地下鉄拒否で逆転した広告戦略
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冬のアメリカで定番となっている除菌ハンドワイプブランド「Wet Ones」が、数年ぶりの大型キャンペーンを仕掛けた。広告代理店BBH USAと組んだ「Just For Hands」は、交通当局に一部の広告出稿を拒否されるという“事件”をきっかけに、むしろ話題を広げることに成功した。予算やブランド規模は違えど、際どいインサイトの見つけ方と拒否されたときの切り返し方は、日本のスタートアップやアグリテック企業がSNSで自社サービスを広める際にも参考になる構造を持っている。
発端となったインサイト:50%超が「手以外」に使用
Wet Onesが委託した調査によると、消費者の50%以上がハンドワイプを親密な部位のケアに使った経験があると回答した。Edgewell Personal Careでサン&スキン部門のマーケティングを統括するニコール・ハリス氏は「予想外の結果で、むしろ面白いと思った」と振り返っている。
このインサイトを起点に、BBHは当初モモなど無機物を使ったユーモラスな広告案を検討したが、最終的に「ハンド・バッツ」と呼ばれるアイデアに行き着いた。指先を極端にクローズアップし、臀部のように見せる視覚トリックだ。
BBH USAのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター、ヨハン・ダヴェール氏は「一瞬、何か別のものを見ていると錯覚させ、二度見させたかった」と狙いを説明している。
地下鉄当局に拒否されて生まれた炎上ストーリー
MTAの審査落ちがPRのきっかけに
当初の媒体計画には、ニューヨーク市の地下鉄広告が含まれていた。手すりやストラップなど様々な素材に触れる地下鉄は、ワイプの“耐久テスト”にうってつけの場だったという。しかし、メトロポリタン交通局(MTA)は「Just For Hands」のクリエイティブを過激すぎるとして拒否した。
ハリス氏は「拒否されたことで、かえって物語に深みが出た」と語る。Wet OnesのPRチームはこの拒否を逆手に取り、アーンドメディア(報道や口コミによる露出)を獲得する材料として活用した。
セレブ経由のSNS拡散とスピード対応
加えて、リアリティ番組「サマーハウス」出演者のカイル・クック氏と組み、ゴシップアカウント「DeuxMoi」にハンド・バッツを持ち込む仕掛けも実施した。さらに、競合ではないフラッシャブルワイプブランド「Goodwipes」から軽い“からかい”の投稿が寄せられると、Wet Ones側は数時間のうちに新しいクリエイティブを制作してタイムズスクエアに掲出し、応酬した。ハリス氏は「在籍期間中で最速のクリエイティブ制作だった」と振り返っている。
OOH施策の全体像
キャンペーンは8月末に始動し、ニューヨーク市内を中心に複数のOOH(屋外広告)媒体を組み合わせて展開された。
媒体・施策 | 内容 |
|---|---|
LinkNYCキオスク | 街頭デジタルサイネージでの露出 |
交通シェルター広告 | バス停など待機スペースでの展開 |
デジタル新聞スタンド | 街頭の電子看板への掲出 |
ワイルドポスティング | 街中への非公式風ポスター貼付 |
バスラッピング | 市内を走るバス車体への広告 |
タイムズスクエア・テイクオーバー | 大型スクリーンでの集中掲出 |
インタラクティブウォール | 通行人にトラベルパックや個包装ワイプを配布 |
ビジュアルの撮影は、カンヌライオンズ受賞歴60回超の写真家アレ・ブルセット氏が担当した。
なぜこのキャンペーンは機能したのか
タブーすれすれの表現とブランド許容度のバランス
「ハンド・バッツ」は際どい連想をさせつつも、実際の画は指先のクローズアップにすぎない。直接的な表現を避けながら二度見を誘うことで、規制に触れるギリギリのラインを攻めている。これにより「拒否された」という事実自体がニュースになり、追加の広告費をかけずに注目を集める結果につながった。
スピード重視の体制
Goodwipesの投稿から数時間でタイムズスクエアの新クリエイティブを掲出した対応力も重要な要素だ。ブリーフを緩く保ち、現場判断でクリエイティブを素早く回転させる体制が、SNS上の偶発的な話題を逃さず拾う土台になっている。
日本のスタートアップ・アグリテック企業への応用
日本のアグリテックやD2Cブランドが大規模なOOH予算を組むのは現実的ではない場合が多い。ただし、この事例から抽出できる構造は規模を問わず応用できる。
- 意外なインサイトの発掘:既存顧客への簡単な調査で「想定外の使い方」や「隠れたニーズ」を把握する。大がかりな市場調査でなくても、SNSアンケートや問い合わせ内容の分析で代替可能。
- 規制・審査との摩擦を素材化する:広告審査や取引先の規約で出稿を断られた経験があれば、その経緯自体をSNSで発信する余地がある。ただし誇張や事実と異なる脚色は信用を損なうため避ける。
- 意思決定のスピード:大企業ほど稟議に時間がかかる分、スタートアップは小回りの利く体制を強みにできる。SNS上の反応に数時間〜1日で追加投稿を出せる体制を事前に用意しておく。
導入のハードルとしては、際どい表現を扱う場合にブランドイメージや取引先からの評価を損なうリスクがある点、そして拒否や炎上を前提にした戦略は結果をコントロールしにくい点が挙げられる。経営判断としては「失敗しても致命傷にならない範囲の予算・媒体」で試すことが前提になるだろう。ITリテラシーの面では、SNSの反応速度に合わせてクリエイティブを内製または即応できる外部パートナーを確保しておくことが鍵になる。
まとめ
Wet Onesの「Just For Hands」は、委託調査で得た意外なインサイトを起点に、地下鉄当局の拒否という“逆風”をPRの材料に変え、数時間単位のスピードで話題を継続させた事例だった。大企業の広告予算をそのまま真似ることはできなくても、インサイトの発掘・摩擦の素材化・即応体制という3つの構造は、日本のスタートアップやアグリテック企業にも応用できる余地がある。あなたの現場では、顧客の「意外な使い方」や規制とのせめぎ合いを、どうやって発信の材料にできそうですか。あなたの現場の声を、記事下のアグリコメで聞かせてください。
現場で使える!専門用語ミニ辞書
- OOH(屋外広告・Out of Home)
- 看板やデジタルサイネージなど、家庭外で消費者に接触する広告手法全般を指す。認知拡大の初期施策として検討される指標。
- インサイト
- 調査やデータから見えてくる、消費者自身も意識していない本音や行動の背景を指す。商品企画や訴求軸を決める際の出発点として使われる。
- LinkNYC
- ニューヨーク市内に設置された公衆Wi-Fiキオスクで、デジタル広告の掲出面としても使われる。街頭メディアの一例として覚えておくとよい。
- MTA(Metropolitan Transportation Authority)
- ニューヨークの交通機関を運営する公的機関。広告掲出の審査権限を持ち、表現内容によっては出稿を拒否することがある。
- アーンドメディア
- 広告費を払わずに、報道や口コミ、SNS拡散によって得られる露出を指す。PR戦略の成果指標として用いられる。
- クリエイティブ
- 広告の表現物(コピーやビジュアルなど)そのものを指す業界用語。制作・差し替えのスピードが議論される際によく使われる。
参考
Campaign Trail: Wet Ones puts ‘hand butts’ on the streets(Marketing Dive)
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アグリコメ 1
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