TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

追肥の判断

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    追肥の判断にあたり、土壌診断の結果と元肥の施肥設計を照合することが重要とされる理由として、最も適切なものはどれか。

  2. Q2/2

    窒素が不足すると、植物の下位葉(古い葉)から黄化が進みやすい。この現象の生理学的な理由として最も適切なものはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 有機質肥料の無機化(分解して作物が吸収できる形になる過程)の特徴をふまえて、追肥のタイミングを判断できる
  • 生育診断の結果と土壌診断の結果をつき合わせて、追肥の要否と量を決められる
  • 追肥が遅れた場合・多すぎた場合に起こる不具合を理解し、修正の手順を説明できる

所要時間の目安: 60〜75分(圃場での診断実習を含めると半日)

結論

追肥の判断は、次の順序で行います。

  1. 生育診断で「今、何が起きているか」を見る(前提ユニット: 生育診断の見方)。葉色・茎の太さ・節間・下位葉の状態を確認する。
  2. 土壌診断の結果と施肥設計を照合する。元肥で設計した量に対して、作物がどの段階にいるかを確認する。
  3. 有機質肥料は効果が遅れて出ることを前提に、診断のタイミングを早める。化学肥料のように「足りないと見えてからすぐ効く」ものではない。
  4. 肥料の種類ごとに無機化の速さを考慮して選ぶ。即効性が欲しい場合と、持続性を重視する場合で使い分ける。
  5. 量は「不足分を補う」範囲にとどめ、過剰を避ける。過剰は食味・形状の低下や病害虫の助長につながる。
  6. 判断に迷う兆候が出たら、追肥を待つより先に土壌診断を再確認する。見た目だけで判断しない。

原理: 有機質肥料の効き方と追肥のタイミング

無機化のしくみと時間差

有機質肥料(油かす、魚かす、米ぬか、堆肥など)に含まれる窒素などの養分は、そのままでは作物が吸収できません。土壌中の細菌・糸状菌・放線菌などの分解者が有機物を分解し、アンモニア態窒素や硝酸態窒素に変える「無機化」という過程を経て、はじめて根から吸収可能になります。この過程は気温・水分・土壌の種類に左右され、化学肥料のように数日で効果が出るものではなく、数週間単位で効果が立ち上がる場合が多くあります。そのため、追肥の判断は「今、葉色が薄いから今すぐ効かせたい」という発想ではなく、「これから数週間後に効き始めることを見越して、いつ施すか」という発想で行う必要があります。

肥料の種類による速効性・持続性の違い

油かすや魚かすは比較的分解が速く、米ぬかや堆肥は土壌環境との相互作用で効果の立ち上がりが緩やかになる傾向があります。追肥に用いる資材を選ぶ際は、生育ステージに対してどの時点で効果を立ち上げたいかを考え、速効性を求める場面と持続性を求める場面を区別します。なお、個々の資材の有機JAS上の使用可否や使用方法は、別表と認証機関・ラベルで必ず確認します。

植物の器官と症状の出方

窒素が不足すると、下位葉から黄化が進みます。これは、窒素が植物体内で再転流しやすい元素であり、新しい葉(茎頂に近い若い葉)の成長を優先するために、古い葉(下位葉)から養分が回収されるためです。逆に、カルシウムのように植物体内を移動しにくい元素は、新しい葉や生長点、果実の先端(尻腐れ症状など)に症状が出ます。根は吸収、茎は輸送、葉は同化(光合成)という役割分担があるため、どの器官に症状が出ているかを見ることで、どの養分が関係しているかの手がかりになります(詳細は植物栄養学の章を参照)。

土壌群による違い

黒ボク土は腐植に富み保肥力が高いため、有機質肥料の無機化が緩やかに進む一方で、養分が土壌中にとどまりやすい傾向があります。低地土や砂質土は保肥力が低く、養分が流亡しやすいため、少量を複数回に分けて追肥する判断が有効になる場合があります。気候帯によっても地温の上がり方が異なり、無機化の速度に影響します。地域ごとの施肥基準は都道府県の基準で確認してください。

判断の実例

実例1: 下位葉の黄化が見られるが、まだ生育初期

状況: 定植後3週間のキャベツで、下位葉にやや黄化が見られる。土壌診断では元肥設計どおりの窒素量が施用されている。

判断: ただちに追肥はせず、1週間程度生育を観察する。

理由: 定植初期は根の活着が優先され、吸収が一時的に鈍ることがある。有機質肥料は無機化に時間差があるため、元肥の効果が立ち上がる前に追肥を重ねると、後に過剰傾向になりやすい。まず生育診断を継続し、改善が見られない場合に土壌診断を再確認する。

実例2: 生育中期で葉色が濃く、節間が間延びしている

状況: 栄養生長期のトマトで、葉色が濃く茎が徒長気味。花芽の着生が遅れている。

判断: 追肥を見送り、窒素過多の可能性を疑って土壌診断を行う。

理由: 葉色が濃く節間が間延びする症状は、窒素過多でみられる典型的な兆候である。この状態で追肥を行うと、栄養生長が優先され、着果や品質(食味・形状)に悪影響が出る可能性がある。追肥の判断は「不足を疑う」だけでなく「過剰を疑う」視点も必要になる。

実例3: 収穫期が近く、果実肥大期に下位葉の黄化が進行

状況: 果実肥大期のナスで、下位葉から中位葉にかけて黄化が進み、果実の肥大が鈍い。土壌診断で窒素含量が設計値を下回っている。

判断: 速効性のある油かすまたは魚かす由来の資材を、少量・複数回に分けて追肥する。

理由: 果実肥大期は養分要求量が高く、窒素不足が続くと収量・食味の両面に影響する。無機化に時間差があることを踏まえ、効果の立ち上がりが比較的速い資材を選び、過剰を避けるために少量を分割して施用する。

手順と判断基準

  1. 生育診断を行う - 葉色、茎の太さ、節間の長さ、下位葉の状態を確認する - 症状が出ている器官(下位葉か新葉か)を記録する
  2. 土壌診断の結果と照合する - 元肥設計時の施肥量と、現在の生育ステージが対応しているかを確認する - 窒素含量が設計値を下回っているか、上回っているかを判断する
  3. 追肥の要否を判断する - 不足の兆候+土壌診断で窒素含量が低い → 追肥を検討 - 過剰の兆候(濃い葉色・徒長・着果遅れ)がある → 追肥は見送り、原因を確認 - 判断がつかない場合 → 1週間程度観察を延長し、再診断する
  4. 資材と施用量を選ぶ - 速効性が必要か持続性が必要かを、生育ステージの残り期間から判断する - 使用する資材が有機JASの別表に適合するか、認証機関・ラベルで確認する - 施用量は都道府県の施肥基準に照らし、一度に多量を施さず分割する
  5. 施用後の経過を記録する - 施用日、資材名、量、施用後の生育変化を記録し、次回以降の判断材料とする

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

葉色が薄いのを見てすぐに追肥する

有機質肥料は無機化に時間差があり、元肥の効果がまだ立ち上がっていないだけの場合がある

生育診断を継続し、土壌診断と照合してから判断する

窒素過多の兆候(濃い葉色・徒長)を不足と誤認して追肥する

過剰傾向をさらに助長し、着果不良や食味・形状の低下を招く

症状が出ている器官と生育ステージを確認し、過剰の可能性も疑う

一度に多量の追肥を行う

養分が一時に偏り、根への負担や養分の流亡(特に砂質土・低地土)につながる

少量を複数回に分けて施用する

未発酵の家畜ふん堆肥を追肥に使う

発酵が不十分だと分解の過程でガス障害や病原菌のリスクがあり、有機JAS上も未発酵のものは使えない

堆肥化の過程で化学合成資材が混入していないこと、発酵が十分に進んでいることを確認する

記録をつけずに経験だけで判断する

翌年以降の判断材料が残らず、同じ失敗を繰り返しやすい

施用日・資材・量・生育変化を必ず記録する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 生育診断で、どの器官にどんな症状が出ているかを確認する
  2. 土壌診断の結果と元肥設計を照合し、不足か過剰かを見極める
  3. 有機質肥料は無機化に時間差があることを前提に、診断と判断のタイミングを早める
  4. 速効性・持続性の違いをふまえて資材を選び、使用可否は有機JASの別表と認証機関・ラベルで確認する
  5. 量は少量・複数回を基本とし、都道府県の施肥基準に照らして過剰を避ける
  6. 判断に迷う場合は、見た目だけで追肥せず、土壌診断の再確認を優先する

現場実践課題

自分の担当する圃場で、生育中期の作物を1区画選び、追肥の判断プロセスを実際に行って記録してください。

  • 生育診断の結果(葉色・茎の太さ・節間・症状が出ている器官)を記録する
  • 土壌診断の結果と元肥設計を照合し、不足・過剰・判断保留のいずれかを判定する
  • 追肥を行った場合は、資材名・量・施用日を記録し、1〜2週間後の生育変化を観察する

日付

生育診断の所見

土壌診断との照合結果

判断(追肥/見送り/保留)

資材・量(追肥時)

1〜2週間後の変化

例: 6/10

下位葉やや黄化、節間標準

窒素含量やや低め

保留(1週間観察)

—

変化なし、改善傾向

現場で使える!専門用語ミニ辞書

無機化(むきか)
有機物中の養分が、土壌微生物の分解によってアンモニア態窒素や硝酸態窒素など作物が吸収できる形に変わる過程
速効性(そっこうせい)
施用後、比較的短期間で効果が現れる肥料の性質
持続性(じぞくせい)
施用後、効果が長期間にわたってゆるやかに続く肥料の性質
再転流(さいてんりゅう)
植物体内で、養分が古い器官から新しい器官へ移動すること。窒素欠乏で下位葉から黄化が進む理由の一つ
施肥設計(せひせつけい)
土壌診断の結果に基づき、元肥・追肥の種類と量をあらかじめ計画すること
分割施用(ぶんかつしよう)
肥料を一度に多量に施さず、複数回に分けて施すこと

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農業の推進に関する法律」及び有機JAS規格(別表1・別表2)
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 農研機構「緑肥利用マニュアル」
  • 気象庁「大気中の二酸化炭素濃度の観測結果」

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    露地栽培のキュウリで、定植後2週間が経過した。下位葉にやや黄化が見られるが、他の葉や生長点には異常はない。土壌診断の結果、窒素含量は元肥設計どおりの水準にある。

    この状況での追肥の判断として、最も適切なものはどれか。

  2. Q2/2

    ハウス栽培のナスで果実肥大期を迎えている。下位葉から中位葉にかけて黄化が進み、果実の肥大も鈍い。土壌診断を行ったところ、窒素含量は元肥設計値を下回っていた。

    この状況で取るべき追肥の判断として、最も適切なものはどれか。

学習状況を確認しています…

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