TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

植物栄養学

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    章を読む前の確認です。窒素は、植物の中で古い葉から新しい葉へ送り直すことができます(体内移行性が高い)。

    窒素が不足したとき、黄化などの症状はどの葉から現れやすいですか。

  2. Q2/2

    章を読む前の確認です。肥料の成分は、土の中で同じように動くわけではありません。

    リン酸の土の中での動きについて、正しいものはどれですか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 葉の症状が出た部位(古い葉か新しい葉か)と形から、体内移行性を手がかりに、不足・過剰が疑われる元素の候補を絞れる
  • 「土の中に無い」欠乏と「土の中にあっても吸えない」状態を、pH・元素どうしの拮抗・根の状態で切り分けられる
  • 窒素・リン酸・カリウムなどの成分が土の中でどう動くかを説明し、施肥の判断に結びつけられる

所要時間の目安: 本文 10 分、現場実践課題 30 分(観察の初回。記録は生育期間を通じて続ける)。

結論

養分の異常を見たときの判断は、次の順で行います。

  1. 症状が出た部位を見る。古い葉(下位葉)に出たか、新しい葉や生長点に出たかで、元素の体内移行性から候補が絞れる
  2. 症状の形を見る。全体の黄化か、葉脈の間か、葉の縁か、生長点の枯れかで、候補をさらに絞る
  3. 土壌診断値と施肥履歴で裏を取る。そのうえで「土の中に無い」のか「あっても吸えない」のかを分ける。吸えない理由は、pH の偏り、ほかの元素の多すぎ(拮抗)、根の傷みや乾燥であることが多い
  4. 対処は原因側から。pH を範囲に戻す、偏った資材を止める、根の環境を整える。不足している元素そのものを追加するのは最後にする
  5. 資材を入れるときは、有機JAS で使える資材かを認証機関の判断と資材証明書で確かめ、量は都道府県の施肥基準と照らして決める

植物生理学の基礎で学んだ仕組みのとおり、植物は根から水と一緒に養分を吸い、葉で光合成をして育ちます。養分の異常は、その流れのどこかが滞った結果として葉に現れます。葉は「結果」であって、直す場所はたいてい土と根の側にあります。

原理: 必須元素の働きと、土の中での動き

必須元素 — 植物が欠かせない元素

植物の生育に欠かせない元素は 17 です。炭素・水素・酸素は空気と水から取り入れます。残りは根から吸う元素で、必要量の多い 多量要素(窒素・リン酸・カリウム・カルシウム・マグネシウム・硫黄)と、少量で足りる 微量要素(鉄・マンガン・ホウ素・亜鉛・銅・モリブデン・塩素・ニッケル)に分かれます。

主な働きは次のとおりです。

  • 窒素(N): タンパク質と葉緑素の材料。葉や茎の生育を左右する。不足すると全体が黄化し、過剰では濃い緑・徒長・軟弱な生育になる
  • リン酸(P): エネルギー代謝と遺伝情報の材料。根の伸びと実りにかかわる。不足すると生育が遅れ、葉が暗い緑から紫色を帯びることがある
  • カリウム(K): 体内の水の調整や酵素の働きを助ける。具体的な「材料」になるのではなく、生理の調整役。不足すると古い葉の縁が黄化し、枯れ上がる
  • カルシウム(Ca): 細胞壁と膜を支える。不足は生長点や果実に出る
  • マグネシウム(Mg): 葉緑素の中心にある元素。不足すると古い葉の葉脈の間が黄化する
  • 硫黄(S): タンパク質の材料。不足すると新しい葉から黄化する
  • 鉄(Fe)・マンガン(Mn): 光合成の働きにかかわる。不足すると新しい葉の葉脈の間が黄化する
  • ホウ素(B): 細胞壁と花粉の働きにかかわる。不足すると生長点が枯れ、根の伸びが止まる。不足と過剰の間の幅が狭い

量が足りないと育たないが、多すぎても害になるのが養分の特徴です。とくに、ある元素が多すぎると別の元素の吸収が妨げられる 拮抗 が起きるため、「足りないものを足す」だけでは判断できません。

症状はどこに出るか — 体内移行性

植物は、不足した元素を古い葉から新しい葉へ送り直すことができます。この性質が強い元素は 体内移行性が高い と言い、不足すると 古い葉から 症状が出ます。逆に移行性が低い元素は送り直しができないため、新しい葉や生長点から 症状が出ます。

症状の出方は、養分が植物の中を運ばれる流れと、この移行性の組み合わせで決まります。根で吸収された養分は、水と一緒に茎を通って葉と収穫物へ運ばれます(植物生理学の基礎で学んだ、根が吸い、茎が運び、葉が作るという器官の分担です)。運ばれる流れの先にある生長点や果実ほど、移行性の低い元素の不足が早く現れます。

体内移行性

元素

欠乏症状が出やすい部位

高い

窒素・リン酸・カリウム・マグネシウム

古い葉(下位葉)から

中程度

モリブデン

古い葉から中位の葉に出やすい

低い

カルシウム・ホウ素・鉄・マンガン・亜鉛・銅・硫黄

新しい葉・生長点から

この表は、症状を見たときに最初に使う物差しです。たとえば窒素と硫黄はどちらも「葉が黄くなる」不足ですが、古い葉から黄くなれば窒素、新しい葉から黄くなれば硫黄が候補になります。マグネシウム(古い葉の葉脈間)と鉄(新しい葉の葉脈間)も、葉脈の間の黄化という形は同じで、部位が逆です。

過剰の症状も部位の手がかりになります。カリウムが多すぎると、拮抗でマグネシウムやカルシウムが吸えなくなり、それらの不足症状として古い葉や果実に現れます。ホウ素の過剰は葉の縁の枯れとして出やすく、マンガンの過剰は酸性の土で溶けすぎて起きます。

土の中での動き — 窒素は姿を変えて流れる

有機質資材の窒素は、はじめはタンパク質などの有機の姿をしています。土の微生物がこれを分解するとアンモニウム態窒素になり、さらに硝化菌の働きで硝酸態窒素へ変わります(硝化)。

  • アンモニウム態はプラスの電気を持ち、CEC に吸着されて土に留まる(土壌学の基礎で学んだ「器」に保持される)
  • 硝酸態はマイナスの電気を持ち、土に吸着されず、水と一緒に動く。雨や灌水で下へ流れる(溶脱)

つまり窒素は、姿によって土の中で正反対の動きをします。有機質資材の窒素は、微生物の分解を経てから効くため、効き始めが遅く、地温と水分に左右されます。地温の低い春先は分解と硝化が遅れ、資材を入れていても作物が窒素不足の顔をすることがあります。逆に、地温が上がる時期にまとめて無機化すると、後半に効きすぎる形になります。施肥の設計では「いつ効くか」まで含めて考える必要があります。

土の中での動き — リン酸は固定され、塩基は保持される

リン酸 は窒素の逆で、土の中でほとんど動きません。酸性の土では鉄やアルミニウムと、アルカリ性の土ではカルシウムと結びついて、植物が吸いにくい形になります(固定)。このためリン酸は、入れた場所の近くに留まります。根が届く位置に施すことが大切で、表面にまいただけでは下の根に届きません。蓄積しやすい元素でもあり、家畜ふん堆肥を続けた畑では過剰にたまっていることがあります。

カリウム・カルシウム・マグネシウム は、いずれもプラスの電気を持つイオンとして CEC に保持されます。土の中での奪い合いがそのまま拮抗につながります。カリウムが多すぎるとマグネシウムとカルシウムの吸収が妨げられ、石灰(カルシウム)を入れすぎるとカリウムやマグネシウムが相対的に不足します。土壌診断書では、この3つの量と釣り合いを一緒に見ます。具体の適正な釣り合いは作物と地域で異なるため、都道府県の施肥基準で確認します。

pH と微量要素、拮抗 — 「あっても吸えない」状態

土壌学の基礎で学んだとおり、pH は養分の効き方をまとめて決めます。微量要素はその影響を強く受けます。

  • pH が高い(アルカリ側): 鉄・マンガン・亜鉛・銅・ホウ素が溶けにくくなり、不足しやすい
  • pH が低い(酸性側): 鉄やマンガンは溶けすぎて過剰害の側に回り、モリブデンは逆に溶けにくくなって不足しやすい。リン酸も固定されやすい

石灰を入れすぎた畑で新しい葉が黄化するのは、土に鉄が無いからではなく、高すぎる pH のせいで鉄が吸えない状態です。この場合、鉄の資材を土に入れても同じ理由で吸えません。直すのは pH の側です。

拮抗も同じ構造です。カリウムの多い畑でマグネシウム不足が出るのは、土のマグネシウムが減ったのではなく、吸収の入口で負けているためです。症状の元素を足す前に、「何が多すぎるのか」を先に確かめます。

過剰の現れ方

  • 窒素の過剰: 葉の色が濃い緑になり、茎葉が徒長して軟弱になる。病害虫の被害を受けやすく、果菜類では着果が悪くなる。葉菜類では内部に硝酸がたまる
  • カリウムの過剰: 症状は拮抗によるマグネシウム・カルシウム不足として現れる
  • リン酸の過剰: 土に蓄積する。亜鉛や鉄の吸収を妨げ、それらの不足を招くことがある
  • ホウ素の過剰: 葉の縁が枯れる。不足と過剰の幅が狭いため、ホウ素を含む資材の量は慎重に決める

収穫物に現れる障害と、食味への影響

養分の異常は、葉だけでなく、果実・塊根・球などの収穫物そのものにも現れます。病原によるものでない収穫物の異常は 生理障害 と呼ばれ、その多くは養分の過不足か、養分がその器官に届くかどうかで説明できます。

仕組みは、体内移行性と蒸散の流れで説明できます。カルシウムは移行性が低く、主に蒸散に乗って運ばれるため、蒸散の少ない器官(果実、結球の内部、貯蔵器官の先端や内部)には届きにくい元素です。土の中にカルシウムがあっても、その部分だけが不足し、先端や内部の組織が枯れたり褐変したりして現れることがあります。生育が速い時期ほど必要量が増えるため、障害は急に大きくなる部分に出やすいのが特徴です。ホウ素も移行性が低く、不足すると生長点に近い部分の変形や、茎・根の内部に空洞やコルク状の部分ができることがあります。逆に窒素が多すぎると、茎葉の生育に養分が偏って着果や肥大の進み方が乱れ、形のそろわない収穫物が増えることがあります。なお、収穫物の裂け(裂果・裂球)は、おもに水分の急な変動によって起こるもので、窒素過剰が直接の原因ではありません。ただし、窒素過剰で軟弱に育った組織は、水分変動の影響を受けやすくなります。

ここで大切なのは、「葉は青いのに収穫物だけがおかしい」ことがありうる点です。葉の症状だけを見ていては、収穫物の生理障害を見落とします。

食味や品質にも、養分の釣り合いが関わります。窒素が多すぎると、葉菜類では硝酸が内部にたまりやすく、果実や果菜類では茎葉の生育が優先されて成熟が遅れ、糖の蓄積が進みにくくなります。カリウムは糖の移行や体内の水の調整に関わるため、不足すると実の充実が悪くなり、食味が落ちる一因になります。ただし、食味の良し悪しだけから不足している元素を決めることはできません。食味は品種・天候・収穫の時期でも大きく変わります。養分の判断はあくまで部位と形、診断値から行い、食味は結果の確認として扱います。

判断の実例

実例1: カリウムの多い畑で、古い葉の葉脈の間が黄化した

家畜ふん堆肥を毎作入れてきた露地畑。トマトの中位から下位の古い葉で、葉脈の間が黄化し始めました。土壌診断では、交換性カリウムが多く、マグネシウムはカリウムに比べて少ない状態でした。pH は作物の範囲内でした。

判断: 窒素や鉄の追加はせず、カリウムの多い家畜ふん堆肥を今作は止めて、植物質の堆肥に切り替えました。そのうえで、診断値と県の施肥基準を照らし、苦土(マグネシウム)を含む土壌改良資材の施用を検討する計画にしました。使う資材は、有機JAS で使えるものを認証機関に確かめてから選びます。

理由: 症状が出たのは古い葉で、形は葉脈の間の黄化です。移行性の高い元素の不足が候補で、葉脈間黄化という形からはマグネシウムが第一候補になります。鉄の不足なら新しい葉に出ます。さらに、この畑はカリウムが過剰で、拮抗によってマグネシウムが吸えていない可能性が高い。見えている症状の元素(マグネシウム)をいきなり足すのではなく、先に過剰側(カリウムの入力)を止めるのが順序です。

実例2: 石灰を続けた畑で、新しい葉が黄化した

ホウレンソウを作る畑で、毎年決まった量の石灰を入れてきました。今作、新しい葉の葉脈の間が黄化し、葉脈だけが緑に残る症状が出ました。土壌診断の pH(H2O) は 7.2 で、作物の適正範囲を上回っていました。

判断: 鉄の資材を土に施すことはせず、次作以降の石灰の施用を止め、pH が範囲に戻るまで石灰質・アルカリ分の資材を入れない運用に変えました。今作については、生育への影響の程度を見ながら、葉から直接吸わせる方法が使えるか(資材が有機JAS で使えるかを含め)認証機関に確認することにしました。

理由: 新しい葉の葉脈間黄化は移行性の低い元素の不足で、葉脈が緑に残る形は鉄不足の典型です。ただし原因は鉄の絶対量ではなく、上がりすぎた pH で鉄が溶けなくなったことです。土に鉄を足しても、同じ pH では再び溶けません。直す順序は pH が先で、元素の追加は補助に回します。

実例3: 春先に有機質肥料が効かず、生育が止まった

3月に定植した葉菜類の畑。基肥として油かすと堆肥を計画どおりに入れましたが、定植後3週間たっても生育が進まず、全体が淡い緑で古い葉から黄化してきました。土壌診断の値に大きな異常はなく、その時期は地温の低い日が続いていました。

判断: 同じ資材の追肥は見送りました。追加で入れるなら、分解を待たずに効く性質の有機質資材(有機JAS で使えるものに限る)を少量に限って使い、残りは地温の上昇とともに効いてくる前提で生育を見守る判断にしました。あわせて次作では、定植の時期に対して基肥を早めに入れ、無機化の進んだ状態で定植できるよう作業の順序を組み直しました。

理由: 全体の黄化が古い葉から出ている点は窒素不足と合いますが、資材は入れてあります。有機質資材の窒素は微生物の分解(無機化)を経てから効くため、地温の低い時期は効き始めが遅れます。同じ資材を重ねて入れると、地温が上がった時期にまとめて効いて、今度は窒素過剰に振れます。「入れた量」ではなく「効いている量」で判断することが、有機の施肥では特に大切です。

手順と判断基準

葉に異常を見つけたら、次の順で確かめます。

ステップ0: 観察をそろえる

  • 異常が出たのはどの部位か(古い葉か、新しい葉か、生長点か、果実か)
  • 収穫物が付いている作物では、葉だけでなく収穫物の形状・外観も見る。変形・裂け・先端や内部の変色がないか。葉に症状が出なくても、収穫物だけに生理障害が出ることがある
  • 茎の状態も見る。伸びのよさと太さ、縦に割ったときに内部の変色や空洞がないか。茎は養分を運ぶ通り道で、茎そのものの異常は運搬側の問題を示すことがある
  • 養分の症状だけでは説明しにくいときは、根も見る。試し掘りで根の張り・色・傷みの有無を確かめる。根は吸収の場そのものであり、根が傷んでいれば、土に養分があっても吸えない
  • 畦全体か、一部か。畑の低い場所や端だけなら、養分より先に水はけや土の違いを疑う
  • いつから出たか。施肥・定植・天候の記録と並べる

ステップ1: 部位と形で候補を絞る

  • 古い葉から全体が黄化 → 窒素を疑う
  • 古い葉の葉脈の間が黄化 → マグネシウムを疑う
  • 古い葉の縁が黄化・枯れる → カリウムを疑う
  • 新しい葉の葉脈の間が黄化(葉脈は緑) → 鉄・マンガンを疑う
  • 新しい葉全体が黄化 → 硫黄を疑う
  • 生長点が枯れる・根の伸びが止まる → カルシウム・ホウ素を疑う
  • 収穫物の先端や内部が変形・褐変する(葉は正常なことがある) → カルシウムの届き方を疑う。移行性が低く、蒸散の少ない部分に不足しやすい
  • 葉が濃い緑で徒長・軟弱 → 窒素の過剰を疑う

ステップ2: 診断値と履歴で裏を取る

  • 直近の土壌診断の pH・EC・交換性塩基(カリウム・カルシウム・マグネシウム)・リン酸の値と比べる
  • 過去数作の施肥履歴(とくに家畜ふん堆肥と石灰の量)を並べる
  • 症状の候補と診断値が合わないときは、ステップ3へ進む

ステップ3: 「吸えない理由」を確かめる

  • pH が範囲から外れていないか(高い → 微量要素、低い → リン酸とモリブデンが吸いにくい)
  • どれか1つの元素が突出して多くないか(カリウム過剰による拮抗など)
  • 根の状態はどうか(ステップ0で見た根に傷みがあれば、養分以前の問題として扱う)
  • 土が乾きすぎ・湿りすぎていないか(吸収は水の流れと一緒に行われる)

ステップ4: 対処の順序を決める

  • 原因が pH なら、資材の追加より pH の是正を先にする。石灰の量と可否は診断と基準で決める
  • 原因が拮抗なら、多すぎる側の入力(資材)を止めることが先。不足側の追加は診断値で裏が取れた場合に限る
  • 原因が無機化の遅れなら、同じ資材の重ね入れはしない。効く時期のずれとして記録し、次作の施用時期を組み直す
  • 元素そのものを追加するときは、有機JAS で使える資材かを認証機関と資材証明書で確かめ、量は都道府県の施肥基準に従う

ステップ5: 記録して見直す

  • 症状の出方・診断値・下した判断・入れた資材を記録する
  • 対処の後、症状が新しい葉で止まったか(古い葉の黄化は戻らない。効果は新しい生育で判断する)

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

黄化を見て、すぐに窒素を足す

黄化の原因は硫黄・マグネシウム・鉄など多岐にわたり、部位を見ないと外れる。窒素の過剰に振れることもある

出た部位と形で候補を絞り、診断値で裏を取ってから動く

窒素不足と硫黄不足を取り違える

どちらも葉が黄くなるが、窒素は古い葉から、硫黄は新しい葉から出る

移行性の表に当てはめてから判断する

石灰を毎年決まった量入れる

pH が上がりすぎ、鉄・マンガンなどの微量要素が吸えなくなる

pH の診断値と作物の範囲から、その都度量を決める

カリウムの多い家畜ふん堆肥を続ける

拮抗でマグネシウム・カルシウムが吸えなくなり、不足症状が出る

堆肥の種類を組み合わせ、塩基の釣り合いを診断で確かめる

有機質肥料を定植の直前・直後に大量に入れる

無機化が間に合わず初期は不足し、地温が上がると一度に効いて過剰に振れる。未熟な資材ではガスで根を傷めることもある

施用の時期を定植から逆算し、完熟した資材を使う

葉脈の間の黄化を、すべて鉄不足と決めつける

古い葉ならマグネシウム、新しい葉なら鉄・マンガンと、部位で候補が正反対になる

部位を確認するまでは資材を決めない

リン酸を毎作、目安量どおり入れる

リン酸は固定されて土にたまるため、過剰になると亜鉛や鉄の吸収を妨げる

診断のリン酸値を見て、たまっている畑では入れる量を減らす

養分に関わる資材を有機JAS の圃場で使うときは、その資材が有機JAS で使えるものかを、資材の内容と認証機関の判断で事前に確かめます。

まとめ(判断基準の再掲)

  • 症状の判断は 部位 → 形 → 診断値と履歴で裏取り の順。移行性が高い元素(窒素・リン酸・カリウム・マグネシウム)は古い葉から、低い元素(カルシウム・ホウ素・鉄・マンガン・硫黄など)は新しい葉・生長点から出る
  • 欠乏には「土に無い」場合と「あっても吸えない」場合がある。吸えない理由は pH の偏り、拮抗、根と水の状態にあり、対処は原因側が先
  • 窒素は姿を変えて動く。硝酸態は水と流れるので、効く時期と流れる時期を読む
  • リン酸は固定されて動かず、土にたまる。塩基(カリウム・カルシウム・マグネシウム)は CEC に保持され、釣り合いが崩れると拮抗になる
  • 有機質資材の窒素は無機化を経て効く。「入れた量」ではなく「効いている量」で判断する
  • 資材の可否は有機JAS の別表と認証機関・資材証明書で、量は都道府県の施肥基準で確かめる

現場実践課題

栽培中の作物1品目について、生育期間を通じて葉の観察記録を付けてください。週に1回、同じ株(または同じ畝の決まった場所)を見て、症状の有無と出た部位・形を記録します。異常があれば、この章の手順どおりに「疑う元素とその根拠」「裏付けにした診断値・施肥履歴」「下した判断」を書き添えます。異常が出なかった週も「異常なし」と記録し、観察を続けること自体を課題とします。

記録の例:

日付

生育の段階

観察した部位と様子

疑う元素と根拠

裏付け(診断値・履歴)

判断

5月10日

定植後2週

異常なし

—

—

観察を続ける

5月24日

定植後4週

下位の古い葉から全体が淡く黄化

窒素。移行性が高く古い葉から出る形と合う

基肥は油かす。地温の低い日が続いた

無機化の遅れと判断。重ね入れはせず経過を見る

6月7日

定植後6週

新しい葉は緑に戻り、黄化は古い葉で止まった

窒素の効き始めと整合する

地温が上がってきた

対処なし。記録を続ける

6月21日

定植後8週

中位の古い葉で葉脈の間が黄化し始めた

マグネシウム。部位と形が合う

診断でカリウムが多め。家畜ふん堆肥を3作連続

カリウムの多い資材を次作から止める計画を立てる

現場で使える!専門用語ミニ辞書

必須元素(ひっすげんそ)
植物の生育に欠かせないとされる17の元素。不足すると生育が完結しない。
多量要素(たりょうようそ)・微量要素(びりょうようそ)
必要量の多い元素(窒素・リン酸・カリウム・カルシウム・マグネシウム・硫黄)と、少量で足りる元素(鉄・マンガン・ホウ素など)の区分。
体内移行性(たいないいこうせい)
不足した元素を古い葉から新しい葉へ送り直す性質。高い元素の不足は古い葉から、低い元素の不足は新しい葉から症状が出る。
無機化(むきか)
有機の姿をした養分が、微生物の分解によって植物が吸える無機の姿になること。有機質資材の効き始めの遅さを決める。
硝化(しょうか)
アンモニウム態窒素が、硝化菌の働きで硝酸態窒素へ変わること。硝酸態は水と一緒に動きやすい。
溶脱(ようだつ)
養分が雨や灌水の水と一緒に土の下へ流れ出ること。硝酸態窒素で起きやすい。
固定(こてい)
リン酸などが土の成分と結びつき、植物が吸いにくい形になること。酸性では鉄・アルミニウムと、アルカリ性ではカルシウムと結びつく。
拮抗(きっこう)
ある元素が多すぎることで、別の元素の吸収が妨げられる関係。カリウム過剰によるマグネシウム不足が代表例。
葉脈間黄化(ようみゃくかんおうか)
葉脈の間だけが黄色くなる症状。古い葉ならマグネシウム、新しい葉なら鉄・マンガンの不足を疑う。
塩基(えんき)
土の中ではカリウム・カルシウム・マグネシウムなどの陽イオンを指す。CEC に保持され、量と釣り合いを診断で見る。

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農産物の日本農林規格」および別表(使用可能な肥料・土壌改良資材)
  • 農林水産省「地力増進基本指針」(土壌の性質の改善目標)
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 農林水産省 施肥基準関係資料(必須元素・微量要素欠乏対策)
  • 各都道府県の施肥基準・土壌診断基準

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    家畜ふん堆肥を毎作入れてきた露地畑で、トマトの中位から下位の古い葉に、葉脈の間が黄化する症状が出ました。土壌診断では交換性カリウムが多く、マグネシウムはカリウムに比べて少ない状態で、pH は作物の適正範囲内でした。

    この症状への対処として、最初に取るべき判断はどれですか。

  2. Q2/2

    ホウレンソウの畑で、新しい葉の葉脈の間が黄化し、葉脈だけが緑に残る症状が出ました。この畑では毎年決まった量の石灰を入れてきており、土壌診断の pH(H2O) は 7.2 で、作物の適正範囲を上回っていました。

    この症状への対処として、適切な判断はどれですか。

学習状況を確認しています…

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