アグリテック提携、独占は罠

本サイトはアフィリエイトプログラムに参加しており、記事内のリンク経由で商品やサービスが購入された場合、運営者が報酬を受け取ることがあります。掲載内容は公開情報をもとに独自に構成しています。

大手企業との提携は、資金繰りに悩むアグリテック・スタートアップにとって「命綱」に見えることがある。しかし、ドイツの家族経営投資会社Aleph Eins Capitalでマネージングディレクターを務めるジョージ・ビルキス氏は、安易な独占契約や終わりのない実証実験(パイロット)契約が、かえって企業の資金調達能力を奪いかねないと警鐘を鳴らす。種子大手KWSでM&Aを担当してきた同氏の指摘は、規模拡大を目指す日本の農業ベンチャーにとっても他人事ではない。コストの壁や人手不足の中で大手との連携を模索する現場にとって、どこまで条件を受け入れるべきかは判断が分かれる論点だ。

公式サイトを見る

Aleph Eins Capitalとは何者か

Aleph Eins Capitalは、英国最大級の野菜・穀物生産者であり、英国最大の農薬・肥料ディストリビューターでもある一族が背景にある投資会社だ。英国最大規模の貯水池建設も手掛けるなど、農業分野で世代を超えた資産を持つ。

同社の投資は主に3つの柱で構成される。

  • バイアウト投資:企業価値200〜300億円(2.21〜3.32億ドル)規模の農業・化学・水・エネルギー企業の支配株を取得。シンジケートで出資者を募りつつ、自社は通常のGP-LP関係(出資比率5%程度)より高い30%の持分を保持する
  • 自社事業開発:保有する農地のうち露地栽培に不向きな土地を活用し、バイオ炭プラントや合成ガスプラント、環境制御型農業(CEA)の案件を展開
  • ファンド出資:比率は小さいが一部のファンドにも出資

設立から約1年で、種子会社の買収交渉やサステナビリティを軸とした化学会社との協議を進めているという。

「終わらないパイロット」の罠

ビルキス氏が最も強く警告するのが、大手企業との実証実験が延々と続き、商業契約に結びつかない「パイロット・トゥ・ノーウェア」だ。

「パイロットは必ず具体的な購入に結びつけなければならない。そうでなければ、資源と時間を無駄にするだけだ。組織内の本当の意思決定者にたどり着き、成果が出れば自動的に購入される仕組みを作る必要がある」

商業化の道筋が見えないまま提携を続けることは「片思いの恋愛」と同じだと同氏は例える。相手が本気で望んでいなければ、どれだけ努力しても時間を奪われるだけだというのが現場感覚だ。

独占契約とROFRは「毒薬」

大手企業からの独占契約(エクスクルーシビティ)の要求については、ビルキス氏は明確に「ノー」と答えるべきだと述べる。独占契約を結べば、唯一の顧客に縛られることになり、次の投資家から「出口がない企業」とみなされ、資金調達が困難になるためだ。

優先交渉権(ROFR:Right of First Refusal)についても「最悪の条件の一つ」とし、将来の資金調達や出口戦略を制約するため、提示されても受けるべきではないと強調する。

良い提携と悪い提携の違い

項目

避けるべき条件

望ましい条件

パイロット

購入条件が不明確で延々と継続

成果が出れば自動的に購入が発動

独占性

一社のみに販売先を限定される

複数顧客への販売余地を確保

優先交渉権

将来の資金調達・出口を制約

条件を付けずに資金提供

評価額

独占条件により評価額に上限が付く

公正な評価額での出資

投資家から見た「投資しやすい分野」

ビルキス氏は、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC:事業会社による出資部門)からの資金調達では、契約条件が次の資金調達ラウンドや商業化、出口でどう効いてくるかを理解することが重要だと述べる。業界全体では、評価額の調整や「ゾンビ企業」(事業継続が困難なまま延命している企業)の整理が進み、CropXの一連の買収事例のように、技術が他社に吸収される形での再編が増えているという。

投資対象として同氏が特に注目するのが精密農業(センサーなどで圃場を区画ごとに管理する手法)分野だ。資金調達環境の悪化でダウンラウンドとなった企業の中には、技術成熟度レベル(TRL:技術がどれだけ実用化に近いかを示す指標、TRL10が完全実用化)の高い企業が割安な評価額で存在するといい、こうした企業を買収・統合して育てる手法が有効だとみる。また、非化学的な除草ロボットなど農業ロボティクス分野は農家の受容度が高まっており、乾燥耐性を持たせる種子コーティング技術にも関心を寄せている。

まとめ

ビルキス氏の指摘は、大手との提携を資金源として考えがちな農業スタートアップに対し、契約条件を具体的な商業化・購入義務と結びつける重要性を示している。日本のアグリテック企業や農業ベンチャーが規模拡大のために大手企業や商社と提携する場面でも、独占条項や優先交渉権といった条件が将来の資金調達や事業成長の足かせにならないか、契約前に精査する視点が求められる。特に経営体力が小さい段階では、短期的な資金や販路の魅力に引かれやすいが、長期的な資本政策との整合性を経営・ITリテラシー双方の視点で確認する必要がある。原文で示された数値や事例の範囲を超えた判断は避けつつ、自社の交渉力や代替選択肢を事前に整理しておくことが、提携交渉を優位に進める前提条件になるだろう。

あなたの現場では、大手企業との提携条件をどこまで精査していますか。あなたの現場の声を、記事下のアグリコメで聞かせてください。

公式サイトを見る

現場で使える!専門用語ミニ辞書

CVC(シーブイシー・コーポレートベンチャーキャピタル)
事業会社が自社の戦略目的のために行うベンチャー投資部門のこと。スタートアップにとっては資金に加え販路や技術連携も期待できるが、条件次第で自由度が制約される点に注意が必要な出資形態。
TRL(ティーアールエル・技術成熟度レベル)
技術がどれだけ実用化・商業化に近いかを9〜10段階で示す指標。投資家が技術の実用段階を判断する目安として使う。
ROFR(優先交渉権)
既存の出資者や取引先が、将来の株式売却や取引の際に優先的に交渉できる権利。将来の資金調達や出口戦略を制約しうるため慎重な判断が必要な条項。
GP/LP(ジーピー・エルピー)
ファンド運営者(GP)と出資者(LP)の関係を示す用語。一般的な取り分の目安として語られる出資比率の構造を理解する指標。
ゾンビ企業
事業の継続性が乏しいまま資金供給で延命している企業を指す言葉。投資ポートフォリオの整理局面でよく使われる表現。

参考

Beware 'pilots to nowhere': Aleph Eins Capital on avoiding corporate agtech traps(AgFunderNews)

アグリコメ 1

現場のプロの視点で、この記事への意見や経験を共有しましょう。

コメントの投稿と「現場でそう思う」は無料会員限定です。LINE なら1タップで登録できます。

  • 編集部ノウカラ編集部

    【編集部より】皆さんの現場では、大手企業や商社との提携・実証実験でどんな条件を提示されましたか?独占契約や優先交渉権で悩んだ経験があれば、業界や品目もあわせて教えてください。

NOUKARA TOOLS

経営の次の一手を、数字で確かめる。

製品ファインダーアグリテック製品32件を、カテゴリ・規模・価格帯から比較できます使ってみる →すべてのツールを見る →
← 記事一覧へ戻る