予定圃場が前作でさつまいも(または近縁作物)を連作していた
状況: 候補圃場の作付け記録を確認したところ、同科作物の連作年数が基準に満たないことが分かった。 判断: 輪作年数を確認し、基準に満たない場合は作付けを見送るか、緑肥導入などの対策を検討する。 理由: つる割病菌やセンチュウ類は土壌中に残存し、連作により密度が高まるため。
手順と判断基準
- ステップ1(種いも入手時): 生産履歴・検査証明の有無を確認する。病斑・軟化・異臭がないか目視検査する。1つでも疑わしい個体があれば、同一ロットは使用を保留する。
- ステップ2(消毒の要否判断): 必要に応じて温湯消毒を行う。温度・時間は都道府県の防除基準・指導資料で確認する(目安として47℃前後・30〜40分程度という指導例があるが、品種やいもの大きさで最適値が変わるため、地域の基準を優先する)。
- ステップ3(育苗床の準備): 前作の残渣を完全に除去し、育苗箱・トレイを洗浄・消毒する。使用する資材は有機JAS別表で使用可否を確認し、認証機関・ラベルで実際の使用方法を確認する。
- ステップ4(採穂): 健全株から、地際付近を避けて先端部を優先的に採る。萎凋・黄化が見られる株は採穂対象から除外する。
- ステップ5(挿し穂の選別と保管): 切り口の変色・軟化を点検する。採穂後は直射日光・高温多湿を避けて保管し、長時間の放置をしない。
- ステップ6(定植圃場の確認): 輪作履歴(同科作物の作付け年数)、排水性、前作の発病歴を確認する。基準を満たさない場合は作付けを延期する。
- ステップ7(定植後の巡回): 定植後1〜2週間は重点的に巡回し、萎凋株を見つけたら周辺土ごと抜き取り、圃場外で適切に処分する(すき込まない)。
よくある失敗と対策
失敗 | なぜまずいか | 対策 |
|---|---|---|
種いもを見た目だけで判断し消毒を省略する | 潜伏感染は外観だけでは分からないことがある | 来歴確認に加え、必要に応じて温湯消毒を実施する |
地際に近いつるを採穂に使う | 基腐病菌の感染リスクが高い部位である | 先端部を優先して採穂し、地際付近は避ける |
罹病残渣を圃場にすき込む | 土壌中に病原菌を温存させることになる | 圃場外で処分し、土壌に残さない |
育苗箱を前作のまま使い回す | 器具を介した二次感染の温床になる | 洗浄・消毒してから再使用する |
連作歴を確認せず定植する | つる割病やセンチュウの密度が高まっている可能性がある | 輪作履歴を確認し、基準に満たない場合は作付けを見直す |
まとめ(判断基準の再掲)
- 種いもの来歴・健全性を確認する
- 消毒の要否を判断する
- 育苗床・資材の衛生状態を確認する
- 採穂位置(地際を避ける)を判断する
- 挿し穂を選別する
- 定植圃場の輪作履歴を確認する
- 定植後の初期巡回で早期発見・早期除去を行う
現場実践課題
自分の圃場で、種いもの入荷から定植後の初期巡回までの各段階についてチェックリストを作成し、実際に記録してみる。記録は次のような形式でつけるとよい。
日付 | 段階 | 確認項目 | 判定(良好・要注意・不可) | 対応内容 |
|---|---|---|---|---|
例: 4/10 | 種いも入荷 | 病斑・軟化の有無 | 要注意 | 疑わしい個体を分別し使用保留 |
例: 5/5 | 採穂 | 地際からの採穂距離 | 良好 | 先端部のみ使用 |
例: 6/1 | 定植後巡回 | 萎凋株の有無 | 要注意 | 発見株を周辺土ごと抜き取り圃場外処分 |
現場で使える!専門用語ミニ辞書
- 基腐病(もとぐされびょう)
- さつまいもの土壌伝染性病害。茎基部から侵入し、地上部の萎凋や貯蔵中の腐敗を引き起こす。
- 黒斑病(こくはんびょう)
- 種いもを介して伝染しやすい病害。塊根表面にくぼんだ黒色の病斑を生じる。
- つる割病(つるわれびょう)
- 維管束系に生じる病害。連作により土壌中の病原菌密度が高まりやすい。
- 温湯消毒(おんとうしょうどく)
- 種いもを一定の温度の湯に一定時間浸して病原菌を減らす処理。温度・時間は地域の指導資料で確認する。
- 輪作(りんさく)
- 同じ科の作物を連続して作付けせず、異なる作物を順に栽培すること。土壌病害虫の密度上昇を抑える目的がある。
参考(一次情報)
- 農研機構 さつまいも基腐病に関する防除マニュアル
- 都道府県病害虫防除所 発行の防除基準・指導資料
- 有機の規格に関する農林規格(有機JAS)別表
- 気象庁 大気中二酸化炭素濃度の観測資料(関連する環境条件の確認に用いる場合)
EXERCISE
判断演習
本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。
Q1/2
入荷したさつまいも種いものロット(200kg)を目視検査したところ、そのうち3個に黒っぽいくぼんだ病斑が見つかった。残りの個体には病斑や軟化、異臭は見られなかった。
このロットの取り扱いとして最も適切な判断はどれか。
Q2/2
候補圃場Aでは過去2年間連続してさつまいもを栽培しており、都道府県の防除基準ではこれより長い休栽期間が推奨されている。一方、候補圃場Bでは過去3年間さつまいも以外の作物を栽培している記録がある。
次期の定植圃場を選定する際の判断として最も適切なものはどれか。
学習状況を確認しています…
共感・コメントは無料会員限定です
NOUKARA TOOLS
経営の次の一手を、数字で確かめる。
作付け収益シミュレーター16品目の収益性を比べて、来期の作付け計画の材料にできます使ってみる →- 補助金マッチング診断国の支援制度30件から、経営規模・分野・目的に合う制度を絞り込めます
- 製品ファインダーアグリテック製品32件を、カテゴリ・規模・価格帯から比較できます
- 回収シミュレーター設備やシステムへの投資が、何年で回収できるかを試算できます
アグリコメ 0
現場のプロの視点で、この記事への意見や経験を共有しましょう。
この記事、あなたの現場ではどう受け止めましたか? その一言が、ほかの農家の判断材料になります。
まだコメントはありません。最初の見解を書いてみませんか?