TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

土壌学の基礎

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    作付け前の畑の土壌診断書に「EC 1.2 mS/cm」とあった。この地域の施肥基準では、作付け前の EC はこれより低い値を目安にしている。

    この値から、まず考えるべきことはどれか。

  2. Q2/2

    新しく借りた畑の土壌診断書で、CEC が 30 meq/100g と大きく、腐植も多かった。前の耕作者からは「この畑は肥料を入れても急に効きすぎることがなく、石灰を入れても pH がなかなか動かない」と聞いている。

    この畑の性質の説明として、最も適切なものはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 土壌診断書の pH・EC・CEC・腐植 の値を、「この畑はどういう状態か」という圃場の言葉に言い換えられる
  • 化学性(数値)の問題と、物理性(硬さ・水はけ)の問題を分けて捉え、どちらから手を付けるかを決められる
  • 石灰や施肥の量が「畑ごとに違う」理由を、緩衝能と保肥力で説明できる

所要時間の目安: 本文 10 分、現場実践課題 30 分。

結論

土の判断は、次の順で行います。

  1. まず物理性(土の硬さ、水はけ、根が伸びる深さ)を見る。根が張れない畑では、数値を整えても効かない
  2. 次に pH。作物の適正範囲から外れていれば、養分の効き方がまとめて崩れる
  3. EC で、前作の肥料分がどれだけ残っているかをつかみ、施肥量を引き算する
  4. CEC と腐植で、その畑の「器の大きさ」(養分をためる力と、pH の動きにくさ)を知り、資材の量と入れ方を決める

有機JAS の基準は、化学的に合成された肥料に頼らず「土壌の性質に由来する農地の生産力」を発揮させることを求めています。つまり有機栽培では、土の器を育てること自体が栽培の中心になります。数値は、その器の現状を測る物差しです。

原理: 4つの数値と、土の構造は何を表しているか

土性と構造 — 水と空気の通り道

土は、砂(粒径 0.02〜2 mm)、シルト(0.002〜0.02 mm)、粘土(0.002 mm 未満)の粒の混ざり方で性質が決まります(国際土壌学会法の区分)。これが 土性 です。砂が多いほど水はけは良いが養分をためにくく、粘土が多いほど養分をためやすいが水はけと通気が悪くなります。

ただし、同じ土性でも作物の出来は大きく変わります。差を生むのが 構造 です。粘土や腐植が微生物の分泌物や根の働きで小さな塊(団粒)にまとまると、団粒と団粒の間に大きなすき間ができ、水が抜け、空気が入ります。団粒の中の小さなすき間には水が保たれます。団粒構造は「水はけ」と「水もち」を同時に満たす状態です。

土の中は、固体(固相)・水(液相)・空気(気相)の3つに分かれています。雨の後に水たまりが残る、スコップが入らない、という状態は、気相が足りず根が酸素不足になっているサインです。地力増進基本指針(農林水産省)は普通畑の改善目標として、作土の厚さ 25 cm 以上、主要な根の範囲の硬さを山中式硬度計で 22 mm 以下としています。

pH — 養分の効き方を決める

pH は土の酸性・アルカリ性の強さです。多くの野菜の適正範囲は pH(H2O) 6.0〜6.5 前後です。一方、ジャガイモはそうか病を避けるために低めに保ち、サツマイモはやや酸性でも育つなど、作物で目標は変わります。

pH が低すぎると、リン酸が効きにくくなり、アルミニウムが溶け出して根を傷めます。高すぎると、マンガン・ホウ素・鉄・亜鉛といった微量要素が効きにくくなります。pH は「上げれば良い」ではなく「範囲に収める」指標です。

日本の雨の多い気候では、カルシウムやマグネシウムが雨で流され、土は放っておくと酸性に傾きます。

診断書には pH(H2O) と pH(KCl) の2種類が載ることがあります。pH(KCl) は通常 pH(H2O) より低く出ます。目標値と比べるときは、どちらの値か必ず確かめます。

EC — 残っている肥料分のものさし

EC(電気伝導度)は、土の水に溶けている塩類の量の目安です。畑では、主に 硝酸態窒素の量とよく連動 します。EC が高いのは「土が肥えている」ではなく「前作の肥料分が残っている」状態です。高すぎると根が水を吸いにくくなる濃度障害が起きます。

有機栽培でも EC は上がります。鶏ふんや豚ぷんなど窒素・カリの多い資材を続けて入れた畑や、雨の当たらないハウスでは、塩類がたまりやすくなります。

CEC と腐植 — 土の「器」の大きさ

CEC(陽イオン交換容量)は、カリ・カルシウム・マグネシウム・アンモニウムなど、プラスの電気を持つ養分を土が保持できる量の目安です。単位は meq/100g(cmol(+)/kg と同じ値)。

土の例

CEC のおおよその幅(meq/100g)

圃場で起きること

砂質の土

10 未満

肥料が流れやすい。少しの資材で pH が大きく動く

沖積の壌土

10〜20 程度

標準的

黒ボク土・粘質の土

20〜40 程度

養分をためやすい。pH が動きにくい

CEC を担うのは粘土と 腐植 です。腐植は重さあたりの CEC が粘土よりはるかに大きく、砂質の畑でも腐植を増やせば器は大きくなります。地力増進基本指針の普通畑の目標は CEC 12 meq/100g 以上(中粗粒質の土では 8 以上)です。

CEC が大きい土は、pH を変えようとしても変わりにくい性質(緩衝能)も持ちます。器が大きいほど、満たすのにも、中身を入れ替えるのにも多くの量が要る、と捉えると覚えやすくなります。

判断の実例

実例1: 同じ pH 5.4 の2枚の畑、石灰の量をどう決めたか

ある生産法人が、来春にホウレンソウ(目標 pH 6.5)を作る2枚の畑を診断しました。

  • 畑A: 砂質、CEC 7 meq/100g、腐植 1.5%
  • 畑B: 黒ボク土、CEC 28 meq/100g、腐植 8%

判断: 「pH が同じだから同じ量」ではなく、診断機関に緩衝曲線を出してもらい、畑ごとに量を決めました。緩衝曲線は、土に段階的にアルカリ資材を加えて pH の上がり方を測ったものです。

畑Bの緩衝曲線で、目標まで上げるのに乾土 100 g あたり炭酸カルシウム 150 mg が必要と出たとします。作土の深さ 10 cm、乾いた土の密度(仮比重)0.7 g/cm3 とすると、10a の作土の重さは 1,000 m2 × 0.1 m × 0.7 t/m3 = 70 t。必要量は 70 t × 1.5 kg/t ≒ 105 kg/10a(炭酸カルシウム換算)になります。使う資材のアルカリ分で換算し直して、実際の量を決めます。

畑Aは、同じ pH 差でも必要量はずっと少なく出ます。目安の量を入れると上がりすぎ、微量要素の欠乏を招きます。

理由: 畑Bは CEC と腐植が大きく緩衝能が大きいため、多くの資材が要る。畑Aは小さいため少量で動く。どちらも施用後 2〜4 週間おいて測り直し、目標に届いたかを確かめる。

実例2: 鶏ふんを続けた有機の畑で EC が高い

有機栽培を始めて3年目の露地畑。毎作、発酵鶏ふんを基肥にしてきました。作付け前の診断で EC 0.9 mS/cm、交換性カリが多く、苦土(マグネシウム)とカリの釣り合いが崩れていました。

判断: 今作は基肥の窒素を大きく減らし、鶏ふんを止めて、窒素・カリの少ない植物質の堆肥と緑肥で有機物を補う計画に切り替えました。県の施肥基準の EC による減肥の目安を確認し、硝酸態窒素も実測しました。

理由: EC の高さは残っている肥料分の多さを示し、そのまま施肥すると濃度障害と窒素の過剰につながる。カリが多いとマグネシウムの吸収が妨げられ(拮抗)、古い葉から葉脈の間が黄化する症状が出やすい。有機の資材でも、入れ続ければ偏る。

実例3: 数値は良いのに育たない畑

pH 6.3、EC 0.1 mS/cm と化学性は目安の範囲。それでも生育がそろわず、雨の後は翌日まで水たまりが残る畑がありました。試し掘りをすると、深さ 20 cm ほどに硬い層があり、山中式硬度計で 25 mm を超えていました。根はその層で横に曲がっていました。

判断: 肥料や石灰には手を付けず、物理性の改善を優先しました。乾いた時期に心土破砕で硬い層を壊し、畑の周りに明渠を掘って排水を確保。冬に緑肥(ライ麦など根の深い作物)を入れ、根で土をほぐしながら有機物を補う計画にしました。

理由: 根が張れない深さには、養分があっても届かない。化学性の数値は「根が届く範囲の土」が前提で、その前提が崩れていた。

手順と判断基準

土壌診断書を受け取ったら、次の順で読みます。

ステップ0: 試料が正しく採れているか

  • 1枚の圃場で 5 か所以上から、作土(地表から 15 cm 程度)の土を採って混ぜたものか
  • 施肥の直後ではないか。施肥直後の試料は EC が高く出る

ステップ1: 物理性(診断書の外で確かめる)

  • 試し掘りで、硬い層の有無と深さ、根の伸び方を見る
  • 雨の翌日に水たまりが残るか
  • 硬い層や過湿があれば、化学性より先に排水と耕盤の対策を計画する

ステップ2: pH

  • pH(H2O) か pH(KCl) かを確かめ、作物の適正範囲と比べる
  • 低い → 緩衝曲線か診断機関の処方で量を決める。目安の定量は使わない
  • 高い → 石灰・苦土石灰・草木灰などアルカリ分のある資材を止める。下げるのは難しいので、上げすぎない運用が基本

ステップ3: EC

  • 都道府県の施肥基準で、EC に応じた基肥窒素の減らし方を確認する
  • 高い値なら硝酸態窒素も測る。乾土 100 g あたり 10 mg の硝酸態窒素は、作土 10 cm・仮比重 0.7 の畑なら 10a あたり約 7 kg の窒素に相当する

ステップ4: CEC と塩基

  • CEC が小さい(10 未満)→ 一度に多く入れず分けて施用する。有機物で器を育てる計画を立てる
  • CEC が大きい → pH を動かすにも多くの量が要る。資材の効きはゆっくり
  • カルシウム・マグネシウム・カリの釣り合いも確かめる。どれかが多すぎると、ほかの吸収を妨げる

ステップ5: 腐植

  • 前回の診断と比べ、増えているか減っているかを見る。1回の値より推移が大切
  • 減り続けていれば、堆肥・緑肥の量と種類を見直す

診断は露地なら2〜3年に1回以上、問題のある畑や施設は毎作を目安にし、同じ時期・同じ採り方で続けて比べます。

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

毎年、決まった量の苦土石灰を入れる

pH が上がりすぎ、微量要素の欠乏やジャガイモのそうか病を招く

診断値と目標から、その都度量を決める

化学性だけ見て、物理性を見ない

根が張れない畑では施肥が効かない

試し掘りと水はけの観察を診断の一部にする

未熟な堆肥を大量に入れる

分解のために微生物が窒素を使い、作物が窒素不足になる(窒素飢餓)。ガスで根を傷めることもある

完熟したものを使う。C/N 比 20 程度以下が目安

家畜ふん堆肥だけで養分をまかなう

カリ・リン酸がたまり、EC が上がる

植物質の堆肥と緑肥を組み合わせ、診断で釣り合いを確かめる

雨の直後の湿った土を耕す

団粒が壊れて練り返され、乾くと固く締まる

土を握って、指で押すとほぐれる程度まで乾くのを待つ

pH(H2O) と pH(KCl) を取り違える

同じ土でも pH(KCl) は低く出るため、石灰を入れすぎる

診断書の測定法を確かめてから目標値と比べる

石灰などの資材を有機JAS の圃場で使うときは、資材が有機JAS で使えるもの(天然物由来など)かを、資材の内容と認証機関の判断で事前に確かめます。

まとめ(判断基準の再掲)

  • 判断の順番は 物理性 → pH → EC → CEC・腐植
  • pH は範囲に収める指標。石灰の量は緩衝能で変わるので、緩衝曲線や処方で畑ごとに決め、施用後に測り直す
  • EC が高いのは肥料分が残っているサイン。基肥を引き算する
  • CEC は土の器。小さい畑は分けて施用し、有機物で器を育てる。大きい畑は pH も養分もゆっくり動く
  • 腐植は1回の値より推移を見る。有機栽培では、腐植を増やす土づくりそのものが生産力になる

現場実践課題

自分の圃場1枚で、直近の土壌診断書の pH・EC・CEC・腐植の値を書き出し、同じ圃場の土を湿らせて指で伸ばしたときの感触(砂っぽい/粘る)と、雨の翌日の水はけの様子を並べて記録してください。数値と圃場の状態の言葉が対応しているかを確かめます。

記録の例:

項目

値・様子

言い換え

pH(H2O)

5.6

野菜には低め。緩衝曲線で石灰量を確認する

EC

0.2 mS/cm

残っている肥料分は少ない

CEC

9 meq/100g

器は小さい。分けて施用する

腐植

2.1%

前回より 0.3 ポイント増。堆肥の効果が出始めている

指の感触

ざらつく、少し粘る

砂壌土に近い

雨の翌日

半日で水が引く

排水は問題なし

次の章「土壌の生物」の冒頭で、この記録を振り返ります。

現場で使える!専門用語ミニ辞書

土性(どせい)
土に含まれる砂・シルト・粘土の割合で決まる性質。水はけと養分のため方の基本を決める。
団粒構造(だんりゅうこうぞう)
土の粒が小さな塊にまとまった状態。水はけと水もちを両立させ、根が伸びやすくなる。
耕盤(こうばん)
作土の下にできる硬く締まった層。機械の重さや同じ深さの耕うんの繰り返しでできやすく、根と水の通り道をふさぐ。
pH(H2O) / pH(KCl)
土を水で測った pH と、塩化カリウム溶液で測った pH。同じ土でも pH(KCl) が低く出るため、目標値と比べるときは測定法をそろえる。
EC(イーシー・電気伝導度)
土の水に溶けている塩類の量の目安。畑では残っている硝酸態窒素の量と連動し、基肥を減らす判断に使う。
CEC(シーイーシー・陽イオン交換容量)
土がカリ・カルシウムなどの陽イオンを保持できる量。土の「器の大きさ」として、施肥の分け方と石灰の量の判断に使う。
緩衝能(かんしょうのう)
pH などの変化に抵抗する土の性質。CEC と腐植が大きいほど大きく、石灰の必要量が増える。
緩衝曲線(かんしょうきょくせん)
土に段階的にアルカリ資材を加えたときの pH の上がり方を示した曲線。石灰の必要量を畑ごとに求めるのに使う。
腐植(ふしょく)
有機物が分解・再合成されてできた、土の中の安定した有機物。CEC を高め、団粒構造をつくる。
C/N 比(シーエヌひ・炭素率)
有機物に含まれる炭素と窒素の比。高い資材ほど分解のときに土の窒素を使い、作物の窒素不足を起こしやすい。

参考(一次情報)

  • 農林水産省「地力増進基本指針」(土壌の性質の改善目標)
  • 農林水産省「有機農産物の日本農林規格」および別表(使用可能な肥料・土壌改良資材)
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 各都道府県の施肥基準・土壌診断基準

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    2枚の畑はどちらも pH(H2O) 5.5 で、目標は 6.5。畑Aは砂質で CEC 7 meq/100g、畑Bは粘質で腐植が多く CEC 22 meq/100g。手がかり: pH を同じだけ上げるのに必要な石灰の量は、土の緩衝能(CEC や腐植が大きいほど大きい)によって変わる。

    石灰の施用量の判断として、最も適切なものはどれか。

  2. Q2/2

    露地で有機栽培をしている畑。土壌診断の化学性は pH(H2O) 6.3、EC 0.1 mS/cm と目安の範囲内だった。一方で、雨のあとは畑の表面が固く締まり、水たまりが翌日まで残る。深さ20cmほどのところに、スコップが入りにくい硬い層がある。

    この畑への対応として、最も適切なものはどれか。

FIELD PRACTICE

現場実践課題

自分の圃場1枚で、直近の土壌診断書の pH・EC・CEC・腐植の値を書き出し、同じ圃場の土を湿らせて指で伸ばしたときの感触(砂っぽい/粘る)と、雨の翌日の水はけの様子を並べて記録する。数値と圃場の状態の言葉が対応しているかを確かめる。

採点はしません。自分の圃場・実際の記録で試し、気づいたことを記録に残してください。実施チェックの記録機能は準備中です。

学習状況を確認しています…

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