TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

土づくりの年間設計

本サイトはアフィリエイトプログラムに参加しており、記事内のリンク経由で商品やサービスが購入された場合、運営者が報酬を受け取ることがあります。掲載内容は公開情報をもとに独自に構成しています。

PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    前章(土壌診断の読み方と処方)の内容を振り返る。

    前作の生育後半に下位葉から黄化が進んだ場合、土壌診断上まず疑うべき課題はどれか。

  2. Q2/2

    土づくりの年間設計を始める前に、資材の分解速度の違いについて確認する。

    堆肥・緑肥・有機質資材(油かす等)の分解速度とタイミングの考え方として、最も適切なものはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 堆肥・緑肥・有機質資材のそれぞれの働きと分解速度の違いを理解し、年間のスケジュールに組み込むことができる
  • 前章で立てた土壌診断の処方を、作付け計画と連動させた「土づくりカレンダー」として設計できる
  • 土壌群・気候帯・作目回転の違いに応じて、投入時期と量を調整する判断理由を説明できる

所要時間の目安: 90分 (圃場での作業計画作成を含めると半日)

結論

土づくりの年間設計は、次の順序で判断します。

  1. 前作の土壌診断結果 (phase1-soil-diagnosis) をもとに、不足養分・pH・物理性の課題を整理する
  2. 作付け計画 (作目・作期) を軸に、堆肥・緑肥・有機質資材を投入できる「空き期間」を洗い出す
  3. 堆肥は年1回を基本に、完熟度を確認してから作付けの余裕をもって施用する
  4. 緑肥は休閑期・端境期に組み込み、マメ科 (窒素供給) かイネ科 (養分保持・物理性改善) かを土壌診断の結果で選ぶ
  5. 緑肥すき込みから定植までは3〜4週間を標準の目安とし、分解に伴うガス障害や窒素飢餓を避ける
  6. 有機質資材 (油かす・米ぬか等) は速効性を補う位置づけとし、堆肥・緑肥で満たせない不足分のみに使う
  7. 地域差の大きい施肥量の閾値は、都道府県の施肥基準で確認する
  8. 資材の有機JAS適合性は、別表と認証機関・ラベルで個別に確認する

原理: なぜ年間で設計する必要があるか

土づくりは時間軸を持つ営み

有機栽培では化学肥料のように短期間で養分を補給する手段が限られるため、土壌中の有機物が分解者 (細菌・糸状菌・放線菌) によって分解され、養分として作物に供給されるまでの時間を見込んで設計する必要があります。細菌は易分解性の有機物を速く分解し、糸状菌は難分解性の繊維質 (木質・わら等) を時間をかけて分解し、放線菌は分解の後期に有機物をさらに安定化させる役割を担います。この分解の順序とスピードの違いが、堆肥・緑肥・有機質資材それぞれの「効き始めるまでの時間」の違いの背景にあります。堆肥は施用から数週間から数か月かけて緩やかに養分を放出し、油かすや米ぬかなどの有機質資材は比較的速く分解が進みます。この違いを踏まえて投入のタイミングをずらすことが、年間設計の核心です。

緑肥の多面的な働き

緑肥は単なる有機物補給ではなく、複数の働きを同時に持ちます。マメ科緑肥は根粒菌との共生によって大気中の窒素を固定し、後作の窒素供給源となります。イネ科緑肥は深く広がる根系で土壌中に残った余剰養分 (特に硝酸態窒素) を吸収・保持し、流亡を防ぎます。また、緑肥の根が土壌中に伸びることで物理性 (孔隙・団粒構造) が改善され、心土側への根の伸長や通気性の向上にもつながります。地表を覆うことで雑草の発生を抑え、土壌の乾燥や侵食も軽減します。これらの働きのどれを重視するかは、土壌診断で明らかになった課題 (窒素不足か、過剰な養分の滞留か、物理性の悪化か) によって選択します。

すき込みから定植までの期間を置く理由

緑肥をすき込むと、土壌中の微生物が急激に活性化し有機物を分解し始めます。この分解の初期段階では、微生物自身が炭素源とともに窒素を取り込むため、一時的に作物が利用できる窒素が減少する「窒素飢餓」が起こり得ます。また、未分解の有機物が多い状態で定植すると、分解過程で発生するガス (有機酸やアンモニアなど) が根に障害を与えることもあります。これらを避けるため、すき込みから定植までは3〜4週間を標準の目安とします (農研機構の緑肥利用マニュアルに基づく)。この期間は緑肥の種類 (C/N比) や気温によって調整が必要で、気温が低い時期は分解が遅くなるため、より長い期間を見込みます。

土壌群による違い

黒ボク土は腐植に富み保肥力が高い一方、リン酸が固定されやすい性質があります。低地土は水はけや排水性の課題が出やすく、砂質土は保肥力・保水力が低く、有機物の分解も速く進みやすい傾向があります。これらの土壌群の性質によって、堆肥の投入量や緑肥の選択 (物理性改善を優先するか、養分保持を優先するか) の判断が変わります。地域の土壌群と気候帯に応じた具体的な施肥量の閾値は、都道府県の基準で確認します。

判断の実例

実例1: 連作で窒素が不足気味の圃場

状況: 前作の土壌診断で可給態窒素が低く、収穫物の生育後半に葉色の低下(下位葉から黄化)が見られた。作付けの空き期間は収穫後から次作定植まで約2か月。

判断: マメ科緑肥 (クリムソンクローバー等) を休閑期に導入し、すき込み後3〜4週間の分解期間を確保してから定植する。

理由: 窒素不足は下位葉の黄化という典型的な欠乏症状に現れており、マメ科緑肥の窒素固定による緩やかな供給が、堆肥単独よりも効率的に不足分を補えると判断したため。堆肥は別途、年1回のタイミングで物理性維持のために継続する。

実例2: 砂質土で養分が流亡しやすい圃場

状況: 土壌診断で保肥力(CEC)が低く、前作で施用した窒素が生育後半までに流亡していた可能性が指摘された。

判断: イネ科緑肥 (エンバク等) を端境期に導入し、余剰養分の吸収・保持と有機物供給を同時に狙う。堆肥は少量ずつ複数回に分けて施用する方向に切り替える。

理由: 砂質土は保肥力が低く一度に大量の養分を投入しても流亡しやすいため、緑肥による養分の一時保持と、堆肥の分割施用で流亡リスクを下げる設計の方が土壌診断の課題に整合するため。

実例3: 物理性(排水性)に課題がある低地土の圃場

状況: 土壌診断と現地観察で、作土の団粒構造が乏しく、降雨後に滞水しやすいことが確認された。

判断: 緑肥 (イネ科中心) を2作連続で組み込み、根による物理性改善を優先する。堆肥は完熟堆肥を選び、過剰な未熟堆肥の投入は避ける。

理由: 物理性の課題は根の伸長による団粒形成が有効であり、単年の堆肥投入だけでは改善に時間がかかるため、緑肥を複数作にわたって継続する設計とした。未熟堆肥は分解時にガス障害や一時的な窒素飢餓を招くリスクがあるため避ける。

手順と判断基準

  • [ ] 前作の土壌診断結果を確認し、不足養分・pH・物理性の課題を一覧化する
  • [ ] 年間の作付け計画(作目・作期)を整理し、投入できる空き期間を洗い出す
  • [ ] 堆肥の施用予定を立てる: 年1回を基本とし、完熟度(臭気・温度低下・色)を確認してから施用する
  • [ ] 緑肥の種類を選ぶ: 窒素供給を重視するならマメ科、養分保持・物理性改善を重視するならイネ科
  • [ ] 緑肥のすき込み時期を定め、定植まで3〜4週間の分解期間を確保する (気温が低い時期はより長く見込む)
  • [ ] 有機質資材(油かす・米ぬか等)は堆肥・緑肥で満たせない不足分のみに限定して計画する
  • [ ] 施肥量の閾値は都道府県の施肥基準で確認し、土壌群・気候帯の違いを反映する
  • [ ] 使用予定の資材が有機JASの別表に適合するか、認証機関・ラベルで個別に確認する
  • [ ] 家畜ふん堆肥を使う場合、堆肥化の過程で化学合成資材が混入していないこと、発酵が十分進んでいること(未発酵のものは使わない)を確認する
  • [ ] 年間計画を記録表に落とし込み、翌年の土壌診断結果と照合できる形にする

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

緑肥をすき込んですぐに定植する

分解初期の窒素飢餓やガス障害で生育不良を招く

すき込みから定植まで3〜4週間の分解期間を確保する(気温が低い場合は延長)

未発酵の家畜ふん堆肥を施用する

未分解の有機物がガス障害や病害リスクを招く

発酵の進み具合(臭気・温度履歴)を確認し、完熟堆肥のみを使う

土壌診断の結果を見ずに毎年同じ資材を同量投入する

課題(窒素不足か物理性か)とズレた投入になり改善が進まない

前作の土壌診断結果をもとに毎年投入計画を見直す

堆肥と緑肥と有機質資材を同時期に集中投入する

養分過多や分解競合で根傷みや生育バランスの乱れを招く

投入時期を分散させ、分解速度の違いを踏まえてスケジュールを組む

施肥量を他地域の数値をそのまま流用する

土壌群・気候帯の違いで過不足が生じる

都道府県の施肥基準で地域の数値を確認する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 前作の土壌診断結果から課題(窒素・pH・物理性)を整理する
  2. 作付け計画から堆肥・緑肥・有機質資材を投入できる空き期間を洗い出す
  3. 堆肥は年1回を基本とし、完熟度を確認してから施用する
  4. 緑肥は課題に応じてマメ科(窒素供給)かイネ科(養分保持・物理性改善)を選ぶ
  5. 緑肥すき込みから定植まで3〜4週間の分解期間を確保する
  6. 有機質資材は堆肥・緑肥で満たせない不足分のみに限定する
  7. 地域差の大きい施肥量の閾値は都道府県の基準で確認する
  8. 資材の有機JAS適合性は別表と認証機関・ラベルで個別に確認する

現場実践課題

自分の担当圃場について、前章の土壌診断結果をもとに、1年間の土づくりカレンダーを作成してください。堆肥・緑肥・有機質資材それぞれの投入時期・資材名・量の計画を立て、実施後に記録を残します。

時期

資材・作業

計画量/内容

目的(課題との対応)

実施日

実施後の所見

例: 収穫後(休閑期開始)

マメ科緑肥の播種

〇〇kg/10a

窒素不足への対応

例: 緑肥すき込み後3〜4週間

堆肥施用

完熟堆肥〇〇kg/10a

物理性維持

例: 定植直前

有機質資材(油かす)

〇〇kg/10a

不足分の速効補給

現場で使える!専門用語ミニ辞書

完熟堆肥(かんじゅくたいひ)
発酵・分解が十分進み、臭気や発熱がおさまった堆肥。未発酵のものはガス障害や病害リスクがあるため使用を避ける。
C/N比(しーえぬひ)
有機物に含まれる炭素と窒素の比率。比率が高い(炭素が多い)資材ほど分解に時間がかかり、窒素飢餓を招きやすい。
窒素飢餓(ちっそきが)
微生物が有機物を分解する際に土壌中の窒素を取り込み、作物が利用できる窒素が一時的に不足する現象。
可給態窒素(かきゅうたいちっそ)
作物が利用できる形態の窒素。土壌診断で確認する代表的な指標の一つ。
休閑期(きゅうかんき)
作物を栽培せず土地を休ませる期間。緑肥導入や土づくり作業に充てられる。
団粒構造(だんりゅうこうぞう)
土壌粒子が集まり小さな塊(団粒)を作っている構造。通気性・排水性・保水性のバランスが良くなる。

参考(一次情報)

  • 農研機構 緑肥利用マニュアル
  • 有機農業の技術体系に関する資料(農林水産省)
  • みどりの食料システム戦略(農林水産省)
  • 有機JAS制度の解説資料(農林水産省)
  • 気象庁 大気中の二酸化炭素濃度の観測データ

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    前作の土壌診断で可給態窒素が低く、生育後半に下位葉から黄化が見られた圃場。収穫後から次作定植までの空き期間は約2か月ある。

    この圃場の土づくり設計として最も適切な判断はどれか。

  2. Q2/2

    低地土の圃場で、土壌診断と現地観察により作土の団粒構造が乏しく、降雨後に滞水しやすいことが確認された。

    この圃場の土づくり設計として最も適切な判断はどれか。

学習状況を確認しています…

アグリコメ 0

現場のプロの視点で、この記事への意見や経験を共有しましょう。

コメントの投稿と「現場でそう思う」は無料会員限定です。LINE なら1タップで登録できます。

まだコメントはありません。最初の見解を書いてみませんか?

NOUKARA TOOLS

経営の次の一手を、数字で確かめる。

作付け収益シミュレーター16品目の収益性を比べて、来期の作付け計画の材料にできます使ってみる →すべてのツールを見る →
← 営農技術ライブラリへ戻る