TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

さつまいものキュアリングと長期貯蔵

本サイトはアフィリエイトプログラムに参加しており、記事内のリンク経由で商品やサービスが購入された場合、運営者が報酬を受け取ることがあります。掲載内容は公開情報をもとに独自に構成しています。

PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    調製・乾燥・貯蔵の管理の基本として、貯蔵庫内の温度・湿度を把握する際に最も適切なやり方はどれか。

  2. Q2/2

    収穫作業で塊根の表皮に傷がついた場合、貯蔵前に注意すべきこととして最も適切なものはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • さつまいもの収穫直後にキュアリング(温度・湿度管理による傷口治癒)が必要な理由を、植物生理と病理の両面から説明できる
  • キュアリングと貯蔵それぞれの温度・湿度帯を踏まえ、現場の設備条件に応じた管理手順を組み立てられる
  • 貯蔵中に起こりやすい劣化(低温障害・腐敗・萌芽)を見分け、出荷判断と対策を一人で下せる

所要時間の目安: 60分(圃場・貯蔵庫での確認作業を含めると半日)

結論

  1. 収穫作業で必ず機械的な傷(擦過傷・切り傷)が入るため、本貯蔵の前にキュアリング(高温多湿での傷口治癒)を行う。
  2. キュアリングの条件は「温度30℃前後・湿度90〜95%・3〜7日間」を目安とし、地域・品種・貯蔵庫の仕様に応じて調整する。
  3. キュアリング後は速やかに常温付近まで徐々に温度を下げ(急冷は避ける)、本貯蔵温度帯(13〜15℃前後、湿度90%前後)に移行する。
  4. 貯蔵温度が13℃を下回る状態が続くと低温障害(内部褐変・硬化・追熟不良)が出やすくなるため、貯蔵庫は13℃を下回らないよう管理する。
  5. 貯蔵中は週単位で庫内を点検し、腐敗・萌芽・異臭の有無を確認する。異常が見つかった塊は周囲への感染拡大を防ぐため早期に隔離・除去する。
  6. 出荷のタイミングは、キュアリング終了からの経過日数と貯蔵温度の履歴を記録した上で、食味・形状(澱粉からの糖化が進み甘みが乗る時期)と市場の需要を合わせて判断する。

原理: なぜキュアリングと温度管理が貯蔵性を左右するか

傷口と病原菌の侵入経路

さつまいもは塊根であり、収穫時の掘り取り・選別・運搬の過程で表皮に微細な傷が多数入る。表皮は塊根を病原菌・乾燥から守るバリアの役割を担っており、傷口はそのバリアが欠けた状態である。傷口から黒斑病菌や軟腐病菌などが侵入すると、貯蔵中に腐敗が進み、周囲の塊根にも広がる。キュアリングは、傷口にコルク層(周皮)を形成させて自己修復させる工程であり、高温多湿条件下でこの治癒が最も早く進む。治癒が不十分なまま低温の貯蔵庫に入れると、傷口が塞がらないうちに病原菌の侵入を許し、貯蔵中の腐敗率が高まる。

低温障害のしくみ

さつまいもは熱帯・亜熱帯原産の作物であり、低温への耐性が低い。貯蔵温度が一定水準を下回る状態が続くと、細胞膜の機能が損なわれ、内部の褐変・水浸状の軟化・硬化といった低温障害(チリングインジュリー)が生じる。低温障害を受けた塊根は、貯蔵庫から出して常温に戻しても症状が進行し、食味・形状ともに商品価値を失う。これは根という貯蔵器官に蓄えられた同化産物(澱粉)の代謝が、低温によって正常に進まなくなるために起こる現象である。したがって貯蔵庫の設定温度だけでなく、庫内の温度ムラ(扉付近・床付近が低くなりやすい)にも注意が必要である。

呼吸と糖化のバランス

塊根は収穫後も生きた組織として呼吸を続けており、貯蔵中に澱粉の一部が糖に変化する(糖化)ことで甘みが増す。本貯蔵温度帯はこの糖化が緩やかに進む範囲であり、低すぎると糖化が進まず食味が乗らず、高すぎると呼吸量が増えて重量減少や萌芽が進みやすくなる。つまり貯蔵温度は「傷害を避ける下限」と「過剰な呼吸・萌芽を避ける上限」の間に収める必要がある。

湿度と腐敗・萎凋のバランス

湿度が低すぎると塊根からの水分蒸散が進み、萎凋・しわが生じて食感・外観の評価が下がる。一方で湿度が高すぎ、かつ換気が不十分だと結露が生じ、表面が濡れた状態が続くことで腐敗菌の増殖を助ける。キュアリング・貯蔵のいずれも高湿度を必要とするが、同時に庫内の空気を適度に循環させ、結露を避けることが前提となる。

判断の実例

実例1: キュアリング室の温度が安定しない

状況: 簡易のビニールハウス内にキュアリング用のスペースを設けたが、昼夜の外気温差が大きく、庫内温度が日中32℃・夜間22℃と変動していた。

判断: 加温・保温設備を追加し、昼夜とも30℃前後で安定させる。安定しないまま日数だけ経過させて本貯蔵に移さない。

理由: 傷口のコルク化は温度条件に依存して進行する。夜間に大きく温度が下がる状態では治癒が十分に進まないまま日数を消化してしまい、見た目上「キュアリング済み」であっても実際には傷口が塞がっていない塊根が混在する。結果として貯蔵中の腐敗率が読めなくなる。

実例2: 貯蔵庫の温度計は13℃表示だが、庫内で傷みが出た

状況: 貯蔵庫の制御盤は13℃を表示していたが、出入口付近に積んだコンテナの塊根で内部褐変が複数見つかった。

判断: 庫内の複数箇所(奥・中央・出入口付近、上段・下段)に温度計を設置し、温度ムラの実態を把握する。出入口付近は外気の影響を受けやすいため、コンテナの配置を見直すか、保温対策を追加する。

理由: 制御盤の表示は庫内の代表点の温度であり、庫内全体の温度を保証するものではない。扉の開閉頻度が高い出入口付近は外気温の影響を受けて局所的に低温になりやすく、低温障害は局所的な温度低下でも発生しうる。

実例3: 貯蔵3か月目に萌芽が目立ち始めた

状況: キュアリング後、13〜15℃・湿度90%前後で貯蔵していたさつまいもの一部で、3か月目に芽が伸び始めた。

判断: 萌芽が見られた塊は優先して出荷・加工に回す。庫内温度が設定より高くなっていないか、換気による外気の流入がないかを点検する。

理由: 萌芽は休眠が解除され呼吸・代謝が活発化しているサインであり、澱粉の消耗と食味・形状の低下が進む前段階にあたる。温度が設定よりわずかでも高い状態が続くと萌芽が早まるため、温度記録と突き合わせて原因を確認する。

手順と判断基準

ステップ1: 収穫・選別時の取り扱い

  • [ ] 掘り取り・運搬時の衝撃を減らし、傷を最小限にする
  • [ ] 外傷が大きい塊根、病斑がある塊根はキュアリング前に選別して除く
  • [ ] コンテナ・通い箱は清潔な状態にし、前作の病原菌の持ち込みを防ぐ

ステップ2: キュアリング

  • [ ] 温度30℃前後・湿度90〜95%を維持できる設備・場所を確保する
  • [ ] 期間は3〜7日間を目安とし、品種・設備条件に応じて都道府県の指導資料で確認する
  • [ ] 期間中は庫内の複数点で温度・湿度を記録する

ステップ3: キュアリング後の移行

  • [ ] キュアリング終了後、急激な温度低下を避け、段階的に常温付近まで下げる
  • [ ] 本貯蔵庫に移す前に、傷口が治癒しているか(表面の乾燥・コルク化)を抜き取りで確認する

ステップ4: 本貯蔵

  • [ ] 貯蔵温度は13〜15℃前後、湿度90%前後を目安に維持する(13℃を下回らないよう管理する)
  • [ ] 庫内の複数箇所に温度計・湿度計を設置し、温度ムラを把握する
  • [ ] 週1回以上、庫内を巡回し、腐敗・萌芽・異臭・結露の有無を確認する
  • [ ] 異常が見つかった塊は、周囲への感染拡大を防ぐため速やかに隔離・除去する

ステップ5: 出荷判断

  • [ ] 貯蔵温度・湿度の記録と経過日数を突き合わせ、糖化が進んだ時期を把握する
  • [ ] 萌芽・軟化が見られた塊を優先的に先出しする
  • [ ] 出荷前に抜き取りで食味・形状を確認する

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

キュアリングを省略して直接貯蔵する

傷口が塞がらないまま低温にさらされ、腐敗が広がりやすい

収穫後は必ずキュアリング工程を経てから本貯蔵に移す

キュアリング後に急冷する

急激な温度変化で組織にストレスがかかり、傷害を誘発しやすい

常温付近まで段階的に温度を下げてから貯蔵庫に移す

貯蔵庫の代表点の温度だけを信頼する

出入口付近や床付近など局所的な低温・結露を見逃す

庫内の複数箇所に温度計・湿度計を設置し、定期的に記録する

傷んだ塊をそのまま放置する

腐敗菌が周囲の塊根に広がり、被害が拡大する

巡回時に異常を見つけたら速やかに隔離・除去する

貯蔵温度を必要以上に下げて「安全側」にする

低温障害・糖化不良を招き、食味・形状が損なわれる

13〜15℃前後の範囲を維持し、下回らないよう管理する

まとめ(判断基準の再掲)

  • 収穫直後は必ずキュアリング(30℃前後・湿度90〜95%・3〜7日間)を行い、傷口を治癒させてから本貯蔵に移す。
  • キュアリングから本貯蔵への移行は段階的に温度を下げ、急冷を避ける。
  • 本貯蔵温度は13〜15℃前後、湿度90%前後を維持し、13℃を下回らないよう庫内の温度ムラまで把握する。
  • 週1回以上の巡回で腐敗・萌芽・結露を確認し、異常は早期に隔離・除去する。
  • 出荷判断は、温度・湿度の記録と経過日数、食味・形状の抜き取り確認を合わせて行う。

現場実践課題

自分の圃場・貯蔵施設で、今期の収穫分について以下を記録する。

  1. キュアリング室・本貯蔵庫それぞれに温度計・湿度計を複数設置する(出入口付近・中央・奥、上段・下段を含む)
  2. キュアリング期間中と本貯蔵の期間中、週1回以上の頻度で記録する
  3. 貯蔵中に見つかった異常(腐敗・萌芽・結露)の発生時期と場所を記録し、原因(温度履歴・配置)と照らし合わせる

記録日

工程(キュアリング/本貯蔵)

設置場所

温度(℃)

湿度(%)

異常の有無

メモ

例: 10/5

キュアリング

中央

30

92

なし

加温機稼働中

例: 11/20

本貯蔵

出入口付近

11

88

内部褐変あり

扉開閉頻度高い区画

現場で使える!専門用語ミニ辞書

キュアリング(きゅありんぐ)
収穫時の傷口を高温多湿条件で治癒させる工程。コルク層(周皮)の形成を促す
コルク層/周皮(こるくそう/しゅうひ)
傷口を塞ぐために新しく形成される保護組織
低温障害(ていおんしょうがい)
作物が耐えられる温度を下回ることで生じる細胞機能の損傷。内部褐変・軟化などの症状が出る
糖化(とうか)
貯蔵中に澱粉の一部が糖に変化し、甘みが増す現象
萌芽(ほうが)
休眠が解除され芽が伸び始めること。貯蔵中は澱粉の消耗と品質低下につながる
黒斑病(こくはんびょう)
さつまいもの代表的な貯蔵病害の一つで、黒褐色の病斑を生じる糸状菌による病気
軟腐病(なんぷびょう)
細菌により組織が軟化・腐敗する病気で、傷口から侵入しやすい

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農産物の日本農林規格」
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
  • 都道府県農業試験場・普及指導センターのさつまいも貯蔵技術資料
  • 農研機構 さつまいも栽培・貯蔵に関する技術情報

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    キュアリング後、13〜15℃・湿度90%前後で管理している貯蔵庫で、貯蔵開始から2か月半が経過した時点の巡回で、庫内の一区画のコンテナに芽が伸び始めた塊根が複数見つかった。記録を確認すると、その区画は換気扇に近く、点検した温度計ではここ数週間16℃前後を示す日が多かった。

    このときの対応として最も適切なものはどれか。

  2. Q2/2

    収穫後、倉庫の一角をビニールシートで囲んでキュアリングスペースとした。日中は保温により32℃前後まで上がるが、夜間は外気温の影響で20℃近くまで下がり、この状態が4日間続いた。担当者は「4日経過したので目安の期間を満たした」として本貯蔵に移そうとしている。

    このときの判断として最も適切なものはどれか。

学習状況を確認しています…

アグリコメ 0

現場のプロの視点で、この記事への意見や経験を共有しましょう。

この記事、あなたの現場ではどう受け止めましたか? その一言が、ほかの農家の判断材料になります。

まだコメントはありません。最初の見解を書いてみませんか?

NOUKARA TOOLS

経営の次の一手を、数字で確かめる。

作付け収益シミュレーター16品目の収益性を比べて、来期の作付け計画の材料にできます使ってみる →すべてのツールを見る →
← 営農技術ライブラリへ戻る