穀物大手、再生農業に共同投資
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再生農業(化学肥料や耕起を減らし土壁の健康を回復させながら営農する手法)への転換は、新たな機械や被覆作物の導入、輪作体系の見直しなど、初期投資がかさむことが長年の課題だった。費用は農家が自己負担するか、企業の「インセッティング」(サプライチェーン内で自社の排出量削減に取り組む仕組み)プログラムに頼るしかなく、支援が十分でないケースも多かった。
マース傘下のペットフードブランド、ロイヤルカナンと、小麦など原料を供給するロケットは今回、第三者機関Soil Capitalとの連携により、両社が共同で農場に投資する新しい資金調達モデルを打ち出した。日本国内でも、資材高騰や人手不足のなかで環境負荷低減と経営の両立が求められており、「誰がコストを負担するか」という論点は規模拡大を目指す農業経営体にとっても他人事ではない。
何が新しいのか
今回の枠組みの核心は、異なる炭素算定方式を使う企業同士が、共通の農場データを基に連携できる点にある。ロイヤルカナンはペットフード業界で一般的な「経済配分(製品の経済的価値に応じて排出量を配分する方式)」を、ロケットは澱粉業界標準の「マスバランス配分(原料の物理的な投入・産出量に基づき配分する方式)」を採用しており、本来この2方式の数値は単純比較できない。
Soil Capitalは、両社の間に立ち、独立検証されたひとつの農場レベルデータセットを提供することで、二重計上を避けながら各社が従来の算定方式を維持できるようにした。農場データはすべてTÜV Rheinlandによる「ISO 14064-2」(温室効果ガス排出量の算定・検証に関する国際規格)の第三者検証を受けており、年次監査でその信頼性が担保されている。
2つの炭素算定方式の違い
項目 | ロイヤルカナン | ロケット |
|---|---|---|
採用する方式 | 経済配分 | マスバランス配分 |
主な業界 | ペットフード | 澱粉・穀物加工 |
課題 | 他方式と直接比較不可 | 他方式と直接比較不可 |
規模と資金の分配
このパートナーシップは、フランスの小麦産地にある60超の農場、4700ha以上を対象とする。転換によって得られた成果(貯留された炭素量など)は「Soil Capital Credits」というクレジットに変換され、その70%が農家に還元される仕組みだ。残りは企業側の投資回収や制度運営に充てられるとみられる。
- 対象農場数:60カ所以上
- 対象面積:4700ha以上(フランスの小麦産地)
- 農家への還元率:クレジットの70%
- 検証機関:TÜV Rheinland(ISO 14064-2準拠)
規制対応という側面も
ロイヤルカナンのグローバル・サステナブル調達担当director、Luc Beerens氏は、この取り組みが欧州の規制対応にもつながると説明する。背景にあるのが、欧州初の政府主導による炭素除去認証制度「CRCF(Carbon Removals and Carbon Farming)」と、バリューチェーン全体の環境影響報告を企業に義務付ける「CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)」だ。両社は、今後他の企業とも同様の共同出資モデルを他の作物や地域に広げることを検討しているという。
規模拡大を目指す経営体への示唆
日本のアグリテック系スタートアップや規模拡大を志向する農業法人にとって、今回の事例が示すのは「環境対応コストをサプライチェーン全体で分担する」発想そのものだ。単独の農家や一企業が再生農業や環境認証の費用をすべて負担する構造では、導入が進みにくい。原料供給者と最終製品メーカーが共同でコストと便益を分け合うモデルは、国内でも加工業者・小売・生産者が連携した資金スキームを検討する際の参考になり得る。
ただし応用には前提がある。今回のケースはSoil Capitalのような第三者MRV(モニタリング・報告・検証)事業者が、異なる会計方式を橋渡しする役割を担っている点が肝であり、同様の仕組みを国内で構築するには、信頼できる検証機関や統一データ基盤への投資、ITリテラシーを備えた経営判断が不可欠だ。コスト・体制面のハードルを踏まえず「海外でうまくいったから」と安易に模倣すれば、データの信頼性や二重計上の問題に直面しかねない点には注意が必要だ。
まとめ
ロイヤルカナンとロケットは、Soil Capitalを介して仏の小麦農場60カ所・4700ha超を対象に再生農業への共同投資を始めた。異なる炭素算定方式を使う企業同士が同じ検証済みデータを共有し、農家にはクレジットの70%を還元する仕組みだ。欧州の新規制CRCF・CSRDへの対応という側面もあり、両社は他企業への拡大も模索している。国内の生産者や農業ベンチャーが、こうしたコスト分担型のモデルをどこまで自社の取引構造に取り入れられるか、考えてみる価値はあるだろう。あなたの現場の声を、記事下のアグリコメで聞かせてください。
現場で使える!専門用語ミニ辞書
- 再生農業(さいせいのうぎょう)
- 化学投入資材や耕起を減らし、土壌の健康や生物多様性を回復させながら営農する手法。環境負荷低減と生産性維持の両立を目指す指標として使われる。
- インセッティング
- 企業がサプライチェーン内(自社の原料調達先など)で排出量削減や炭素貯留に取り組み、自社の環境目標に算入する仕組み。外部のオフセットと区別して使われる。
- MRV(エムアールブイ・モニタリング・レポーティング・検証)
- 温室効果ガスの排出量や削減量を測定・報告・第三者検証する一連のプロセス。信頼できる環境データを担保する基盤として用いられる。
- ISO 14064-2
- 組織やプロジェクト単位の温室効果ガス削減・除去量の定量化と検証に関する国際規格。第三者機関の監査基準として現場で参照される。
- 経済配分
- 製品の経済的価値(売上比率など)に応じて、原料や工程全体の排出量を各製品に割り振る算定方式。
- マスバランス配分
- 原料の物理的な投入量・産出量の比率に基づいて排出量を配分する算定方式。澱粉・穀物加工業などで標準的に使われる。
- CRCF(シーアールシーエフ・炭素除去・炭素農業枠組み)
- 欧州連合が導入する、政府主導の炭素除去認証制度。農地での炭素貯留などを公的に認証する初の枠組みとされる。
- CSRD(コーポレート・サステナビリティ・レポーティング・ディレクティブ)
- 欧州企業に対し、バリューチェーン全体の環境・社会影響の報告を義務付けるEUの指令。
参考
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アグリコメ 1
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編集部ノウカラ編集部
【編集部より】再生農業や環境認証にかかる費用を誰がどう分担すべきか、現場の皆さんはどう感じていますか?地域や作目の実情もあわせて教えてください。