TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

土壌診断の読み方と処方

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    土壌診断票を読む際、最初に確認すべき基本項目として適切な組み合わせはどれか。

  2. Q2/2

    土壌のCEC(陽イオン交換容量)が低い圃場の説明として、最も適切なものはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 土壌診断票に記載される項目(pH・EC・CEC・交換性塩基・有効態リン酸・腐植含量など)の数値を、圃場の状態の言葉に翻訳できる
  • 診断結果から、不足・過剰を特定し、有機JASの枠内で使える資材を使った施肥処方の優先順位を立てられる
  • 緑肥や堆肥を含めた年単位の土づくり計画の中に、施肥処方を位置づけられる

所要時間の目安: 90分(診断票の読み方30分、処方の立て方40分、演習20分)

結論

土壌診断を処方に落とし込む判断は、次の順番で行う。

  1. 診断票の基本4項目(pH・EC・CEC・腐植)を先に確認する。これらは他の養分数値の読み方そのものを左右する土台だからである。
  2. 塩基バランス(石灰・苦土・加里の比率)を確認する。単独の数値ではなく比率のくずれが生育障害の原因になることが多い。
  3. 有効態リン酸と窒素系(腐植・全窒素・無機態窒素)の過不足を確認する。リン酸は蓄積性が高く、窒素は年ごとの変動が大きいため、見る視点を分ける。
  4. 前作の施肥履歴と緑肥・堆肥の投入計画を踏まえて、今回の処方量を決める。診断値だけでなく「これまで何を入れてきたか」を合わせて判断する。
  5. 地域差の大きい施肥基準値は、必ず都道府県の施肥基準で確認し、診断票の数値と照合する。全国一律の数値では判断しない。
  6. 処方に使う資材は、有機JAS別表と認証機関・ラベルで使用可否を確認してから投入する。

原理: なぜ数値だけでは処方が決まらないか

pH・EC・CEC・腐植が土台になる理由

pHは多くの養分の可給化(土壌中で作物が吸収できる形になること)を左右する。CEC(陽イオン交換容量)が低い土壌では、せっかく施用した塩基類が保持されずに流亡しやすく、同じ施肥量でも効果が異なる。ECは土壌溶液中の可給態塩類の総量の目安であり、高すぎれば根の水分吸収を阻害する。腐植は保肥力・保水力・微生物のすみかとしての機能を持ち、これらの数値の「効きやすさ」そのものを変える。したがって、個々の養分数値を読む前に、この4項目で土壌の体質を把握する必要がある。

塩基バランスが単独の数値より重要な理由

石灰(カルシウム)・苦土(マグネシウム)・加里(カリウム)は、互いに拮抗して吸収される関係にある。例えばカリウムが過剰だと苦土の吸収が妨げられ、葉に苦土欠乏の症状(葉脈間が黄化するなど、同化器官である葉に現れる)が出ることがある。したがって診断票では、各塩基の絶対量だけでなく当量比のバランスを見る。具体的な適正比率の範囲は土壌群や作目で異なるため、都道府県の施肥基準に沿って判断する。

リン酸と窒素で見る視点が異なる理由

リン酸は土壌中で鉄やアルミニウムと結合して固定されやすく、年々の施用が有効態として蓄積しやすい。そのため、過去の施肥履歴がある圃場では、診断で高い数値が出ても追加投入を控える判断が必要になる。一方、窒素(無機態窒素)は降雨や微生物分解によって年内でも大きく変動するため、診断時点の数値は「その時点のスナップショット」として扱い、作付け期間中の地力窒素の発現(腐植や有機物が分解層=作土中の微生物によって無機化される過程)を見込んで処方する。

分解者の働きと地力窒素

施用した堆肥や緑肥の有機物は、作土に集中する細菌・糸状菌・放線菌によって分解される。細菌は易分解性の有機物を速やかに分解し窒素を放出しやすく、糸状菌は難分解性の繊維質(セルロース・リグニンなど)の分解を担い腐植化に関与し、放線菌は糸状菌と重なる分解を行いつつ抗生物質様物質の生成など土壌病害の抑制にも関わる。これらのバランスが、診断票に現れない「これから効いてくる窒素」の量を左右する。

判断の実例

実例1: CECが低い砂質土でpHが基準範囲内

状況: 診断票でpHは適正範囲内だが、CECが低く、カリウムの診断値も低い砂質土の圃場。

判断: 石灰・苦土・加里を分施(複数回に分けて施用)する方針とし、一度に多量の塩基資材を投入しない。

理由: CECが低いと保持できる陽イオンの総量が少なく、一度に施用しても流亡しやすい。分施によって流亡を抑え、生育期間を通じて可給態を維持する方が無駄が少ない。

実例2: 有効態リン酸が高い数値で出た圃場

状況: 連続して堆肥を投入してきた圃場で、有効態リン酸が都道府県基準の上限に近い数値で出た。

判断: 今作のリン酸質資材の追加投入を見送り、窒素・加里を中心とした処方に切り替える。

理由: リン酸は蓄積性が高く、過剰施用は作物のリン酸以外の養分吸収を妨げたり、水系への流出リスクを高めたりする。蓄積分を作物に利用させる方針を優先する。

実例3: 腐植含量が低く、EC値が平年並みの黒ボク土

状況: 黒ボク土で腐植含量が低下傾向にあり、ECは平年並み。緑肥導入を検討している。

判断: 診断後にマメ科とイネ科の混播緑肥をすき込み、すき込みから定植まで3〜4週間の間隔を置く計画に組み替える。

理由: 黒ボク土は腐植の蓄積が土壌の物理性・保肥力に強く影響する土壌群であり、マメ科による窒素固定とイネ科による余剰養分の吸収・保持、根による物理性改善を組み合わせることで、化学合成資材に頼らず腐植と地力を回復させる設計ができる。3〜4週間は緑肥残渣の分解が進み、窒素飢餓(微生物が炭素分解のために窒素を消費し作物への供給が一時的に減る現象)のリスクを下げる標準的な目安である。

手順と判断基準

  • [ ] 診断票のpH・EC・CEC・腐植を確認し、基準範囲との差を記録する
  • [ ] pHが適正範囲から外れている場合、石灰質資材での矯正を検討する(1回の矯正量の上限は都道府県の基準で確認する)
  • [ ] 塩基バランス(石灰・苦土・加里の当量比)を計算し、拮抗による欠乏症状のリスクがないか確認する
  • [ ] 有効態リン酸の数値と過去の施肥履歴を照合し、蓄積がある場合は追加投入を控える
  • [ ] 無機態窒素の数値と、前作残渣・緑肥・堆肥による地力窒素の発現見込みを合わせて、今作の窒素処方量を仮決定する
  • [ ] 使用予定の資材が有機JAS別表に適合するか、認証機関・ラベルで確認する
  • [ ] 緑肥を組み込む場合は、すき込みから定植まで3〜4週間を確保できる作付け計画になっているか確認する
  • [ ] 処方案を記録し、次回診断時に比較できる形で保存する

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

診断票の養分数値だけを見て、pH・CECを確認せずに施肥量を決める

同じ養分量でも土壌の体質によって可給化の程度が異なり、処方がずれる

必ずpH・EC・CEC・腐植を先に確認してから養分数値を読む

カリウムだけを基準値に合わせて多めに施用する

苦土の吸収阻害を招き、葉に欠乏症状が出ることがある

塩基は当量比のバランスで判断し、単独の数値だけで増減しない

リン酸蓄積がある圃場に毎年同量のリン酸質資材を入れ続ける

過剰蓄積が進み、他の養分吸収阻害や流出リスクが高まる

診断でリン酸が高い場合は投入を見送り、窒素・加里中心の処方に切り替える

未発酵の家畜ふん堆肥を診断結果に基づかず多量投入する

発酵が不十分な堆肥は窒素飢餓やガス障害、病原菌リスクを招く

堆肥は発酵が十分進んだものを使い、化学合成資材の混入がないか確認する

緑肥をすき込んですぐに定植する

残渣分解が進まず窒素飢餓や発芽障害のリスクがある

すき込みから定植まで3〜4週間の間隔を標準として計画する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. pH・EC・CEC・腐植の4項目を先に確認し、土壌の体質を把握する
  2. 塩基バランス(当量比)のくずれを確認する
  3. リン酸は蓄積、窒素は変動という視点の違いを踏まえて処方する
  4. 施肥履歴と緑肥・堆肥計画を合わせて処方量を決める
  5. 地域差の大きい基準値は都道府県の施肥基準で確認する
  6. 使用資材は有機JAS別表と認証機関・ラベルで可否を確認する

現場実践課題

自分の担当圃場で土壌診断を実施し(または既存の診断票を入手し)、次の記録表を作成する。診断結果をもとに処方案を立て、実際に投入した資材・量と、その後の生育観察を記録する。

項目

診断値

都道府県基準との差

処方の判断

実施した資材・量

投入後の生育観察

pH

EC

CEC

腐植含量

石灰・苦土・加里(当量比)

有効態リン酸

無機態窒素

現場で使える!専門用語ミニ辞書

CEC(シーイーシー/陽イオン交換容量)
土壌が保持できる陽イオン(塩基類)の総量の目安。高いほど保肥力が高い。
可給態(かきゅうたい)
土壌中の養分のうち、作物が実際に吸収できる形になっているもの。
当量比(とうりょうひ)
塩基類などを化学的に比較できる単位(当量)でそろえた比率。絶対量ではなく比率のバランスを見るために用いる。
地力窒素(ちりょくちっそ)
施肥由来ではなく、土壌中の有機物が微生物によって分解・無機化されて作物に供給される窒素。
窒素飢餓(ちっそきが)
炭素率の高い有機物(未分解の緑肥残渣など)の分解に微生物が窒素を消費し、作物への窒素供給が一時的に不足する現象。
塩基拮抗(えんききっこう)
カリウム・カルシウム・マグネシウムなど陽イオン同士が互いの吸収を妨げ合う現象。

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農業の推進に関する法律」及び有機JAS規格・別表
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 農研機構「緑肥利用マニュアル」
  • 気象庁 大気中二酸化炭素濃度の観測データ
  • 各都道府県 施肥基準・土壌診断基準(都道府県農業試験場等が公表するもの)

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    砂質土の圃場で土壌診断を行ったところ、pHは適正範囲内だったが、CECが低く、カリウムの診断値も基準より低い結果が出た。

    この圃場への施肥処方として最も適切な判断はどれか。

  2. Q2/2

    堆肥を継続して投入してきた露地野菜圃場で土壌診断を行ったところ、有効態リン酸の数値が都道府県の施肥基準の上限に近い値で出た。無機態窒素は平年並みであった。

    今作の施肥処方として最も適切な判断はどれか。

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