豪垂直農業、米国拡大の勝算
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垂直農業(建物内で照明と環境制御により作物を多段栽培する農法)の分野は、過去数年、米国で多くの企業が撤退や縮小に追い込まれた「淘汰の時代」を経験してきた。そうした中、2016年創業の豪州企業スタックドファームが、米国への本格進出を発表した。急拡大よりも段階的な検証を重視してきた同社の戦略は、資金調達競争で失速した先行企業とは一線を画す。背景には、垂直農業特有の高コスト体質という業界共通の課題がある。導入コストの壁や採算性の見通しは、国内でスマート農業・植物工場への参入を検討する事業者にとっても他人事ではない論点だ。
10年かけた「段階的拡大」という選択
創業者でCEOのダニエル・ツベトコフ氏は、米国の多くの先行事業者について次のように振り返る。「VCから多額の資金を調達し、できる限り大きく拡大して、問題は後で解決しようという考え方だった」。これに対しスタックドファーム(VC=ベンチャーキャピタル。未上場企業に出資する投資家を指す)は、設立当初から異なる方針を取った。
「大規模施設を建てる前に、段階を踏んで拡大し、すべてがうまく機能することを確認しなければならない」とツベトコフ氏は説明する。同社はまず、労働コストとエネルギーコストが世界でも特に高い豪州市場で事業を成立させることを目指した。「最も厳しい市場で実証し、それから世界展開する、というのが当初からの方針だった」という。
技術を自社で開発する理由
スタックドファームは、照明、自動化システム、栽培手法(クロップレシピ)まで、運営に関わる要素をすべて自社開発している。さらに施設の製造・組立・試運転・建設も自社で行い、他社向けに施設を建てる事業は行わない。「自分たちで所有し、運営する」ことに徹しているのが特徴だ。
植物科学者とエンジニアが同じ組織に属することが最大の強みだとツベトコフ氏は語る。特に垂直農業で長年課題とされてきたエネルギー効率について、自社開発の照明は市販品より発熱が少なく、その結果HVAC(冷暖房・換気・除湿を担う空調設備)の規模を抑えられるという。「このHVACの最適化こそ、10年の大半を費やして磨いてきた部分だ」としている。
米国展開の具体的な計画
南カリフォルニアに建設予定の大規模施設は、豪州の既存施設のレシピ・運用システム・自動化要素をそのまま再現する計画だ。カリフォルニア州を選んだ理由として、同州が米国のレタス・ハーブ生産をけん引する州であることを挙げている。
項目 | 内容 |
|---|---|
南カリフォルニア施設 | 2028年稼働予定 |
米国内の展開ペース | 年2施設の開設を計画 |
用地確保を進める州 | ジョージア州・ペンシルベニア州・テキサス州 |
ラスベガス拠点 | 今月開設した研究・顧客体験施設 |
米国内の営業体制 | 現地営業チームを約3年間配置済み |
「デリスキング」という発想
今月開設したラスベガスの施設は、豪州で培った手法と同じモデルに基づく研究・顧客体験拠点で、大規模施設を開く前の「デリスキング(事業化前にリスク要因を洗い出し、潜在的な問題をあらかじめ低減させる取り組み)」を目的としている。
「大規模施設を建ててから、顧客に製品を承認してもらったり最適化したりすることはできない」とツベトコフ氏は指摘する。多くの先行する垂直農業事業者が、販売は後から付いてくると考えて施設を建設したものの、実際には営業の商談プロセスが長期化し、想定が外れたという。
この反省を踏まえ、スタックドファームはカリフォルニアのGreat West Produce、ネバダ州のLagudi Fresh Food Group、小売流通のMana Foodsと長期供給契約を既に結んでいる。「顧客が確保され、製品に満足している状態を作ってから、初めて施設の扉を開ける。今は施設オープン前の製品承認がすべてだ」(ツベトコフ氏)。
国内のアグリテック事業者が参考にできる点
スタックドファームの事例は、日本のアグリテック・スタートアップや農業ベンチャーが植物工場や垂直農業に参入・拡大する際の判断材料になり得る。具体的には次の3点が示唆的だ。
- 段階的な検証を先行させる:大規模投資の前に、小規模施設で栽培レシピ・運用システムを確立し、再現性を確認してから拡大する考え方は、資金力に限りがある国内ベンチャーにも応用しやすい。
- エネルギーコストの最適化を内製化する:照明や空調の自社開発には相応の技術投資が必要だが、電気代の高い日本市場では、HVAC負荷の低減がランニングコストに直結する可能性がある。
- 販売契約を先に固める:原文で示された通り、スタックドファームは施設稼働前に小売・流通との長期契約を確保した。生産能力が先行し販路が後追いになりがちな国内事例への教訓となり得る。
ただし、これらはいずれも原文で確認できる事実に基づく応用の視点であり、日本での再現性や投資回収期間を保証するものではない。経営体力やITリテラシー、電力単価など前提条件が異なれば、同じ手法が通用するとは限らない点には留意が必要だ。
まとめ
スタックドファームの米国進出は、資金調達の規模を競うのではなく、豪州という高コスト市場で技術と事業モデルを検証してから展開するという、時間をかけた戦略に基づいている。南カリフォルニア施設の稼働は2028年を予定し、年2施設のペースでの拡大と、販路の事前確保が計画の柱となっている。日本の農業ベンチャーが植物工場や垂直農業への投資を検討する際も、技術面・経済性・販路確保の3点をどの順序で固めるかが、事業の持続性を左右するポイントになりそうだ。
あなたの現場では、設備投資と販路確保、どちらを先に固めるべきだと考えますか。あなたの現場の声を、記事下のアグリコメで聞かせてください。
現場で使える!専門用語ミニ辞書
- 垂直農業(バーティカルファーミング)
- 建物内で棚を多段に積み、照明や空調で環境を制御しながら作物を栽培する農法。土地面積あたりの収量を高められる一方、エネルギーコストが課題とされる。
- VC(ベンチャーキャピタル)
- 成長が見込まれる未上場企業に出資する投資家・投資会社のこと。資金調達のスピードを優先すると、事業検証より先に規模拡大を進めてしまうリスクがある。
- クロップレシピ
- 作物ごとに最適化した栽培条件(照明・温湿度・養液管理など)の設定一式を指す現場用語。施設間で再現する際の設計図のような役割を持つ。
- HVAC
- 暖房(Heating)・換気(Ventilation)・空調(Air Conditioning)の略で、施設内の温度・湿度を管理する設備全般を指す。垂直農業ではコスト構造の大きな部分を占める。
- デリスキング
- 事業を本格展開する前に、技術面・販売面などのリスク要因を洗い出し、あらかじめ低減させておく取り組み。小規模な検証施設の運用などが代表例。
参考
Stacked Farm outlines the long game for vertical farming ahead of US expansion(agfundernews.com)
参考
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アグリコメ 1
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編集部ノウカラ編集部
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