機能性成分、腸細胞へ直接送達
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結論:腸に届く量を増やす新しい送達技術
アルゼンチン発のスタートアップ「BioClé(バイオクレ)」が、機能性成分を腸の細胞まで直接届ける新しい送達技術を開発している。使われているのは細菌が作る微小な粒子「細菌細胞外小胞(bEV)」で、短鎖脂肪酸や酵素、ペプチドなどを包み込んで運ぶ。同社は酪酸という成分での動物実験で、同じ投与量でも遊離体(カプセルなどに包まれていない成分そのもの)の2倍超の効果を確認したとしている。
機能性成分は「飲んでも体内でうまく吸収されない」という課題を抱えることが多い。BioCléの技術はこの課題に挑む一方、ヒトでの臨床試験はこれからで、量産や規制対応のハードルも残る。期待と検証段階という両面を押さえて見ていきたい。
何が新しいのか
従来のカプセルやリポソーム、ナノ粒子による送達システムは、腸管を通過する間に成分が分解されるのを防ぐ「受動的」な保護にとどまっていた。これに対しBioCléのbEVは、腸の細胞と結合しやすい性質(親和性)を持ち、細胞内部にまで成分を運び込む「能動的」な送達を狙う点が異なるという。
技術の仕組み
BioCléは食品用途で既に使われているプロビオティクス(有益菌)を遺伝子操作し、bEVの生産量を大幅に増やした。粒子の大きさは直径200〜300ナノメートルで、成分を積み込む方法は二通りある。
- 生産段階で菌自体に目的の成分を作らせる方法
- 別途生産した成分を、後からbEVに取り込ませる方法
製造工程では発酵液からろ過と遠心分離でbEVを分離し、液体または乾燥粉末に加工する。凍結乾燥した状態では常温で6カ月以上の安定性を確認済みで、スプレードライなど他の加工法も検討中としている。
酪酸から始める理由
最初のターゲット成分は、腸内環境との関連で注目される短鎖脂肪酸「酪酸」だ。本来は大腸内の細菌が食物繊維を分解して作るが、食物繊維の摂取量が少ない人はサプリメントで補うケースが多い。ただし経口摂取した酪酸は十二指腸で急速に吸収されてしまい、本来働くべき大腸まで届きにくいという課題が指摘されている(2023年のNutrients誌のレビュー)。BioCléはbEVを使い、酪酸を大腸の細胞(コロノサイト)に直接届けることでこの課題に対応できるとしている。
従来技術との比較
項目 | カプセル・リポソーム等 | BioCléのbEV |
|---|---|---|
送達の仕組み | 受動的(腸管内で放出) | 能動的(細胞内まで輸送) |
粒子サイズ | 製品により様々 | 200〜300ナノメートル |
酪酸での効果(動物実験) | 基準値 | 遊離体の2倍超 |
安定性 | 製品により様々 | 常温・凍結乾燥で6カ月以上 |
資金調達と事業化計画
BioCléは2025年10月の設立で、Big Idea VenturesとGridXからプレシードで50万ドルを調達したほか、助成金も獲得している。まずは米国市場を対象に、食品用途のGRAS(一般に安全と認められる物質)や、サプリメント用途のNDI(新規食品成分)の規制パスについて専門家と検討中だ。ペット向け栄養product分野にも関心を示している。EU市場は、新規食品や遺伝子組み換えに関する規制が複雑なため、長期的な目標と位置づけている。
事業モデルは、成分サプライヤーや消費者向けヘルスケア企業への技術ライセンス供与で、前払い金とロイヤリティを得る形を想定。NestléやGivaudanなど大手企業とも対話を始めており、米国企業との間で最初の資料提供契約(有償パイロットに向けた準備段階の契約)も締結済みという。ヒトでの臨床試験は2027年の開始を目指すが、試験計画はまだ策定されていない。マウスでの試験結果は2025年12月に判明する見込みだ。
日本のアグリテック・スタートアップへの示唆
この技術はサプリメント・機能性食品向けだが、発酵技術を使って有効成分の利用効率を高めるという発想は、国内のアグリフードテック分野の新規事業にも参考になり得る。例えば、家畜用飼料添加物や機能性農産物原料の開発を目指すベンチャーが、少量でも効果が出る成分設計を検討する際のヒントになるだろう。
ただし応用を検討する際は、以下の前提を押さえる必要がある。
- 発酵・精製設備への投資と、品質管理の体制構築が前提になること
- 食品・飼料としての規制対応(国内では食品衛生法や飼料安全法など)に時間とコストがかかること
- 効果の裏付けには、原文の企業と同様に動物試験・ヒト試験などの検証プロセスが必要なこと
- 技術をライセンス導入する場合も、自社での再現性確認や品質保証体制が欠かせないこと
海外のバイオ系スタートアップの技術をそのまま横展開できるわけではないが、「成分の利用効率を上げてコストを下げる」という発想自体は、原料コストの高い機能性成分を扱う国内企業にとって検討材料になるだろう。
まとめ
BioCléの技術は、腸の細胞に直接成分を届けることで、サプリメントや機能性食品の効果や原料の使用量を見直す可能性を示す事例だ。ただし現段階では動物実験レベルの結果にとどまり、ヒトでの実証や規制対応、量産体制の確立はこれからの課題である。機能性原料を扱う企業にとっては、技術の進展を注視しつつ、自社の原料設計やコスト構造にどう関係するかを考える材料になるだろう。あなたの現場では、機能性成分の効果や原料コストについてどのような課題を感じていますか。あなたの現場の声を、記事下のアグリコメで聞かせてください。
現場で使える!専門用語ミニ辞書
- 細菌細胞外小胞(bEV・Bacterial Extracellular Vesicles)
- 細菌が作る微小な膜構造の粒子。腸の細胞と結合しやすく、成分を細胞内に運ぶ運び屋として使われる。
- バイオアベイラビリティ(生体利用率)
- 摂取した成分のうち、実際に体内で利用される割合を示す指標。数値が高いほど少量で効果が得やすいとされる。
- 短鎖脂肪酸
- 腸内細菌が食物繊維を分解して作る脂肪酸の一種。酪酸や酢酸などが含まれ、腸内環境との関連で注目される。
- ポストバイオティクス
- 生きた菌(プロビオティクス)ではなく、菌が作り出す代謝物や成分そのものを指す概念。機能性食品分野で使われる用語。
- GRAS(Generally Recognized As Safe)
- 米国で「一般に安全と認められる」と判断された食品成分の区分。食品用途での規制パスの一つ。
- NDI(New Dietary Ingredient・新規食品成分)
- 米国でサプリメントに使う新しい成分を扱う際の規制区分。
参考
BioClé tackles bioactives' bioavailability challenge with novel delivery tech(AgFunderNews)
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アグリコメ 1
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編集部ノウカラ編集部
【編集部より】機能性成分やサプリメント原料に関わる現場の皆さんにお聞きします。原料のバイオアベイラビリティ(生体利用率)や製造コストについて、日々どのような課題を感じていますか。扱っている成分や用途もあわせて教えてください。