TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

水稲の育苗と品種・種子

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    有機JASにおける水稲種子消毒の基本的な考え方として正しいものはどれか。

  2. Q2/2

    水稲育苗において、移植適期を判断する際に最も重視すべき基準の組み合わせはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • コシヒカリを中心とした水稲品種の特性と、有機栽培における種子の扱い(温湯消毒・塩水選・催芽)の判断根拠を説明できる。
  • 育苗日数・苗箱当たり播種量・苗質(葉齢・草丈・根の張り)の基準値をもとに、移植適期の苗かどうかを判定できる。
  • 種子由来の病害(ばか苗病・苗立枯病など)のリスクを、有機JASで認められる範囲の処理で抑える判断ができる。

所要時間の目安: 90分(座学60分、実苗・種子サンプルを使った演習30分)

結論

水稲の育苗と種子管理は、次の順序で判断します。

  1. 種子の健全性を先に確認する: 自家採種・購入種子にかかわらず、充実度(容積重・粒ぞろい)と病害履歴を確認する。disease歴がある場合は温湯消毒を優先する。
  2. 消毒方法を選ぶ: 有機JASでは化学合成殺菌剤は使えないため、温湯消毒(種子を60℃前後の湯に一定時間浸す方法。資材・器具の詳細は都道府県の指導資料と認証機関の確認事項に沿う)を基本とする。
  3. 塩水選で充実粒を選別する: 比重で浮く未充実粒・被害粒を除く。塩水選の比重設定は品種・地域の慣行値を都道府県の基準で確認する。
  4. 催芽・播種量を決める: 品種の発芽特性と育苗箱の使用目的(機械移植・手植え)に応じて播種量を調整する。密播は苗の徒長とムレ苗の原因になるため避ける。
  5. 育苗日数と苗質で移植適期を判定する: 葉齢・草丈・根の状態を基準に、暦日だけに頼らず苗質で判断する。
  6. 品種特性と作期を合わせる: コシヒカリは倒伏・いもち病に注意が必要な特性があるため、栽培暦・耐倒伏性品種との組み合わせを圃場条件に応じて検討する。

原理: 種子伝染性病害と苗質形成のしくみ

種子についている病原菌と温湯消毒の原理

ばか苗病や苗立枯病の一部は種子表面・内部に病原菌が付着・潜在し、吸水とともに活動を始めます。温湯消毒は、種子に害を与えない温度帯で病原菌を死滅させる原理を利用した物理的防除法です。処理温度・時間が不足すると防除効果が不十分になり、過剰だと発芽率が低下するため、処理条件の管理が重要です。有機JASでは化学合成殺菌剤による種子消毒が認められないため、温湯消毒や適合資材の利用が中心となります。使用できる資材かどうかは、有機JASの別表と認証機関・ラベル表示で必ず確認します。

塩水選の原理

種子の充実度は比重に反映されます。比重の高い種子ほど胚乳の養分が充実しており、発芽後の初期生育(根の伸長、第1葉の展開)が安定します。塩水選は比重差を利用して未充実粒・被害粒・雑草種子を分離する操作で、種子の均一性を高め、苗立ちのばらつきを減らします。

苗質形成と器官の役割

育苗期の苗は、根で水分・養分を吸収し、葉で光合成を行い、茎(葉鞘)が生育の支持と物質輸送を担います。健苗の条件は、葉齢が揃い、草丈が徒長していないこと、根が白く量が十分であることです。窒素過多の床土や高温多湿の育苗環境では葉身が徒長し、根の発達が追いつかず、移植後の活着が遅れます。逆に低温・水分不足は葉齢の進みを遅らせ、苗が小さいまま老化する「老化苗」の状態を招きます。いずれも移植後の初期生育と収量・食味に影響するため、苗質の判定は移植適期の判断そのものです。

品種特性と作期・耐性

コシヒカリは食味評価が高く主力品種として広く作付けられますが、稈が長く倒伏しやすい特性があり、いもち病への耐性も品種・系統によって異なります。品種特性(耐倒伏性、耐病性、出穂期)は都道府県の奨励品種特性表に整理されているため、地域の気候帯・土壌群(砂質土は倒伏しにくく、重粘土は倒伏しやすい傾向があるなど)と合わせて品種選定・作期を検討します。

判断の実例

実例1: 自家採種種子にばか苗病の発生歴がある場合

状況: 前年の圃場でばか苗病の発生が一部確認された自家採種のコシヒカリ種子を使用する予定。

判断: 温湯消毒を実施してから播種する。

理由: ばか苗病は種子伝染性が高く、無処理の種子をそのまま使うと苗床全体への伝播リスクが高い。有機JASでは化学合成殺菌剤が使えないため、物理的防除である温湯消毒が現実的な対策となる。処理温度・時間は種子の発芽力を損なわない範囲で管理する必要があるため、都道府県の指導資料に沿った条件で実施する。

実例2: 育苗箱の苗が葉齢3.0、草丈が徒長気味で葉色が濃い場合

状況: 移植予定日が近いが、苗箱の苗を見ると草丈が通常より高く、葉色が濃緑で、根の量がやや少ない。

判断: 予定日通りに移植せず、苗質を優先して移植日を遅らせるか、やむを得ず移植する場合は浅植え・活着管理を強化する。

理由: 草丈の徒長と葉色の濃さは、床土中の窒素が過多であるか、育苗期の温度・水分管理が適切でなかったことを示す兆候である。根量が少ない苗を移植すると、活着が遅れ、初期生育が不安定になり、後の収量・品質に影響する可能性がある。暦日だけでなく苗質(葉齢・草丈・根の状態)で適期を判断する原則に従う。

実例3: 重粘土の圃場でコシヒカリの倒伏リスクが高いと見込まれる場合

状況: 過去の作付けで倒伏が発生した重粘土の圃場に、再度コシヒカリを作付ける計画がある。

判断: 作期・施肥設計を見直すか、耐倒伏性のある品種との組み合わせを地域の奨励品種情報と合わせて検討する。

理由: コシヒカリは稈長が長く倒伏しやすい特性があり、重粘土は保水性が高く生育後期まで肥効が残りやすいため、倒伏リスクがさらに高まりやすい。品種特性と土壌群の組み合わせを事前に確認し、作期や栽培管理で対応する判断が必要になる。

手順と判断基準

  1. 種子の入手・保管状態を確認する - 粒ぞろい・容積重が基準を満たしているか(基準値は都道府県の種子検査基準で確認) - 前年までの病害発生履歴があるか → ある場合は温湯消毒を優先
  2. 消毒方法を選択する - 有機JAS適合の方法(温湯消毒、適合資材)であるか、別表と認証機関・ラベルで確認する - 処理温度・時間が種子の発芽力を損なわない範囲か確認する
  3. 塩水選を行う - 比重設定は都道府県の基準・慣行値に従う - 浮いた未充実粒・被害粒・雑草種子を除く
  4. 催芽・播種量を決める - 催芽は発芽が揃う程度(ハト胸状の芽出し)を目安とする - 播種量は機械移植用か手植え用かで変える。密播にしないことを優先する
  5. 育苗中の苗質を定期確認する - 葉齢の進み方が揃っているか - 草丈が徒長していないか(床土の窒素・灌水・温度管理を見直す) - 根が白く、量が十分にあるか
  6. 移植適期を判定する - 暦日(播種後の日数)だけでなく、葉齢・草丈・根の状態を総合して判断する - 苗質が基準に満たない場合は、移植を遅らせるか管理を見直す
  7. 品種特性と作期・圃場条件を照合する - 土壌群(砂質土・重粘土など)、気候帯、倒伏・病害リスクを踏まえ、品種・作期を選定する - 判断に迷う場合は都道府県の奨励品種特性表・栽培暦を確認する

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

種子消毒を省略する

種子伝染性病害(ばか苗病など)が苗床全体に広がるリスクがある

発生履歴の有無にかかわらず、温湯消毒などJAS適合の方法を基本とする

密播して播種量を増やす

苗が徒長し、根量不足で活着が遅れる

用途(機械移植・手植え)に応じた播種量を守る

暦日だけで移植日を決める

苗質が基準に達していない苗を移植し、初期生育が不安定になる

葉齢・草丈・根の状態を確認してから移植日を決める

コシヒカリを地域条件を考慮せず全面作付けする

重粘土や多肥圃場で倒伏リスクが高まる

土壌群・施肥設計と品種特性を照合し、必要に応じて品種・作期を見直す

消毒資材の適合性を確認せず使用する

有機JASの基準に適合しない資材を使うと認証に影響する

別表と認証機関・ラベル表示で使用可否を必ず確認する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 種子は健全性(充実度・病害履歴)を先に確認する。
  2. 消毒は有機JAS適合の方法(温湯消毒など)を基本とし、資材使用の可否は別表と認証機関で確認する。
  3. 塩水選で充実粒を選別し、苗立ちのばらつきを減らす。
  4. 播種量は密播を避け、用途に応じて設定する。
  5. 移植適期は暦日だけでなく葉齢・草丈・根の状態(苗質)で判断する。
  6. 品種特性(倒伏性・耐病性)は土壌群・気候帯と照合して作期・品種を選定する。

現場実践課題

自分の圃場・育苗施設で、次の課題に取り組み、記録をつけてください。

  • 使用予定の種子(自家採種・購入問わず)について、消毒方法と処理条件(温度・時間)を記録する。
  • 育苗期間中、週1回を目安に苗箱を抽出し、葉齢・草丈・根の状態を観察・記録する。
  • 移植日を決定した際の判断根拠(苗質の基準を満たしたか、暦日のみで判断していないか)を記録する。

記録例:

観察日

播種後日数

葉齢

草丈(cm)

根の状態

判断・メモ

例: 5/10

15日

2.5

8

白根多い

順調、継続観察

例: 5/17

22日

3.2

13

やや少ない

徒長気味、灌水・温度見直し

現場で使える!専門用語ミニ辞書

温湯消毒(おんとうしょうどく)
種子を一定温度の湯に浸し、病原菌を物理的に死滅させる種子消毒法。有機JASで化学合成殺菌剤が使えない場合の基本手段。
塩水選(えんすいせん)
塩水の比重を利用して充実粒と未充実粒・被害粒を選別する作業。
催芽(さいが)
播種前に種子を発芽直前の状態まで促す処理。発芽の揃いを高める。
ばか苗病(ばかなえびょう)
種子伝染性の糸状菌病害で、苗が徒長して枯死する症状を示す。
苗立枯病(なえたちがれびょう)
育苗期に苗が立ったまま枯れる病害の総称で、複数の病原菌が関与する。
老化苗(ろうかなえ)
生育が停滞したまま苗齢だけが進み、活着・初期生育が劣る苗の状態。
奨励品種(しょうれいひんしゅ)
都道府県が地域の気候・土壌条件に適すると評価し、栽培を推奨する品種。

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農業の推進に関する法律」および有機JAS制度関連資料
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 農研機構 水稲育苗・栽培技術関連マニュアル
  • 都道府県の水稲奨励品種特性表・栽培暦・種子取扱基準

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    自家採種のコシヒカリ種子を使用する予定である。容積重・粒ぞろいは基準を満たしており、過去3年間この圃場でばか苗病や苗立枯病の発生は確認されていない。

    この種子の消毒方法として最も適切な判断はどれか。

  2. Q2/2

    播種後20日のコシヒカリの苗箱を確認したところ、葉齢が2.0と進みが遅く、草丈は7cmとやや低く、葉色が淡く、生育が停滞している様子が見られた。移植予定日は暦日通りに近づいている。

    この苗の状態をどう判断するのが適切か。

学習状況を確認しています…

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