TECHNICAL MANUAL — 営農技術解説

水稲の食味・品質を守る収穫と乾燥

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PRE-CHECK

事前チェック

読む前に、今の判断を確かめます。すでに判断できる場合は、判断演習へ進めます。

  1. Q1/2

    玄米の胴割れが発生する主な機構として正しい説明はどれか。

  2. Q2/2

    前提ユニット(調製・乾燥・貯蔵の管理基準)の考え方として最も適切なものはどれか。

この章で学ぶこと(学習目標)

この章を終えると、次のことができるようになります。

  • 水稲の収穫適期を、出穂後日数・積算気温・籾の黄化率から判断できる
  • 刈り遅れ・刈り遅れによる胴割れや過乾燥を防ぐための収穫・乾燥条件を設定できる
  • 乾燥機の張り込み量と温度設定の考え方を理解し、品質低下のリスクを説明できる

所要時間の目安: 60〜75分

結論

水稲の食味・品質を守る収穫・乾燥の判断は、次の順で行う。

  1. 刈取適期の判断を最優先する: 出穂後の積算気温と籾の黄化率 (地域品種の基準値は都道府県の基準で確認) で適期を見極める。早刈りは青未熟粒・胴割れ米の増加、遅刈りは胴割れ・過熟による食味低下につながる。
  2. 水分の高い籾から優先して刈る: 圃場・品種間で登熟のばらつきがある場合、水分の高い区画を先に収穫し、刈り遅れによる品質劣化を避ける。
  3. 収穫時の籾水分を記録する: 乾燥前の水分がその後の乾燥条件 (温度・時間) を決める出発点になる。
  4. 乾燥は緩やかな温度で行い、急激な水分変化を避ける: 高温・急速乾燥は胴割れ・食味低下の主因となるため、張り込み量と温度を抑える。
  5. 仕上がり水分を基準値内に収める: 高水分は貯蔵中のカビ・変質リスク、低水分 (過乾燥) は胴割れ・食味低下につながる。基準値は前提ユニット (phase5-storage) の管理基準に従う。

原理: なぜ収穫・乾燥が食味と品質を左右するのか

登熟と籾水分の関係

出穂後、籾の中では胚乳へのデンプン蓄積が進み、水分は時間とともに低下していく。デンプンの蓄積が十分に進んだ段階で刈り取ることで、整粒歩合が高く食味の良い米になる。登熟は気温の影響を強く受けるため、暦日数だけでなく出穂後の積算気温を併用して適期を推定する。登熟期の高温は、玄米の白濁 (白未熟粒) や充実不足の原因となることが知られている。

胴割れの発生機構

胴割れは、玄米内部の水分が急激に変化することで組織に亀裂が生じる現象である。主な要因は次の2つである。

  • 刈り遅れによる籾水分の低下と再吸湿: 刈り遅れた籾は日中に乾き、夜露や降雨で再び水分を吸うことを繰り返し、内部にひずみが生じやすくなる。
  • 急速乾燥: 乾燥機で高温・短時間の乾燥を行うと、玄米表層と内部の水分差が大きくなり、組織に亀裂が入りやすくなる。

胴割れ米は搗精時に砕けやすく、歩留まりと外観品質の両方を落とすため、収穫適期の見極めと緩やかな乾燥が重要になる。

乾燥温度と食味成分の関係

高温での急速乾燥は、デンプンの糊化特性やタンパク質の変性に影響し、炊飯後の食味 (粘り・つや) を損なうことがある。乾燥は籾の呼吸・酵素活性を抑えつつ水分を均一に下げる操作であり、温度を抑え時間をかけることで、組織への負荷を減らし品質を保ちやすくなる。

張り込み量と乾燥ムラ

乾燥機の張り込み量が多すぎると、熱風が籾層全体に均一に行き渡らず、層の上下で水分差が生じる (乾燥ムラ)。ムラのある籾は、一部が過乾燥、一部が水分過多のまま出荷・貯蔵されることになり、品質のばらつきにつながる。機種ごとの適正張り込み量はメーカーの取扱説明書で確認する。

判断の実例

実例1: 出穂後の積算気温で刈取適期を判断する

状況: ある品種で出穂後の積算気温が、地域品種の基準値 (都道府県の基準で確認) に近づいている。圃場を巡回すると、穂の籾が黄化してきているが、一部の穂はまだ青みが残っている。

判断: 全体の黄化率が基準 (都道府県の指導基準を確認) に達した時点で刈取を開始する。一部青籾が残っていても、基準に達していれば刈り遅れによる胴割れリスクを優先して刈取に入る。

理由: 黄化率が低い段階で刈ると青未熟粒が増え、逆に全籾の完全な黄化を待つと刈り遅れとなり胴割れリスクが高まる。基準範囲内での刈取が整粒歩合と食味のバランスを取りやすい。

実例2: 圃場間で登熟差がある場合の刈取順序

状況: 同じ品種を異なる圃場で栽培しており、日当たりや移植時期の違いから登熟に1週間程度の差が生じている。

判断: 籾水分が高く適期に近い圃場から順に刈り取る。登熟が遅れている圃場は数日待ってから刈取を行う。

理由: 適期の圃場を後回しにすると刈り遅れが発生し、胴割れ・品質低下につながる。収穫作業の順序は、作業機の都合ではなく籾の状態を優先して決める。

実例3: 収穫時水分が高い籾の乾燥条件

状況: 降雨の合間に収穫したため、収穫時の籾水分が高めだった。

判断: 一度の乾燥で仕上げ水分まで下げず、低温での予備乾燥を挟んでから本乾燥に移る。急いで高温設定にすることは避ける。

理由: 水分の高い籾をいきなり高温で乾燥すると、内外の水分差が大きくなり胴割れが発生しやすい。段階的に水分を下げることで組織への負荷を抑えられる。

手順と判断基準

  • [ ] 出穂日を記録する: 圃場ごとに出穂日 (穂の約5割が出た日) を記録し、積算気温の起点とする
  • [ ] 出穂後の積算気温を追う: 地域品種の基準値 (都道府県の基準で確認) に近づいたら圃場巡回を増やす
  • [ ] 籾の黄化率を確認する: 基準の黄化率に達したら刈取を開始する (基準値は都道府県の指導機関で確認)
  • [ ] 収穫時の籾水分を測定・記録する: 圃場・品種ごとに記録し、乾燥条件の判断材料とする
  • [ ] 乾燥機の張り込み量を適正範囲に収める: メーカーの取扱説明書の範囲を超えないようにする
  • [ ] 乾燥温度を段階的に設定する: 収穫時水分が高いほど、低温での予備乾燥時間を長めに取る
  • [ ] 仕上がり水分を確認する: 前提ユニット (phase5-storage) の管理基準の範囲に収まっているか測定で確認する
  • [ ] 胴割れ粒の有無を抜き取りで確認する: 異常があれば乾燥条件・収穫時期を次作にフィードバックする

よくある失敗と対策

失敗

なぜまずいか

対策

黄化率を見ずに暦日数だけで刈取日を決める

年による気温差で登熟の進み方が変わり、早刈り・遅刈りの両方が起こりうる

出穂後積算気温と籾の黄化率を併用して判断する

刈り遅れを恐れて早刈りする

青未熟粒が増え、整粒歩合と食味が低下する

基準の黄化率に達するまで待ち、圃場巡回で進捗を確認する

収穫時水分の高い籾をいきなり高温乾燥する

内外の水分差が大きくなり胴割れが発生しやすい

低温での予備乾燥を挟み、段階的に水分を下げる

乾燥機に規定量以上を張り込む

熱風が均一に行き渡らず乾燥ムラが生じる

メーカーの取扱説明書の適正張り込み量を守る

仕上がり水分を測らず経験で乾燥を止める

過乾燥・水分過多のいずれも品質・貯蔵性に影響する

水分計で仕上がり水分を確認してから乾燥を終了する

まとめ(判断基準の再掲)

  1. 刈取適期は出穂後積算気温と籾の黄化率で判断し、暦日数だけに頼らない
  2. 登熟差がある場合は、籾水分の高い圃場・区画から優先して刈り取る
  3. 収穫時の籾水分を記録し、乾燥条件 (温度・予備乾燥の要否) の判断材料とする
  4. 乾燥は緩やかな温度で行い、急激な水分変化による胴割れを避ける
  5. 仕上がり水分は前提ユニットの管理基準内に収め、水分計で確認する

現場実践課題

自分の圃場で、出穂日から収穫までの登熟経過と乾燥条件を記録し、品質への影響を確認する。

記録項目

記録例

圃場名・品種

〇〇圃場・△△

出穂日

8月10日

刈取日

9月20日 (出穂後41日)

刈取時の籾の黄化率

約90%

収穫時籾水分

24%

乾燥方法 (予備乾燥の有無・温度設定)

予備乾燥あり、低温設定後に本乾燥

仕上がり水分

基準値内であることを水分計で確認

胴割れ粒の有無 (抜き取り確認)

抜き取り20粒中0粒

現場で使える!専門用語ミニ辞書

出穂(しゅっすい)
穂が葉鞘から抽出すること。登熟期間の起点として記録に用いる
登熟(とうじゅく)
出穂後、籾の中にデンプンが蓄積し玄米が充実していく過程
黄化率(おうかりつ)
穂の籾が緑色から黄色く変化した割合。刈取適期の目安の一つ
胴割れ(どうわれ)
玄米の内部に生じる亀裂。籾水分の急激な変化で発生しやすい
青未熟粒(あおみじゅくりゅう)
登熟が不十分で青みが残った未熟な米粒
白未熟粒(しろみじゅくりゅう)
登熟期の高温などにより玄米の一部が白く濁った米粒
張り込み量(はりこみりょう)
乾燥機に一度に投入する籾の量
予備乾燥(よびかんそう)
本乾燥の前に低温でゆるやかに水分を下げる工程

参考(一次情報)

  • 農林水産省「有機農業の推進に関する法律」及び関連通知
  • 有機JAS 規格 (有機農産物の日本農林規格)
  • みどりの食料システム戦略 (農林水産省)
  • 都道府県農業試験場・普及指導センターの水稲栽培基準・刈取適期指導資料
  • 農研機構 水稲の収穫・乾燥調製に関する技術資料
  • 気象庁 大気中の二酸化炭素濃度の観測データ

EXERCISE

判断演習

本文の判断基準を使って答えてください。回答すると、選択肢ごとの理由が表示されます。

  1. Q1/2

    ある圃場で出穂後の積算気温が地域品種の基準値に近づいている。巡回したところ、穂全体の黄化率は基準に達しているが、一部の穂にはまだ青みが残っている籾がある。

    この状況で最も適切な判断はどれか。

  2. Q2/2

    降雨の合間を縫って水稲を収穫したところ、収穫時の籾水分が通常より高めであることが水分計で確認された。

    この籾を乾燥機にかける際、最も適切な判断はどれか。

学習状況を確認しています…

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