TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

品種の選び方

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    無霜期間が短い冷涼地で晩生品種を選んで栽培した場合、一般的にどのような問題が起こりやすいか。

  2. Q2/2

    有機JASにおける種苗(種子・苗)の取り扱いに関する基本的な考え方として正しいものはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 品種特性表(早晩性・草姿・耐病性・食味・形状など)の項目を読み取り、自分の圃場条件(土壌群、気候帯、作期)と照らし合わせて候補を絞り込める
  • 販路(直売・契約・加工・市場出荷)ごとに求められる品質基準を整理し、品種選定の優先順位をつけられる
  • 有機栽培特有の制約(種苗の入手条件、耐病性への依存度の高さ)を踏まえた選び方を説明できる

所要時間の目安: 60〜90分(品種特性表の読み方の演習を含む)

結論

品種選びは次の順番で判断する。

  1. 販路の要求品質を確定する: 規格(サイズ・形状・色)、食味の優先度、出荷時期の幅を先に決める。これが決まらないと品種の優劣を評価できない。
  2. 自圃場の土壌群と気候帯に適性があるかを確認する: 黒ボク土・低地土・砂質土などの排水性・保水性、無霜期間や夏季の高温多湿の程度に合う早晩性・草姿を選ぶ。
  3. 有機栽培での耐病性・耐虫性を最優先項目に入れる: 化学合成農薬に頼れないため、罹病性の高い品種は収量・品質が不安定になりやすい。
  4. 種苗の入手条件を確認する: 有機JASでは、可能な限り有機種苗を使用することが求められる。入手できない場合の例外規定は認証機関に確認する。
  5. 上記1〜4をすべて満たす候補が複数あれば、食味・形状で最終選定する。

原理: 品種特性がなぜ結果を左右するか

早晩性と気候帯の対応

品種には生育日数・感温性・感光性の違いがあり、これが「早晩性」として表に示される。無霜期間が短い地域で晩生品種を選ぶと、登熟前に低温・降霜に遭い、収量・食味の両方が低下する。逆に温暖地で極早生を選ぶと、生育期間が短く肥大・充実が不足し、形状不良(小玉・変形)につながりやすい。作期と気候帯の対応は、都道府県の奨励品種資料や栽培暦で確認する。

草姿と土壌群の相性

草姿(立性・開張性、根の張り方)は土壌の物理性と関係する。砂質土のように保水力が弱い土壌では、根量が多く乾燥に強い品種が有利になる。黒ボク土のように膨軟で排水性の良い土壌では根の伸長は良好だが、リン酸の固定が強いため、リン酸吸収効率の高い品種・台木を組み合わせる選択肢もある。低地土で排水不良になりやすい圃場では、過湿に弱い品種は根腐れ性の病害(疫病・立枯病など)のリスクが上がるため、耐病性の高い品種を優先する。

耐病性と有機栽培の制約

有機JASでは化学合成農薬の使用が制限されるため、病害の第一次防除は「発病しにくい品種を選ぶこと」に大きく依存する。植物は病原体の侵入に対し、葉・茎・根のいずれかで症状を示すが、器官ごとに防除の難易度が異なる。葉に出る病斑は耕種的防除(株間・風通し)で軽減しやすいが、根部の病害は土壌中の病原体密度に左右され、品種の耐病性遺伝子の有無が結果を大きく分ける。品種特性表の耐病性評価(強・中・弱など)は、連作歴のある圃場ほど重視すべき項目になる。

食味・形状と商品価値

収穫物の食味(糖度・酸味・食感)と形状(サイズ・揃い・色)は、規格と単価に直結する。同じ品種でも、窒素過多の土壌では葉や茎に養分が偏り、糖度や食感が落ちる傾向があるため、品種特性と施肥設計は切り離せない。直売や契約栽培では食味重視の品種が評価されやすく、加工用途では形状の揃いや歩留まりが優先されることが多い。

判断の実例

実例1: 低地土・多湿地帯でのキャベツ品種選定

状況: 低地土で排水性がやや劣る圃場。夏季に高温多湿が続く地域。直売所向けに通年出荷を計画している。

判断: 根こぶ病耐病性のある品種を選び、作期をずらして早生・中生を組み合わせる。

理由: 低地土は過湿になりやすく、根こぶ病などの土壌病害が発生しやすい。耐病性品種を使うことで薬剤に頼らない防除の土台ができる。早生・中生の組み合わせにより、一時期への出荷集中を避け、直売所の需要に合わせた安定供給が可能になる。

実例2: 黒ボク土・冷涼地での露地トマト品種選定

状況: 黒ボク土でリン酸固定が強い圃場。無霜期間が短い冷涼地。加工用(ピューレ向け)の契約栽培。

判断: 早生〜中早生で裂果耐性の高い品種を選び、加工適性(糖度・果肉歩留まり)を確認する。

理由: 無霜期間が短いため、登熟に十分な期間を確保できる早生系統が有利。黒ボク土はリン酸が効きにくく初期生育が遅れやすいため、初期生育の旺盛さも評価項目に加える。加工用途では見た目の揃いより糖度・果肉歩留まりが単価に影響するため、食味表の糖度評価を優先する。

実例3: 砂質土・乾燥しやすい圃場でのダイコン品種選定

状況: 砂質土で保水力が弱く、夏場にかん水頻度が高くなる圃場。市場出荷でサイズ揃いが求められる。

判断: 根量が多く乾燥ストレスに強い品種を選び、緑肥によるすき込みで保水性を改善した上で播種する。

理由: 砂質土は乾燥によって肌荒れ・又根などの形状不良が出やすい。根量の多い品種は水分・養分の吸収効率が高く、形状の乱れを抑えやすい。緑肥(イネ科)のすき込みは有機物供給と団粒形成を通じて保水性を補う効果があり、すき込みから定植までは3〜4週間を目安に分解を進めてから播種する。

手順と判断基準

  1. 販路要求の整理 - [ ] 規格(サイズ・形状・色)を書き出したか - [ ] 食味評価の優先順位(糖度・食感・香り)を決めたか - [ ] 出荷時期の幅(一時期集中か、通年分散か)を決めたか
  2. 自圃場条件の確認 - [ ] 土壌群(黒ボク土・低地土・砂質土など)を把握しているか - [ ] 無霜期間・積算温度などの気候帯の目安を確認したか - [ ] 連作歴と過去の病害発生履歴を確認したか
  3. 品種特性表の照合 - [ ] 早晩性が作期・気候帯に合っているか - [ ] 耐病性評価が連作歴のリスクに対応しているか(連作圃場では「強」評価を優先) - [ ] 食味・形状評価が販路要求と一致しているか
  4. 種苗の入手条件の確認 - [ ] 有機種苗の入手可否を確認したか - [ ] 入手できない場合の例外取り扱いを認証機関に確認したか
  5. 最終候補の絞り込み - [ ] 候補が複数残る場合、食味・形状の評価差で順位をつけたか - [ ] 試作(小面積)での検証計画を立てたか

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

収量性だけで品種を選ぶ

販路の規格や食味要求に合わず、規格外率が上がり単価が下がる

販路の要求品質を先に確定してから品種を比較する

耐病性評価を確認せず慣行向け品種を使う

化学合成農薬に頼れないため発病時の対処手段が限られる

連作歴・圃場の病害リスクを踏まえ耐病性「強」を優先する

気候帯に合わない早晩性を選ぶ

登熟不足や低温障害で収量・食味が低下する

都道府県の奨励品種資料・栽培暦で作期適性を確認する

有機種苗の入手確認を後回しにする

認証上の扱いが曖昧なまま播種し、監査で指摘を受ける

種苗調達前に認証機関へ入手条件・例外規定を確認する

一品種に全面積を集中する

気象リスクや病害発生時に全量への影響が大きい

早晩性や耐病性の異なる品種を組み合わせ分散する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 販路の要求品質(規格・食味・出荷時期)を先に確定する
  2. 自圃場の土壌群・気候帯に合う早晩性・草姿を選ぶ
  3. 有機栽培では耐病性・耐虫性を最優先項目として評価する
  4. 種苗の入手条件(有機種苗の優先使用)を認証機関で確認する
  5. 条件を満たす候補の中から食味・形状で最終選定する

現場実践課題

自分の圃場で栽培予定の作目について、品種特性表を2〜3品種分集め、以下の記録表に整理する。試作が可能であれば小面積で2品種を比較栽培し、生育と収穫物の品質を記録する。

品種名

早晩性

耐病性評価

食味・形状の特徴

自圃場との適合判断

種苗の入手状況(有機種苗の有無)

例: A品種

中生

根こぶ病に強

糖度やや高め、玉揃い良

低地土・多湿地帯に適合

有機種苗あり

例: B品種

早生

評価記載なし

食感良いが裂果しやすい

気候帯は適合、耐病性要確認

慣行種苗のみ、例外規定を要確認

現場で使える!専門用語ミニ辞書

早晩性(そうばんせい)
品種が生育・収穫に至るまでの日数の長短や、温度・日長への反応の違いを示す特性
草姿(そうし)
茎葉の立ち方や広がり方など、株全体の形状
耐病性(たいびょうせい)
特定の病害に対して発病しにくい、または発病しても被害が軽い性質
奨励品種(しょうれいひんしゅ)
都道府県などが地域の気候・土壌条件に適すると評価し、栽培を推奨する品種
有機種苗(ゆうきしゅびょう)
有機JAS基準に適合した方法で生産された種子・苗
規格外率(きかくがいりつ)
収穫物のうち出荷規格に合わず等級落ちまたは出荷不可となる割合

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農産物の日本農林規格」
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 農研機構 緑肥利用マニュアル
  • 都道府県の奨励品種資料・栽培暦(各都道府県農業試験場等発行)

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    砂質土で保水力が弱く、夏場はかん水頻度が高くなる圃場でニンジンを栽培する計画がある。出荷先は市場で、サイズ揃いの良さが求められている。

    この圃場・販路条件での品種選定・圃場管理として最も適切な判断はどれか。

  2. Q2/2

    低地土で排水性がやや劣る圃場があり、過去にアブラナ科野菜で根こぶ病の発生歴がある。夏季は高温多湿が続く地域で、直売所向けにハクサイを通年に近い形で出荷したいと考えている。

    この圃場・販路条件での品種選定として最も適切な判断はどれか。

学習状況を確認しています…

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